【ネタバレ】映画『ARGYLLE/アーガイル』ラストを解説!アーガイルの正体や『キングスマン』との繋がりは?徹底考察

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

マシュー・ボーン監督最新映画『ARGYLLE/アーガイル』のポストクレジットシーンの意味や、アーガイルの正体、『キングスマン』との繋がりなどを解説&考察!

『キック・アス』(2010年)、『キングスマン』シリーズで知られるマシュー・ボーン監督の痛快スパイ・アクション映画『ARGYLLE/アーガイル』(2023年)が、3月1日(金)より公開中だ。

ヘンリー・カヴィル、ブライス・ダラス・ハワード、サム・ロックウェル、ブライアン・クランストン、ジョン・シナといった豪華キャストに加えて、シンガーソングライターのデュア・リパも出演。スパイ小説のベストセラー作家が、謎の組織から命を狙われることになってしまう、予測不能のストーリーが展開する。

という訳で今回は、話題作『ARGYLLE/アーガイル』についてネタバレ解説していきましょう。

本記事ではポストクレジットシーンの意味や、アーガイルの正体、『キングスマン』との繋がりなどを考察します。

映画『ARGYLLE/アーガイル』(2023)あらすじ

凄腕エージェントのアーガイルが、謎のスパイ組織の正体に迫る大人気小説「アーガイル」。ハードなシリーズの作者エリー・コンウェイの素顔は、自宅で愛猫のアルフィーと過ごすのが至福の時という平和主義。だが、新作の物語が実在するスパイ組織の活動とまさかの一致でエリーの人生は大混乱に! 小説の続きをめぐって追われる身となった彼女の前に現れたのは、猫アレルギーのスパイ、エイダン。
果たして、出会うはずのなかった二人と一匹の危険なミッションの行方は……!?

※以下、映画『ARGYLLE/アーガイル』のネタバレを含みます

ストーリーをおさらい!
『ロング・キス・グッドナイト』との同趣のモチーフ、“記憶喪失の女性スパイ”

えてしてスパイ映画はそういうものだが、『ARGYLLE/アーガイル』は非常に複雑な構成を有した作品だ。二転三転どころか、四転五転。新しく提示された事実にビックリしている間もなく、さらに新しい事実が提示される。ストーリーを追うだけでお腹いっぱい。とりあえず、簡単に概要をまとめておこう。

①レイチェル・カイル(ブライス・ダラス・ハワード)はスパイ組織“ディビジョン”に所属して、同僚のエイダン(サム・ロックウェル)、キーラ(アリアナ・デボーズ)と共にスパイ活動に従事していた。

②だがディビジョンは組織ごと闇堕ちしてしまい、局長のリッター(ブライアン・クランストン)によって暗殺が命じられる。

③送り込まれた刺客ラグランジ(デュア・リパ)を返り討ちにして、レイチェル、エイダンは組織に追われる身であることを知る。

④組織を壊滅に追いやることができるマスター・キーのありかを、ディビジョンは必死に追っていた。レイチェルはあえて二重スパイのふりをして、ディビジョンに協力する。

⑤やがてレイチェルは、マスター・キーの捜索中に爆破事故によって大怪我を負い、記憶喪失となってしまう。

⑥局長のリッターとフォーゲラー博士(キャサリン・オハラ)は、彼女の記憶の奥底に眠っているであろうマスター・キーのありかを探るべく、自分たちは実の両親だと嘘を吹き込み、巧みにスパイ小説を書くように誘導。小説に書かれる“真実”を手がかりにしようとする。

⑦レイチェルはエリー・コンウェイとして新しい人生を歩み始め、人気スパイ小説「アーガイル」を執筆。彼女は創作のつもりでも、全ては彼女のスパイ時代に体験した事実だった。

⑧マスター・キーのありかに肉薄した5冊目の本を書き上げたタイミングで、用無しとなったレイチェルはディビジョンに命を狙われる。その窮地を救ったのは、かつての同僚であり、実は恋人のエイダンだった。

⑨やがてレイチェルは、エイダンの導きでCIA元副長官アルフィー(サミュエル・L・ジャクソン)と出会い、自分の正体を知らされる。

どこにでもいる普通の女性が、実は高度な訓練を受けたスパイだった……というストーリーを聞いて思い浮かべるのは、レニー・ハーリン監督の『ロング・キス・グッドナイト』(96)だろう。当時の最高額となる400万ドルの脚本料が支払われたことでも話題になった一作だ。

ロング・キス・グッドナイト』(1996)

8年以上前の記憶を失っている小学校教師サマンサ(ジーナ・デイヴィス)は、夫や娘に囲まれて幸せな日々を送っていた。だが次第にスパイ時代の記憶が蘇り、新たな冒険に駆り出されていく。サミュエル・L・ジャクソンが出演していたり、主人公がフィギュアスケートで敵を倒すシーンがあったりすることからも、『ARGYLLE/アーガイル』が『ロング・キス・グッドナイト』からインスパイアを受けていることは容易に想像できる。

根底にあるのは80年代アクション映画への賛歌

イギリス人がスパイ映画を撮るとなれば、どうしたって偉大な「007」シリーズを意識せざるを得ない。『キングスマン』(15)のアイディアは、パブで脚本家のマーク・ミラーと飲んでいたときに「007」の話をしたことから生まれた、とマシュー・ヴォーンは語っている。『ARGYLLE/アーガイル』もまた、シリアスなダニエル・クレイグ主演シリーズではなく、もっと昔の、おおらかなスパイ映画だった頃の「007」シリーズを下敷きにしている(アーガイル役のヘンリー・カヴィルは、かつてジェームズ・ボンドの候補として名前が挙がっていたこともある)。

だがマシュー・ヴォーンはこの映画を、『リーサル・ウェポン』(87)や『ダイ・ハード』(88年)のような80年代アクション映画への賛歌であるとも語っている。『ARGYLLE/アーガイル』というタイトルは、『ダイ・ハード』に登場する黒人運転手アーガイルにちなんで名付けられたもの。アクションとユーモアが高次元で絡み合った、最高のポップコーン・ムービーを目指したのだ。

そしてもうひとつ、この映画に大きな影響を与えた作品がある。ロバート・ゼメキス監督の『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(84)だ。小説家のジョーン(キャスリーン・ターナー)と冒険家のジャック(マイケル・ダグラス)が繰り広げる、ロマンたっぷりのアドベンチャー・ストーリー。翌年にはシリーズ第二弾『ナイルの宝石』(85)も製作されている。

ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』(1984)

マシュー・ヴォーンは、13歳のとき初めてのデートで『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』を観たという。そして、彼の子供たちもこの映画のファンだとコメントしている。

「娘たちは『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』が大好きだった。(パンデミックで)監禁されている間にそれを観たんだけど、そのとき私は世界がどれほど殺伐としているかを感じていたし、これからもっと殺伐としていくだろうと感じていた。悲しいことに、そうなってしまったけどね。私は“温かくて気持ちのいいハグを作ろう。暗い世界に一筋の光を”と思ったんだ」
引用元:collider.com

『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』は、“のっぴきならない事態にある女性が巻き込まれ、正体不明の男性がそのピンチを救い、やがて協力していく”という、典型的なロマンティック・アドベンチャーの “型”でつくられている。ケイリー・グラント&オードリー・ヘプバーン共演作『シャレード』(63)や、トム・クルーズ&キャメロン・ディアス共演作『ナイト&デイ』(10)もその系譜に連なる作品といえるだろう。『ARGYLLE/アーガイル』は現代的な意匠でコーティングされたスパイ映画だが、そのコアとなる部分は、非常に懐古的なモチーフで包まれているのである。

「古き良きものを新しい意匠でアップデートする」というコンセプトは、ビートルズの最新曲「Now and Then」を映画で使っていることにも顕著だ。1977年にジョン・レノンがデモで吹き込んだトラックを元に、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが歌と演奏を加えて、2023年にリリース。マシュー・ヴォーンにとっても、ロック・レジェンドのニュー・シングルを自分の映画で使うことになることは、予想もしない僥倖だったことだろう。この曲は、ビートルズの長年のプロデューサーであるジョージ・マーティンの息子・ジャイルズが開発していたもので、彼は『ARGYLLE/アーガイル』の音楽プロデューサーも務めていた。

「私は(ジャイルズと)一緒にいて、“ロマンティックな曲と呼べるものを探すのに、とても苦労しているんだ”と言ったら、彼は“ビートルズの新曲が聴きたいかい?”と言ってきた。ジャイルズはすごいユーモアのセンスを持っているから、“ああ、そうだな。何でもいいよ”って返したら、彼は“いや、僕は大真面目なんだ”って言ったんだよ。彼は新曲を私に聴かせてくれた。まるでレノンがこの映画を見たかのようだった。編集する必要もなく、ただ映像にフィットしていたんだ」
引用元:IMDB

ポストクレジットシーンの意味は?
MVU(マシュー・ヴォーン・ユニバース)の始まり

すでに『ARGYLLE/アーガイル』は、全3部作のフランチャイズになることが発表されている。2作目ではアーガイルがスパイになるまで、3作目では1作目の続きが描かれる予定だという。ポストクレジットシーンに登場したのは、若き日のアーガイル(ルイス・パートリッジ)なのだ。

……と書いてみたものの、正直何のこっちゃよく分からない。アーガイルとは、エリー・コンウェイがスパイ小説として生み出した架空のキャラクターであって、スパイ時代のレイチェルの姿を引き写した存在のはず。エンディングで「俺に質問はない?」とエリーに聞くヘンリー・カヴィルは、一体何者なのだろうか?

マシュー・ヴォーンはこのことについて、インタビューでかなり赤裸々に明かしている。

インタビュアー:「特にエンディングについてお聞きしたい。ヘンリー・カヴィルが面白い髪型をしていることが明らかになりましたね。あれが何なのか、続編につながるものなのか、それともただ放り込んでおいて、後でわかることなのか、わかっているのでしょうか?」

マシュー・ヴォーン:「100%わかっています。あのキャラクター、あれこそ真のアーガイルなのです」

インタビュアー:「それがオーブリー・アーガイルなのですか? ポストクレジットのシーンでバーで見たバージョンの?」

マシュー・ヴォーン:「若いバージョンだね。(中略)スパイになる前のアーガイルだ」

インタビュアー:「これは紛らわしい。あの若いアーガイルは、映画の最後に出てくるヘンリーの若いバージョンですか?」

マシュー・ヴォーン:「そうです」

引用元:collider.com

「あれこそ真のアーガイルなのです」ということは、彼はスパイ小説の架空の主人公ではなく、あの世界に“実在する”キャラクターということになる。しかも彼は若い頃に、キングスマンのバーに訪れているのだ。

実は、『ARGYLLE/アーガイル』が『キングスマン』と同一のユニバースであることは、映画の中で巧妙に示されていた。ロンドンに到着したエリーとエイダンが公園のベンチに座ると、テーブルにはステイツマンのラベルが貼られた缶ビールが置かれている。ステイツマンは、『キングスマン:ゴールデン・サークル』(17)に登場するアメリカのシークレットサービス。単なるイースターエッグかと思っていたら、映画として密接に関わっていたのだ。

キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)

もろもろ考えれば、真実はこういうことかもしれない。

①エリー・コンウェイは本当に普通の小説家で、最後のファン・ミーティングに出席していたエイダン、キーラ、アルフィーもスパイではない。

②彼女は読者を混乱させるため、自分がスパイ組織“ディビジョン”に所属するレイチェル・カイルである、という物語を作り上げた。

③だがアーガイルは実在するスパイで、キングスマンに所属するエージェントだった。

④彼女は何らかの方法で彼の活躍ぶりを知り、それを小説という形で発表していた。

⑤だから彼が最後に現れたとき、エリーは本当に驚いた表情を見せた。

⑥ポストクレジットシーンで示される「Argylle Book 1 The Movie, coming soon」とは、エリー・コンウェイが5巻まで書き上げた「アーガイル」シリーズの第1巻(彼がキングスマンのスパイになるまで)が映画化されることの予告。それが映画『ARGYLLE/アーガイル』の2作目となる。

『ARGYLLE/アーガイル』ユニバースは『キングスマン』ユニバースとクロスオーバーして、MCUならぬMVU(マシュー・ヴォーン・ユニバース)という形式で、新たな世界を見せていくことになるだろう。

マシュー・ヴォーンの大いなる挑戦はまだ始まったばかりだ。

 

※2024年3月1日時点の情報です。 

 

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS