映画『劇場版 アーヤと魔女』の設定に隠された秘密とは?ジブリ初の3DCGアニメーション作品の制作背景は?ネタバレありで徹底解説!

アニメの風通しがもっと良くなりますように

ネジムラ89

ジブリ初の3DCGアニメーション作品『映画『劇場版 アーヤと魔女』に続編はある?原作との違いは?ネタバレありで徹底解説!

スタジオジブリが制作してきた長編作品の中でも一番の異色作品と言えるのが劇場版 アーヤと魔女』(2020)ではないでしょうか。制作体制や手法、発表方法に至るまでこれまでのジブリ作品でも初めてとなる試みに溢れた作品となっています。

劇場版 アーヤと魔女』(2020)あらすじ

幼い頃に赤髪の女性によって「子どもの家」に預けられた少女のアーヤ(声:平澤宏々路)は機転を利かせて身の回りの人間を自分の思う様に動かして、不自由なく暮らしていました。

それまでは誰にも引き取られない様に過ごしてきたアーヤでしたが、ある日子どもの家を訪れたベラ・ヤーガ(声:寺島しのぶ)とマンドレーク(声:豊川悦司)の二人の家に引き取れられることが決まってしまいます。

不満がるアーヤに対して、ベラ・ヤーガは実は自分は魔女だと明かし、アーヤに家の家事や自分の手伝いをさせるために引き取ったことを明かします。いざという時には逃げ出せばいいと考えるアーヤでしたが、“普通じゃない”家の作りやデーモンたちに監視されていることを知ります。

ベラ・ヤーガの使い魔であるトーマス(声:濱田岳)にも協力してもらい、アーヤはどうにか思い通りにできないかとベラ・ヤーガに対抗していくのだった。

※以下、本作のネタバレを含みます。

スタジオジブリでもどう異色の作品なのか?

ジブリ初の3DCGアニメーション作品

『劇場版 アーヤと魔女』はスタジオジブリとしては初めての全編3DCGで制作された長編作です。

ジブリの3DCGへの挑戦は本作の発表以前にもあり、三鷹の森ジブリ美術館併設の映画館「土星座」やジブリパークのジブリの大倉庫の映像展示室「オリヲン座」などで不定期上映されている短編アニメーション『毛虫のボロ』(2018)は当初3DCGで制作される予定でしたが、最終的には一部に用いられるのみで手描きのアニメーションがメインとなりました。

その一方で『ゲド戦記』(2006)や『コクリコ坂から』(2011)で監督を務めた宮﨑吾朗が2014年に3DCGアニメであるTVアニメ『山賊の娘ローニャ』の監督を務めます。本作のアニメーション制作は『シドニアの騎士』や『大雪海のカイナ』などでも知られるポリゴン・ピクチュアズ。そこでの経験もあってか、プロデューサーである鈴木敏夫氏から『アーヤと魔女』の企画を持ちかけられ、3DCGでの制作に臨む決断をしました。

当初はポリゴン・ピクチュアズ作品の特徴でもあるセルアニメーションのようなビジュアルのセルルックアニメーションでの制作も構想していたようですが、往年のピクサー映画のような日本では珍しい3D然としたビジュアルでの制作に臨んでいきました。

ジブリ作品でも久しぶりのテレビ放送での初解禁

そんな『アーヤと魔女』は長編作品でありながらも、初めて公にお披露目されたのはテレビでの放送でした。初放送となったのは2020年12月30日、NHK総合テレビにて初めて放送を果たします。

テレビ放送作品として公開されたジブリ制作の長編としては『海がきこえる』(1993)の様な前例はありましたが放送局がNHK総合テレビとなったのは今回が初めてです。

これはTVアニメ『山賊の娘ローニャ』がNHK BS プレミアムで放送されていたことにも連動していて、本作の放送に合わせて『山賊の娘ローニャ』の総集編も放送するなど、宮﨑吾朗作品を堪能できる年末プログラムとなっていました。

そして、翌年になり劇場公開が発表。当初は4月の劇場公開を予定していましたが、新型コロナウイルスの影響で8月まで公開延期となっています。

迅速な海外での配信展開!

実は劇場公開としては日本よりも海外の方が先行して実施されており、その点でもジブリ作品としては珍しい例となりました。北米での公開は2021年の2月3日から始まっていて、さらにはその数日後の2月5日には映像配信サービスであるHBO Max向けに配信がされています。新型コロナウイルスの流行下ゆえのスピード感でした。

実は魔女の娘だったアーヤ

そんな『劇場版 アーヤと魔女』は、アーヤが実の母親によって「子どもの家」に預けられてしまうところから物語が始まります。一見、育児放棄の様にも見えますが、母親の残した手紙からその理由が想像できます。

12人の魔女に追われる身となっていて、何年かかかるかもしれないものの、逃げ切ったらアーヤを迎えに来ることを伝えています。そこには愛があっての名前なのかは怪しいものですが“アヤツル”という自身の名付けた名前も添えられていました。

なぜ魔女に追われる身となったのか、12人の魔女とは何者なのか。はっきりしていないことも多いですが作中では魔法を使って追っ手を避けたりとアーヤの母親自身も魔女であることが分かる描写が登場しています。

そして作中の後半では12人の魔女に操られることを拒む意味深な母親のセリフが登場しています。母親はなんらかの不自由を拒んで、12人の魔女から逃げ出したのでしょう。

“アヤツル”という名前の秘密

“アヤツル”という名前は、周囲の人間を思い通りに動かしてしまうアーヤの才能を想像させる名前になっていますが、言葉だけを聞く分にはなかなかに奇抜な名前となっています。

この名前はもちろん日本版限定の名前なのですが、原作では「Earwig」という名前が選ばれています。この言葉には“人をたぶらかす”という意味と“ハサミムシ”という意味があります。

アヤツルという名前には後者のニュアンスが抜けてしまっていますが、実はアーヤの特徴的な二つで結んだ触覚の様な髪型はハサミムシを暗示したデザインにもなっています。

そして邦訳されてしまったことで損なわれてしまった「Earwig」という単語は、作中に登場する母親たちの所属するバンド名という形で引用されています。

母親が所属していたバンド「EARWIG」

母親が所属していたバンド“EARWIG”。そこには若かりし頃のベラ・ヤーガとマンドレークの姿もありました。二人が実は母親とは知り合いであったことから、もしかするとアーヤを連れ去ったのも、彼女がかつてバンド仲間の子どもだと分かっていた可能性もあるかもしれません。

しかもアーヤの母親とマンドレークは当時良い雰囲気だった描写も登場しています。もしかするとまったくその正体が不明のアーヤの父親がマンドレーク……ということもあり得るのかもしれません。

ちなみにこのバンドを組んでいるなどの過去の設定は原作にないアニメーションオリジナルの設定。作中の時代設定に合わせて70年代のロックを意識して制作されています。

演奏にはインドネシアのシンガーソングライター・シェリナ・ムナフがボーカルを務めた他、ギターにはGLIM SPANKYの亀本寛貴、ベースはMrs.GREEN APPLEの高野清宗、ドラムにはシシド・カフカ、そしてキーボードを武部が担当するという今作のためのスペシャルユニットが結成されている点でも本作では特に力の入った場面であったことが分かります。

『劇場版 アーヤと魔女』の続きはあるのか?

本作では最後にアーヤの母が意味深に登場するので、物語の続きがある様に感じられます。この物語に続きはあるのでしょうか。残念ながら「アーヤと魔女」の原作でも、映画で描かれている内容以降の物語は描かれていません。

原作を手がけたダイアナ・ウィン・ジョーンズは『ハウルの動く城』シリーズなども含めて多数のファンタジー小説を手がけてきた人物ですが、2011年に他界しています。そんなダイアナが肺癌での闘病中に執筆しており遺作となってしまったのがこの「アーヤと魔女」です。

原作のアーヤは、カスタードがマンドレークたちと暮らす現在の家を気味悪がって遊びにきてくれないのをどうにかしようとするところで終わっています。つまりカスタードや母親が家を訪れる結末はアニメーション版のオリジナルの展開です

この意味深な結末は、アーヤの物語がまだまだ続きそうな予感をさせてくれて、原作の「アーヤと魔女」の物語も含めてその先を想像させられます。残念ながらダイアナの描くアーヤのこの先の物語を知ることはできませんが、これからはアーヤの物語は本作品を観た人の中で続いていくのでしょう。

(C) 2020 NHK, NEP, Studio Ghibli

※2024年3月15日時点の情報です。

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS