多十郎殉愛記』を手掛けた。主演には、「若手」と呼ぶのをためらうほどの気品と風格を漂わせる高良健吾が務め、すさまじい殺陣に男の情念を込めた。ヒロインには多部未華子、さらに高良演じる多十郎の腹違いの弟として、木村了が参加している。
『多十郎殉愛記』は幕末の京都を舞台に、長州を脱藩し、居酒屋「満つや」を切り盛りするおとよ(多部)の用心棒をする清川多十郎(高良)の物語。新撰組に押され気味の京都見廻組は、町方からの注進で多十郎の存在を知り、新撰組にひと泡ふかせようと多十郎を襲撃、死闘が繰り広げられる。
「殺陣の魅力を存分に知ってもらうこと」がコンセプトのちゃんばら映画ということもあり、高良と木村は1カ月半前から京都・太秦で立ち回りなどの稽古を懸命に重ねた。彼らにとって思い出の地でもある京都で昨年行われた「京都国際映画祭2018」にてインタビューを敢行、ふたりの口から幾度となくあふれ出たのは中島監督への愛と感謝、ユーモアの言葉だった。
――中島監督からお声がけされたときは、どのような気持ちでしたか?
高良 中島監督の現場を踏めること自体が幸せだし、もう運が良すぎるな、と。経験したくてもできるわけじゃないですし。しかも中島監督世代の人たちじゃない、僕たちと組んでくれることが、もう嬉しかったですね。
木村 僕にとっても、本当に夢のような時間でした。中島監督に演出をしていただけることも、その現場にいることも、同じ時間軸を過ごすことも、すごく濃い時間を過ごさせていただきました。毎日勉強させてもらいましたし、1日1日成長していく感じがあったというか……むしろ成長しないと追いつかないんです。作品の世界にどんどん入っていく感覚が、自分の中にはあって、それが成長と言うのかどうなのかはわからないですけど。
高良 うん、うん。
木村 その役を用意して演じるというよりは、本当にその世界に身を投じていく感じなんです。その場、その場の空気や相手の呼吸を感じたりして。
高良 何というか、本当に現場が育ててくれる感じだよね。教えてくれるのは大きいですね、やっぱり。時代劇をたくさんしている方たちですから、時代劇のプロだもんね。
木村 うん。
――京都の太秦で稽古や撮影できたことも、いい経験でしたか?
高良 やっぱりここで練習できたのが、大きかったかなと思うんですよね。東京ではなくて、通って稽古して、本番前にはがっつり稽古をするっていう時間はすごく大切だったし、必要だったと思います。大体1日5~6時間して、トータルで1カ月半ぐらい通ったのかな? 毎日ではないですけど。京都剣会の方たちに習うこと、東映の殺陣を覚えられることが大きかった気がします。
――多くの現場を踏まれているおふたりでも、特別な印象を持たれるような作品だったんですね。
高良 僕は、ひとつ、ひとつでしかないと思うんです。その中でも、中島監督の現場だっていう、……比べるわけではなく、それでもやっぱり経験したことのない感情を味わえた、すごい現場でした。
――いろいろエピソードもあると思うんですが……すごくニコニコされている高良さん、ぜひ教えてください。
高良 いえいえ(笑)。本当に中島監督がキュートな方で、(木村さんに向けて)名前、間違われてなかった? ちゃんと呼ばれてた? 俺、3人ぐらいいたんだけど(笑)。
木村 「ん?」っていうのは、1回あった(笑)。たぶんね、俺のこと「高良ちゃん」って呼んでたとき、あったよ。
高良 (笑)。
木村 「高良ちゃん、高良ちゃん」って言うから、(俺じゃないよな……)と思って見たら、俺に言っていたり、というのがあって(笑)。
――名前の呼び間違いがあったんですか、ほっこりしますね。高良さんだと思って呼ばれていた名前が3人もいたんですか?
高良 たぶん……(笑)。その方たちは、中島監督とご一緒されていた本当に大先輩で、その方の名前に間違われるなんて、逆にありがとうございます、という思いだったんですが。
木村 すごいね!
高良 でも、それは……僕が当時の話を「この人どうだったんですか?」とか、たくさん聞いていたからだとも思うんです。間違えてくれたからこそ、僕もまたもう1回、その方について調べてみようと思って、調べたり、もう1回学び直しをさせてもらえました。
――演出のお話などもたくさんあったと思うんですが、そのあたりは?
高良 僕が走って逃げるシーン、あるじゃないですか。そこでは、中島監督に「高良ちゃん、ここで“あっかんべー”して、1回止まって」と言われたんですね。台本には書いていなかったんですよ。あれは、しびれましたね。「していいんだ……!」と思いましたし 。しかも僕、あっかんべー、ってしたことない気がするんですよね。
木村 そうだね。ないね!
――かなりインパクトがあるシーンでした。
高良 インパクト、ありますよね。だから、あのシーンであっかんべーを作る監督、「すごい」と思ったんです。「この時代に、あっかんべーなのか」という頭がどうしてもあるから、自分からは絶対出ないんです。
木村 すごいなあ……。そういうト書き通りじゃないところ、いっぱいあったよね。
高良 うん、変わっていくしね。
木村 僕が衝撃だったのが、「その心情、撮れているから、ここもういらない」と言われた時かな。やっぱり、すごく見てくださっているからこそ、「このト書きは説明になっちゃう。いらない、こんなの」と、現場で本当に変わっていったんです。……あと、これは関係ないかもしれないんですけど、僕が多部さんとふたりで山道を逃げるシーンが結構けもの道だったんですね。かなり足元が悪くて、僕らでも歩くのに苦労する中、スタッフさんたちのほうを見たら監督がいないんですよ。「あれっ?」と思ったら、誰よりも早く登っていっていて(笑)。実際の年齢(※84歳)とは……。
高良 違う!
木村 サバ読んでるんじゃないかな、っていうぐらい(笑)。本当に、杖もいらないんじゃないかと思うぐらい、ササササっと登っていかれた姿は鮮明に覚えています。
――ちなみに、おふたりは完成作をご覧になりましたか?
木村 僕は、これからなんです。話をしていてもすごい楽しみで。高良くん、観たんでしょう? どうだった?
高良 観ました。シンプルさとクラシックさをすごく感じて……中島監督は元々、たくさん人を斬るとか、スピードをはなからこの映画に「いらない」としていて。そうじゃなくて、なぜ刀を抜くかとか、なぜここで斬るかとか、なぜここで闘うのか、ひとつひとつに監督は意図を持って、そこに精神をちゃんと持ってほしいとやっていたから、それがこの映画の良さというか、面白さなのかなと思いました。
「刀一振り一振り、本当は刀もすごく重いんだ。だから、あんなに振り回して人を斬れるわけがない。この一太刀一太刀に思いを込めたい」とおっしゃっていたんですよね。だから、殺陣とかアクションのもっと奥にある精神性。武士として、侍として、というのが、浪人だけど、すごく描かれている映画だなと思いました。だから、安心して観られた映画でしたね。
――本作で初共演となりました。お互い、共演前後のイメージなども教えてもらえますか?
木村 僕は高良くんって、天才肌というか……何て言ったらいいんだろう。芥川さんみたいな印象で……。
高良 陰と陽で言えば、陰っていうことだよね(笑)?
木村 陰(笑)。だけど、芥川さんみたいな天才肌っぽい人っていうか。さらに、読書家という情報を聞いていたので、それも相まって芥川さんっぽいイメージがありました。
木村 あとは僕、高良くんの舞台を1回観に行ったことがあるんです。そのときに、「ちゃんとそこにいることができる人」だと思いました。生でのお芝居は、当たり前ですけど、みんな演じようとするんだけど、高良くんに関しては、立っているだけでその役になっているんですよね。ストンと落ちるなと思ったので、そのイメージでした。
高良 僕は、木村くんのことを、おそらく10代のときから観ていました。最初の印象は、「この子、やんちゃだな」って。
木村 (笑)。
高良 でも実際、今回やってみて思ったのは、すごく心が広くて優しい人だと思いました。そこを僕、すごく尊敬しているんです。……ここで言うべきかはわからないですけど、やっぱり木村くんに守るものがあることが、絶対的にその人柄になっていて、画面にも映っていると思ったんです。守るものがある人の、画面に出たときの強さというか、大きさはあるんだな、と。それは、僕にはないから。守るものができた人たちの強さを知っているのは、やっぱりすごいなと思いました。
――高良さんの言葉を借りれば、木村さんはかつて「やんちゃ」だったそうですが、それについて最後に一言。
木村 やんちゃ……というか、バカだったのかな(笑)。
高良 (笑)。元気、とか。
木村 元気な子ではありましたよね。
高良 いいじゃないですか。元気な人が少なくなっていって、叩かれている時代になっているから。元気で許されていた時代に生きていてよかったね!
木村 よかった、本当に(笑)。(取材・文=赤山恭子、撮影=岩間辰徳)
映画『多十郎殉愛記』は、全国公開中。
監督:中島貞夫
配給:東映、よしもとクリエイティブ・エージェンシー
公式サイト:http://tajurou.official-movie.com/
(C)「多十郎殉愛記」製作委員会
※2022年12月29日時点のVOD配信情報です。