永遠に僕のもの』が公開される。殺しという衝動に身をゆだね、残虐な行為を重ねながらも、無垢な瞳でほしいものを手に入れていく主人公のカルリートスを演じたのは、アルゼンチン出身の新鋭ロレンソ・フェロだ。
舞台は1971年のブエノスアイレス。17歳のカルリートス(ロレンソ)は、豪邸に侵入しては金品を盗む日々。薄々、彼の悪事に気づいた両親が心機一転と転校させるも、新しい学校で、カルリートスは裏社会に生きるラモン一家と知り合いになる。一家とともに大きな窃盗に精を出すカルリートスだったが、ある日、盗みに入った先で家主を撃ち殺してしまい、連続殺人への幕開けとなってしまう。
映画デビューにして初主演を飾ったロレンソ。劇中、妖しげな魅力をふりまくユニセックスなビジュアルについては、「まるでマリリン・モンロー」と例えられるほどで大きな注目が集まり、2018年に公開された本国では、NO.1の大ヒットを記録した。そんな彼にまつわる呼び名は、「ポスト・ティモシー・シャラメ」や「南米のレオナルド・ディカプリオ」といったもの。本人はどう思っているのか、来日したロレンソに聞いてみた。
ーー「黒い天使」と称される、実在の犯罪者を演じたわけですが、これまで彼の印象は?
ロレンソ アルゼンチンでは有名な人なんだけど、彼については知らなかったんだ。僕と同世代の若者の多くも、知らないと思う。だから映画の話があったときには、インターネットでまず調べたよ。映画の中のカルリートスは、実在の彼とはかなりかけ離れた人物になっていて、実際の彼はチャールズ・マンソンのようなロックスターの部分もありながら、犯罪もしているという人なんだよね。「世の中には、こんなクレイジーな人もいるんだよ」という、まるで証拠のような人で、彼は社会が作った枠組みを簡単に壊すことのできる人なんだ。みんな壊したいという部分はどこかしら持っているとは思うけど、自制がきいてやらないよね。でも彼は捕まる、死ぬとかを考えずにやってしまう。もしみんながやっていたら、社会はカオスになっていると思うけど。
――映画の中では、どう表現しようと思いましたか?
ロレンソ 彼自身は自分のことを「神の使い」と言っているんだ。自分が人殺しをしたら、神様は本当に天から降りてくるのか、とオーディションをされているように、自分が映画に出ているかのように、神様が監督かのように、常に神様が本当にいるのかどうかを試している。キリストのように、天に連れていってくれるのだろうか、とね。あと、ジェームズ・ディーンと、マーロン・ブランドの映画にすごく影響されていて、ラモンやカルリートスたちも映画の中で、彼らのそういう格好や歩き方を意識している。人にそういう印象を与えようと、すごく考えている人だと思った。
――当たり前ですけど、ロレンソさんとはかけ離れている人物ですよね。どう近づけていったんでしょうか?
ロレンソ もちろんすごく暗い部分はまったく違うけど、共通点は少なからずあると思う。カルリートスと僕との共通点は子供らしさというか、無邪気だったり、いたずら好き、人生を遊びととらえていること、周りの人の気を引こうとすること、「自分はこんなにできるんだぞ」って見せびらかしたりするところかな。
ロレンソ 映画の撮影の中では、たくさんのシーンが自分自身でなくてはいけなかったから、彼の演技をするのではなく、僕自身としてふるまう必要があった。自分自身でふるまったから、監督にカルリートス役としてキャストに選ばれたと思っているんだよね。この映画自体、もしかしたら複雑なテーマかもしれないけど、シンプルな形で示していると僕は思っている。暗い内容であっても、カラフルでクールな映画として描いているので、すごいブラックな色ではなくローズ色な映画に見えるはず。
――数々の盗みのシーンにおいて、カルリートスの目的は金銭が第一ではないところなんかも、その象徴だったように思います。
ロレンソ 彼は生きていると感じるために、アートのために盗んでいるようなものだよね。例えば、サッカーを愛する人はサッカーをしているときに「生きている」と感じるように、彼にとってお金は関係なく、盗むことを愛していたから、盗むときに一番「生きている」と感じていたんだと思う。
――彼のルックスも当時、騒がれた大きな要因ですよね。そのあたりについては、どう思いましたか?
ロレンソ 捕まったときに、彼は(チェーザレ・)ロンブローゾの理論を壊したと言われていて。つまり、それまで言われていた「犯罪を犯す人は貧しく、容姿に恵まれておらず、浅黒くて、耳がとがっていて、歯がない」というのを壊した、と。彼は、まあまあいい地区の出身で、いわゆる中流階級でお金も持っていた、裕福な家族の少年だった。だから、それまでのステレオタイプな犯人像を壊したんだ。それにより、人種差別が少しなくなったところもあるよね。スーツを着ていても、モデルであっても、犯罪を犯すことはできるんだな、と。
――ロレンソさんもビジュアルについて「ポスト・ティモシー・シャラメ」や「南米のレオナルド・ディカプリオ」と呼ばれているわけですが、率直にどう思いますか?
ロレンソ 「格好いい」と言われるのは僕自身、居心地がいいっていうのはちょっとあるかもしれないけど(笑)、外見は重要ではないんじゃない? すごく表面的なことだからね。僕がティモシーやディカプリオと言われることについては、いつもアメリカ人に比べられるんだなって思いがある。もちろん彼らはすごいアーティストで、ものすごく尊敬しているけど、常に比較される運命にあると感じているかな。
――こうして世界から注目を集めるようになったことを、少しは予想していましたか?
ロレンソ 撮影していたときは、名声についてはまったく想像していなかったかな。これからが大事だし、もしビジネスを選ぶことができるなら、もっと映画をやりたいと思っている。いろいろ世界も旅してみたいし、新しいこともやってみたいし、監督になって短編映画も作ってみたいし、いろいろ試してみたい! あまり考えて決めていたら楽しむことはできないんじゃないかなと思う。いつも同じことをやっているのが耐えられないところがあって、持っているものに満足できないところがあるから、本当だったらもっと、いまあるものに満足しなきゃいけないのかなって思うけどね。(取材・文=赤山恭子、撮影=映美)
映画『永遠に僕のもの』は2019年8月16日(金)より、渋谷シネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。
出演:ロレンソ・フェロ、チノ・ダリン、ダニエル・ファネゴ ほか
監督:ルイス・オルテガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/eiennibokunomono/
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