11月6日に公開される『ミケランジェロ・プロジェクト』。
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ナチスが強奪した美術品の奪還に動く男達を描いた実話ベースの作品です。海外版DVDには日本語吹き替えも収録されていますが、ヒロインのケイト・ブランシェットの声をなんと、工藤静香が担当しています。
どうやら「美術品→絵画→絵画が趣味のタレント」、という流れで彼女が起用されたようです。日本で吹き替え版の劇場公開が行われるのかは未定ですが、彼女自身この作品が初めての吹き替えの仕事だったらしく、その演技ぶりが注目されます。
外国映画やアニメ映画で、俳優やお笑い芸人といったタレントが吹き替えをする事は、今や当たり前になりました。
そうした吹き替え版が作られる唯一にして最大の理由は、「宣伝」になるから。タレントを起用する事でマスコミ媒体で取り上げてもらえるし、タレント自身もゲスト出演する番組などで自発的に宣伝してくれる。多くの観客を呼びたい配給会社としてはこれ以上の効果はありません。
しかし、そうした吹き替え版は得てして非難の対象になります。かといって、ここで物議を醸した作品を挙げていてもキリがありません。なのでここはむしろ、「お?意外とイケてるのでは…」と思わせる、タレント吹き替え作品をご紹介します。
セリフの少なさと作品のパワーに救われた!?:『マッドマックス/怒りのデス・ロード』
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まずは、先日DVDが発売になったばかりの『マッドマックス/怒りのデス・ロード』。
主人公マックスの声をEXILEのAKIRAが務めたのを筆頭に、竹内力やプロレスラーの真壁刀義が参加したとあって、公開前は不安視する声が多かったですが、いざフタを開けたら非難は少なかったように思います。
というのも、タレントが吹き替えを担当したキャラクター全員に共通していたのは、喋るセリフが少なかったという事。特にマックスに至っては、ホントに主人公なのか?というぐらいのセリフの少なさでした。
棒読み感を引き起こしがちな長いセリフもあまりなかったのも、それほど違和感を感じなかった理由かもしれません。
もっと言えば、作品自体がパワフルかつスピーディーなのも手伝ってか、セリフに気を取られる余裕がなかったという見方もできると思います。
タレント吹き替え向きなジャンルの映画とは?
タレント吹き替えで多く非難を受けるのは、実在する俳優の声を担当した作品だと思います。
声に聞き覚えのあるタレントが海外の俳優の吹き替えを担当していると、どうしてもそのタレントの顔が浮かんでしまって違和感を感じ、作品に集中できなくなる、というケースがあります。
更に演技経験が少ないタレントだと、セリフに抑揚がなくなり、「演じている」のではなく「読んでいる」だけになってしまいます。
従ってタレント吹き替えが比較的向いているのは、アニメや人間以外のキャラクターが登場する作品といえます。ディズニーやジブリ作品で積極的にタレント吹き替えを行っているのは、宣伝効果はもちろんの事、二次元キャラクターゆえに違和感を感じさせにくくする狙いがあるのでしょう。
数あるアニメ作品の中で一つ紹介したいのが、『モンスターVSエイリアン』です。
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この作品ではタレントのベッキーが、謎の隕石と接触した事で巨大化してしまうヒロインのスーザン(ジャイノミカ)を演じていますが、巨大化した事で落ち込んだり、クライマックスで敵エイリアンの宇宙船内で大暴れする演技はサマになっています。
正直、ベッキーが声を当てていると知って観ても違和感は少ないです。
ちなみにこの作品ではバナナマンの日村勇紀もモンスター役として出演していますが、こちらもキャラクターのユーモラスな造形と日村のもっさりしたセリフ回しが合致しており、演技の稚拙さが感じられない好例となっています。
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人間以外のキャラクターが登場する作品では、アメコミのマーベルコミックを実写化した『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を推しましょう。アライグマのロケットの声を極楽とんぼの加藤浩次が、ロケットの相棒である植物型生命体のグルートを遠藤憲一が演じています。
ロケットの乱暴なセリフ回しを、“狂犬”でガラッパチなキャラの加藤が上手く演じています。一方のグルートは、終始「私はグルート」しか喋らない為、誰でも務まるのでは?感はありますが、
「その言葉しかないのでラッキーと思っていたが、その言葉で感情を出さないといけない。俳優よりも結構NGを出してしまい、苦労しました」
とエンケン本人が述懐するように、同じ言葉で多彩な感情表現を出せるベテラン俳優をという事で、結果的に良い人選だったと思います。
名コメディアンの名吹き替え!:『トッツィー』
タレントが吹き替えをするのは、今に始まった事ではありません。
以前はどのテレビ局でもゴールデンタイムに映画を放映しており、その際の吹き替えをタレントが務める事がよくありました。中にはタレントにとって黒歴史扱いされている物もありますが、思わぬハマリ物もありました。
1960~70年代を代表するコメディアンで、現在でも俳優として活躍する小松政夫(どういう人か知らない方は40代以上の人に聞いてみて下さい)。そんな彼が吹き替えを担当した作品に、1982年制作の『トッツィー』があります。
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ダスティン・ホフマン演じる売れない役者が、女装してテレビドラマのオーディションに臨んだところ合格してしまい、瞬く間に人気女性スターになっていくというコメディです。
この作品で小松の親分(という愛称で呼ばれていました)はホフマンの声を担当していますが、これがイイ具合のハマリぶり。
役柄上、女性の声色を出さねばならないのですが、変に誇張したオネェ口調にせず、よくいる中年女性のそれに合わせています。もちろん、普段の男声の上手さは言うまでもありません。この辺りは、コントなどで様々な役を演じてきたからこその名人芸といえるでしょう。
違和感がないのが逆に違和感:『チャイルド・プレイ/チャッキーの種』
お笑い芸人が吹き替えに起用されるケースの多くが、その時に“旬”かどうかが大きいです。従って、芸人自体のキャラクターと吹き替え作品のテイストが全然合っていない…なんて事はよくあるのですが、例外もあります。
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殺人鬼の魂が宿った人形のチャッキーが人を襲うというホラー映画『チャイルド・プレイ』シリーズの一本で、2004年制作の『チャッキーの種』。この作品ではなんと、山崎邦正(現・月亭方正)がチャッキーの声を担当しています。
これは、彼の持ちネタにチャッキーのモノマネがある事からの起用ですが、これが「普通に」上手いのです。普段からマネている分、実際に声を当てても違和感がないので、それが却って違和感を感じてしまいます。
持ちネタが吹き替えに活かされるという、お笑い芸人の起用としてはある意味、理想的なケースといえるかもしれません。
吹き替えは嫌いでも、タレントとその映画自体は嫌いにならないで
ここまでこの記事を読んだ方の中には、今回取り上げた作品について賛同できない方もいると思います。もちろん、日本語音声で聴くのなら、演技がうまい声優に委ねるのが一番です。
おそらく、自ら望んで吹き替えをやりたいと思うタレントはいないと思います。とあるお笑い芸人は、ある日いきなりマネージャーから吹き替えの仕事の話を聞かされ、よく分からないまま契約書にサインさせられたと語っています。従って、非難の矛先をタレントばかりに向けるのは少々酷というものです。
一番残念なのは、タレントが吹き替えに関わっているからという理由で、その作品自体に嫌悪感を示す事。それだけは避けたいもの。ここはひとつ、タレント吹き替え版は「“珍味”を味わう感覚」で臨んでみるのはどうでしょうか。
珍味は人によっては「美味」にも「苦味」にも感じるもの。どうしても苦味に感じるのならムリせず字幕版を楽しめばいいし、違和感を感じつつもそれほど不快でなければ、何度が口にするうちに耳が慣れて、セリフ回しの拙さ加減が逆に美味になる場合もあります。
自分に合った「珍味」を求め、タレント吹き替え版を突き詰めていくのも、また一興かもしれません。
アイキャッチ画像出典:http://www.totalsingersupport.com/7-tips-for-recording-studio-success/
※2021年5月14日時点のVOD配信情報です。