1月18日は北野武監督の誕生日です。1947年生まれなので69歳。僕にとって、監督の北野武より、コメディアンの『ビートたけし』の方が馴染みやすいです。ですから勝手ながらここでは『北野武さん』ではなく、たけしさんと呼ばせてもらいます。
たけしさんをテレビで知ったのは僕がまだ二十歳の学生だった頃。今から38年くらい前だったと思います。ツービートという漫才コンビのひとりで、タブーを超えた毒舌で人気を博し漫才ブームのきっかけを作ったのです。両手を股間にVの字型に当てがい、「コマネチ」と叫ぶギャクは当時かなり流行りました。
しばらくしてピンで活動を始めてからは、あっという間にテレビ界の寵児となり、コメディアン、俳優、司会者、歌手、そして監督と多彩な活動をするようになっていきました。凡人であればどっちつかずで中途半端な結果で終わることが多いのですが、たけしさんはそのいずれでも成功を収めています。特に俳優として注目されたのは大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』でした。本当に僕ら世代の憧れの的。スーパースターなんですよね。
たけしさんのすべてを語るには、僕のライターとしての力量では到底無理。ここではたけしさんの監督作品のほんの一部分についてだけを綴らせてもらうことにします。
観ておくべき北野武監督のベスト作品
『その男、凶暴につき 』(1989年)
たけしさんが一番初めに監督をした作品です。当初、監督を深作欣二さんが担当する予定でしたが、スケジュールの都合で、主演であるたけしさんが急遽引き受けることに。
「この映画で監督をやってなかったら今日まで映画監督をやってなかった」とのちに語ったように、本作で監督・北野武が誕生したのです。
徹底したハードな暴力描写は映画関係者の度肝を抜きました。この暴力描写は以後の監督作にも受け継がれ、たけしさん監督作の原点にもなっています。
『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)
監督作3番目となる作品。前作までの暴力描写から一転して、サーフィンに情熱を捧げる若者を主人公にした青春映画です。主人公が聾唖者という設定のため、セリフを話すのは脇役だけ。主役を演じた真木蔵人さんが演技だけで、サーフインと恋人のあいだで揺れ動く感情を表現しています。
背景を流れる久石譲さんの音楽とセリフの少ない描写が情感を高め、タイトルにある『静かな海』のイメージそのままの作品に仕上がっています。それでいて退屈さはなく、知らないうちに観る人を主人公の世界に引きずり込み、やがて訪れる悲しい結末に涙します。本作は第34回ブルーリボン賞 最優秀作品賞・監督賞を受賞しました。
同じような若者を主人公にした作品に、6作目の『キッズ・リターン』(1996年)があります。落ちこぼれ高校生2人がそれぞれボクシング、極道の道を目指し、やがて挫折して行く様を描いています。本作も第39回ブルーリボン賞 監督賞を受賞です。
『ソナチネ』(1993年)
監督4作目となる本作は沖縄を舞台にしています。沖縄の海を象徴するように、画面全体のトーンに青が頻繁に使われ、「キタノブルー」と呼ばれたその色使いはヨーロッパで高い評価を受けています。「キタニスト」として知られる北野映画ファンが世界的に誕生しました。
『HANA-BI 』(1998年)
監督7作目になる作品。1作目と同様、自ら刑事として主役を演じています。本作でヴェネツィア国際映画祭・グランプリ(金獅子賞)を受賞し、ほかにも数々の映画賞を受賞しました。たけしさんの代表作とも言える作品です。本作で受賞した映画賞を列記してみましょう。
ヨーロッパ映画賞 インターナショナル映画賞
ニューヨーク映画祭・ヨーロピアン・アカデミー賞「スクリーン・インターナショナル賞」
サンパウロ国際映画祭・批評家賞
オーストラリア映画批評家協会賞・外国作品賞
第53回毎日映画コンクール・日本映画優秀賞
報知映画賞 邦画部門・最優秀作品賞、最優秀監督賞
第41回ブルーリボン賞・作品賞、監督賞
第49回芸術選奨・文部大臣賞映画部門
第22回日本アカデミー賞
最優秀賞 – 音楽賞
優秀賞 – 作品賞/監督賞/脚本賞/主演男優賞/主演女優賞/助演男優賞/撮影賞/編集賞/照明賞/音響賞
第8回東京スポーツ映画大賞・作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞」
いや凄いものですね。
『座頭市』(2003年)
監督11作目あたる本作は初の時代劇です。勝新太郎の代表作である時代劇『座頭市シリーズ』を題材にしていますが、盲目の居合い抜きの名人という設定以外はまったく関連のないオリジナル作品に仕上がっています。
たけしさんが主役の『座頭市』を演じているのですが、殺陣捌きがすごく上手いです。以前、テレビ時代劇『浮浪雲』で殺陣を演じたのを観た事があるのですが、そのときも上手さに感動しました。
農民の田畑仕事や大工の作業にリズムをつけた独創的な音楽シーン。祭りのシーンでは大人数が下駄を履いたタップダンスを披露するなどミュージカル的な要素も取り入れたことで、時代劇の大御所俳優から苦言を呈したようですが、僕はこの作品は大好きですね。
本作では第60回ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞、第33回シッチェス・カタロニア国際映画祭 グランプリ、 第26回トロント国際映画祭 観客賞、第27回日本アカデミー賞 編集賞を受賞しています。
最新作はやくざのOBが大活躍?『龍三と七人の子分たち』
TAKESHIS’(2005年)、監督・ばんざい!(2007年)、アキレスと亀(2008年)、アウトレイジ(2010年)、アウトレイジ ビヨンド(2012年)とほぼ一年おきに映画を製作。そして最新作となるのが2015年に公開された『龍三と七人の子分たち』。
(C)2015『龍三と七人の子分たち』製作委員会
お得意の極道物なのですが、これまでのリアルな暴力描写とは違って、コメディ仕立て。引退した元ヤクザを演じている藤竜也さん、近藤正臣さん、中尾彬さん、品川徹さん、小野寺昭さんらがいい味を出しています。古株じじい軍団と若手軍団。新旧やくざのコミカルな対決が見物です。
まとめ
監督として数々の栄誉に輝いたたけしさん。暴力あり、青春あり、コメディあり、その作品群の中でも多彩な才能を発揮しています。これからも世界の北野武として、日本の誇りとして、どんどん活躍をお願いします。
たけしさん、お誕生日おめでとうございます。