巨匠スティーヴン・スピルバーグが、「ニッポンのために作った」と公言して創り上げたSF超大作『レディ・プレイヤー1』。仮想現実世界「オアシス」に隠された宝を巡って、とてつもないスケールの一大アドベンチャーが繰り広げられる。
80年代ポップカルチャーのエッセンスを凝縮したこの作品には、果たしてどんな「イースターエッグ」が隠されているのか?という訳で今回は、『レディ・プレイヤー1』をネタバレ解説していこう。
映画『レディ・プレイヤー1』あらすじ
時は2045年。地球はすっかり荒廃し、人類は仮想現実世界「オアシス」で現実逃避していた。そんなある日、オアシスの創設者ジェームズ・ハリデー(マーク・ライランス)の遺言が発表される。それは、オアシスの3つの謎を解いた者に全財産の56兆円とオアシスの所有権を与えるというものだった。世界中が熱狂する宝探しに、オハイオ州コロンバスに住む若者ウェイド・ワッツことガンター・パーシヴァル(タイ・シェリダン)も情熱を燃やしていた……。
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※以下、映画『レディ・プレイヤー1』のネタバレを含みます。
『 ウォー・ゲーム』から『シャイニング』に変更したスピルバーグの熱意
原作は、アーネスト・クラインが2011年に発表したSF小説『ゲームウォーズ』。アーネスト・クラインといえば、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズに登場するタイムマシン「デロリアン」を購入して、『ゴーストバスターズ』(1984)のステッカーを貼りまくったという、筋金入りのオタク。
この小説も当然のごとく、SF映画、コミック、ジャパニメーションの80’sポップカルチャーが横溢していた。だがこの作品を映画化するとなると、大量の作品の著作権問題をクリアしなくてはいけない。それはあまりにも困難に思われたが、ある男が映画化プロジェクトに参画することで、事態は大きく前進する。その男の名は、スティーヴン・スピルバーグ。
アーネスト・クラインと同じく80’sポップカルチャーをこよなく愛するスピルバーグは、『ゲームウォーズ』の監督に名乗りをあげる。この巨匠の圧倒的知名度&業界におけるコネクションを駆使して、著作権問題のおよそ80%をクリア。自分の作品に関わらずコロンビア・ピクチャーズから『未知との遭遇』(1977)の許可が下りなかったりしたのだが、スピルバーグは「自分の作品を『レディ・プレイヤー1』に詰め込みすぎると、批判の対象になる」とあまり気に留めなかった。
原作からの改変もいくつか行われた。最大の改変は、ジョン・バダム監督のSFサスペンス映画『 ウォー・ゲーム』(1983)だろう。原作では『 ウォー・ゲーム』の世界を舞台に、核戦争を阻止するためにプログラム対決をするというお話が書かれていたのだが、映画ではスタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980)に変更されている。
『レディ・プレイヤー1』を製作したワーナーが『シャイニング』の権利を持っていたことも要因だろうが、キューブリック映画をこよなく愛していたスピルバーグたっての希望だったことは、想像に難くない(スピルバーグはキューブリックの遺稿を元に、2001年に映画『A.I.』を発表しているくらいだ)。
舞台となるオーバールック・ホテルの内装から、双子の少女、237号室の幽霊、血のエレベーター、そして音楽まで忠実に再現。そのこだわりたるや、『シャイニング』の撮影に使われたイーストマンコダック・フィルムの粒状性にも気を配るほど!! あらゆる映画が縦横無尽に張り巡らされたイースターエッグの中でも、『シャイニング』はスピルバーグこだわりのセレクトだったのだ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『スター・ウォーズ』、『スーパーマン』…隠されたイースターエッグの一部を紹介!
『レディ・プレイヤー1』には、あるとあらゆるポップカルチャーが大量に引用されている。ゲームなら「スペースインベーダー「、「パックマン」、「ストリートファイター」、「モータルコンバット」、「HALO」etc。音楽ならヴァン・ヘイレン、マイケル・ジャクソン、プリンス、ティアーズ・フォー・フィアーズ、A-HA、ビージーズetcと、枚挙に暇がない。
もちろん、古今東西の映画からの引用も盛りだくさん。FILMAGA読者のために、今回は映画だけに絞ってイースターエッグを紹介しよう。もともとイースターエッグとは、パソコンのソフトウェア開発者がこっそり隠した機能やメッセージのこと。果たしてあなたは、『レディ・プレイヤー1』でいくつのイースターエッグを見つけられることができるだろうか?
あらかじめ断っておくが、ここで紹介するのはほんの一部。何度も見直して、あなた自身の目で探し出して欲しい。
『バットマン』
パーシヴァルがオアシスについて説明するオープニングで、大雪のなかエベレストの崖を登るバットマンが登場。レースシーンにも、1966年TVドラマ版のバットモービルを確認することができる。魅惑の星のナイトクラブでは、ジョーカー&ハーレイ・クインのカップルの姿も。
またパーシヴァルがオアシスのキャラクターたちに助けを求めるシーンでは、キャットウーマンの後ろ姿が確認できる。
『ロボコップ』
オープニングの「オアシス」説明シーンに、『ロボコップ』(1987)の主人公であるロボコップのアバターがいる。『ロボコップ』では、ロボット開発を進める都市計画「デルタシティ」が謳われていたが、その看板がレースシーンにちらっと見えたり。またエイチのガレージには、オムニ社が開発した治安維持用ロボット「ED-209」の姿も。
『エルム街の悪夢』
「オアシスいち危険な場所」と言われるセクター12 惑星ドゥームでの戦闘シーン。ここに、『エルム街の悪夢』(1984)の殺人鬼フレディ・クルーガーがいる。エイチにあっさりやられてしまうが……。
『13日の金曜日』
同じく惑星ドゥームでの戦闘シーンで、『13日の金曜日』(1980)の殺人鬼ジェイソンの姿も。フレディとジェイソンは、『フレディVSジェイソン』(2003)ですでに共演を果たしているが、『レディ・プレイヤー1』でまさかの再共演。
『イレイザー』
同じく惑星ドゥームでの戦闘シーンでは、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のアクション映画『イレイザー』(1996)に登場するハイテク兵器「レールガン」が登場。映画ではシュワちゃん × レールガンで無双状態!
『スター・トレックII カーンの逆襲』
ジェームズ・ハリデーの遺体が入っている棺は、『スター・トレックII カーンの逆襲』(1982)でスポックを宇宙葬するために納めた棺と同じもの。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
パーシヴァルがレースで使用するマシンは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)のデロリアン。タイムサーキットにはきちんと「2045年」と表示されている。アルテミスがパーシヴァルに「私はゴールするわよ、マクフライ君」というシーンがあるが、これは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公マーティ・マクフライのことをもじったもの。
また賞金を手に入れたパーシヴァルが、60秒間時間を戻すことができる「ゼメキスキューブ」を購入するシーンがあるが、これはタイムトラベルをテーマにした本作の監督ロバート・ゼメキスの名前に由来したもの。
さらにエイチのガレージで、パーシヴァルがアルテミス(オリヴィア・クック)とのデート用に服を選んでいるシーンでは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するゴールディ・ウィルソン市長の選挙ポスターが壁に貼ってあったりする。
ちなみに『レディ・プレイヤー1』の音楽を担当しているのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の有名なテーマを作曲したアラン・シルヴェストリだ。
『AKIRA』
アルテミスがレースで使用するマシンは、『AKIRA』(1988)に登場する金田のバイク。アメコミの『ワンダーウーマン』(2017)や、コメディドラマ『アメリカン・ヒーロー』(1981~1983)のロゴが貼られていることから察するに、彼女も相当なオタクのようだ。
『マッドマックス』
レースシーンには、『マッドマックス』(1979)に登場するマックスの愛車「V8 インターセプター」が発見できる。たくさんの車がいるのでちょっと判別しにくいが、トランクに巨大なタンクを搭載しているのがポイント。パージバルがアルテミスと会うために服を選んでいるシーンでは、1作目のポスターが壁に貼ってある。
『クリスティーン』
同じくレースシーンには、ジョン・カーペンター監督のホラー映画『クリスティーン』(1983)に登場する「赤い1958年型プリムス・フューリー」を発見できる。この呪われた車と一緒にレースするのはイヤだ…。
『ジュラシック・パーク』
スティーブン・スピルバーグ監督『ジュラシック・パーク』(1993)からは、レースの障害物として“恐竜の王様”ティラノサウルスが登場。
『ラスト・アクションヒーロー』
レース中にちらっと映画館の看板が見えるが、そこには『ジャック・スレイター3』という作品の文字が。これはアーノルド・シュワルツネッガー主演作『ラスト・アクションヒーロー』(1993)に登場する劇中映画からの引用。
『キングコング』
ティラノサウルスと並び、レースの障害物として立ちはだかるのが、『キングコング』(1933)に登場する怪獣キングコング。
『スター・ウォーズ』
パーシヴァルがレースに優勝したときに、ハリデーが「パダワン」と語りかけるが、これは『スター・ウォーズ』シリーズに登場する「修行中のジェダイ」のこと。
ソレント(ベン・メンデルソーン)がパーシヴァルを説得するシーンでは、
「ディフェンダーの船ならワープ航行できるぞ。ミレニアム・ファルコンも」
と語りかける。もちろんミレニアム・ファルコンとはハン・ソロの愛機だが、それを『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)でオーソン・クレニック長官を演じていたベン・メンデルソーンに喋らせるあたり、気が利いている。
また魅惑の星のナイトクラブに行く際、多くの宇宙船が画面に映るが、その中に反乱軍の戦闘機Xウイングの姿も。さらに『シャイニング』を上映している映画館には、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(1983)のポスターが貼られている。
パーシヴァルとアルテミスが椅子でイチャイチャしている最後のシーンでは、左隅にR2-D2の姿も!
『アイアン・ジャイアント』
エイチのガレージのシーンには、ブラッド・バード監督のアニメ映画『アイアン・ジャイアント』(1999)に登場する巨大ロボット、アイアン・ジャイアントがいる。クライマックスの最終決戦でも大活躍。
『スーパーマン』
エイチのガレージで、パーシヴァルはアルテミスに『スーパーマン』(1978)の話をする。
パーシヴァル「あと『スーパーマン』のセリフが好き。『戦争と平和』を読んで冒険物語だと思う人もいれば…」
アルテミス「ガムの包み紙の文字から宇宙の秘密を解く者も」
パーシヴァル「ルーサーの言葉」
またパーシヴァルがレースをクリアして有名人になったあと、アルテミスのアドバイスで変装するキャラクターは、スーツ姿にメガネのクラーク・ケント。ソレントのアバターも、クラーク・ケントを悪人面にしたかのようなキャラクターだ。
『ブレックファスト・クラブ 』
ハリデー記念館の内装は、ジョン・ヒューズ監督の青春映画『ブレックファスト・クラブ』(1985)に登場する図書館をモデルにしたもの。
『市民ケーン』
ハリデー記念館で、オアシス開設前のハリデーとモロー(サイモン・ペグ)の会話を観察するシーン。
「最大のヒントはここにある。(中略)キーラこそ“バラのつぼみ”」
とパーシヴァルが語るセリフの“バラのつぼみ”とは、世界的名作『市民ケーン』(1941)からの引用。新聞王チャールズ・フォスター・ケーンが死ぬ間際に残した言葉で、映画ではその意味を探り出そうと新聞記者が奔走する。
『宇宙戦争』
ソレントがアイロックに会いに行くシーンで、ソレントの頭上に何やらワーム状の不気味な機械が見えるが、これはスピルバーグ監督の『宇宙戦争』(2005)に登場する殺戮マシーン「トライポッド」。
『グレムリン 』
アイロックがオジュヴォックスの天球を取り出した箱は、スピルバーグも製作総指揮で参加している『グレムリン』(1984)で、モグワイが入っていた箱の形と一緒だ。
また最終決戦のシーンには、凶悪なツラをしたグレムリンの姿を拝むこともできる。
『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル 』
賞金を手に入れたパーシヴァルは「聖なる手榴弾」を購入するが、その形状はコメディ映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1975)に登場する手榴弾と同じもの。
『ビートルジュース』
ハリデー記念館に訪れたパーシヴァルに人だかりができてしまうシーン。彼を取り囲むアバターの中に、ティム・バートン監督『ビートルジュース』(1988)でマイケル・キートンが演じていたビートルジュースの姿が。
『エイリアン 』
ハリデー記念館で、アルテミスがパーシヴァルを連れ出すシーン。彼女はゲーム『モータルコンバット』に登場するキャラ“ゴロー”の姿をしているが、その胸部から現れる気色悪いモンスターは、『エイリアン』(1979)に登場するチェストバスターだ。
また魅惑の星のナイトクラブで、シクサーズ相手にアルテミスが手に取る武器は、主人公リプリーが使用していたM41Aパルスライフル。
『カクテル』
エイチのガレージで、パーシヴァルがアルテミスとのデート用に服を選んでいるシーンでは、「Cocktails & Dreams」と書かれたネオンの看板が。これはトム・クルーズ主演映画『カクテル』(1988)からの引用。
『ロード・オブ・ザ・リング』
魅惑の星のナイトクラブで、空中で踊っているキャラクターの中に、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)に登場する魔法使いガンダルフの姿が。踊り狂うガンダルフって、全くイメージにそぐわない気がするが……。
『コナン・ザ・グレート』
ナイトクラブの中には、『コナン・ザ・グレート』(1982)でアーノルド・シュワルツェネッガーが演じた主人公コナンの姿が。それにしてもこの『レディ・プレイヤー1』、シュワちゃん率がやたら高くないか?
『サタデー・ナイト・フィーバー』
ビージーズが1977年に発表したディスコナンバー『ステイン・アライブ』にのせて、パーシヴァルとアルテミスが踊るシーンは、ジョン・トラボルタ主演『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)の引用。
『エクスカリバー』
アイロックがオジュヴォックスの天球を起動する際に唱える呪文は、アーサー王の生涯を描いた作品『エクスカリバー』(1981)で使われたものと一緒。
『ブレードランナー』
まだ「オアシス」の中にいるソレントに「現実世界に戻ってきた」と錯覚させるため、パーシヴァルとトシロウことダイトウ(森崎ウィン)が一芝居うつシーン。
この時ダイトウの眼がオレンジ色に光るのは、『ブレードランナー』(1982)でレプリカントが同じように眼が光ることを引用している。つまり目の前にいる人物はリアルではなくアバターである、というヒントになっている訳だ。…いや、分からないっつーの!
『ミュータント・タートルズ』
最終決戦に結集したアバターの中に、『ミュータント・タートルズ』(1990)の面々が。
『トランスフォーマー』
同じく最終決戦のアバターの中に、『トランスフォーマー』(2007)のオプティマス・プライムの姿が。
『キャプテン・スーパーマーケット』
同じく最終決戦のアバターの中に鎧をまとった骸骨が現れるが、これは『キャプテン・スーパーマーケット』(1993)に登場する死霊軍団。
『スポーン』
同じく最終決戦のアバターの中に、『スポーン』(1997)に登場するアメコミヒーローのスポーンの姿が。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』
同じく最終決戦のアバターの中に、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)に登場する悪役キャラ、プロキシマ・ミッドナイトの姿が。
『チャイルド・プレイ』
同じく最終決戦のアバターの中に、『チャイルド・プレイ』(1988)でおなじみの殺人人形チャッキーの姿が。ナイフ片手に大暴れ!
『機動戦士ガンダム』
最終決戦でダイトウが乗り込むのは、我らがガンダム!機動戦士ガンダム!「俺はガンダムで行く」は筆者的に2017年の流行語大賞です。
『ゴジラ対メカゴジラ』
ソレントが最終決戦で乗り込むのが、『ゴジラ対メカゴジラ』(1974)のメカゴジラ。ちゃーんとバックにメインテーマを流してくれるあたり、嬉しい心配り。
『銀河伝説クルール』
ショウがアイロックの腕を切り落とした手裏剣のような武器は、SFファンタジー『銀河伝説クルール』(1983)に登場する「グレイブ」。
『レディ・プレイヤー1』はスピルバーグの生前葬?
天才プログラマーで、とびきりのオタクで、人付き合いが苦手で、オアシスの創設者にして億万長者のジェームズ・ハリデー。多くの識者が指摘している通り、彼はスティーヴン・スピルバーグ自身を投影したキャラだろう。ハリデーはスピルバーグのアバターであり、オアシスとはユーザーに“夢の空間”を提供する映画そのものなのだ。
ハリデー少年がテレビゲームに夢中になっていたように、スピルバーグもまた幼い頃から8ミリカメラで映画製作することに熱中していた。子供のようなあどけなさを残したままハリデーもスピルバーグも大人になり、齢を重ね、人生の黄昏を迎えた。どこか大人になりきれない自分自身を感じながら。
ハリデーが最後に口にするセリフ、「ありがとう、私のゲームをプレイしてくれて」とは、そのまま「ありがとう、私の映画を観てくれて」に置き換えられることだろう。この言葉はスピルバーグの辞世の句であり、この映画はスピルバーグの生前葬。偉大な映画監督にも関わらず、大物ぶらず、大上段から何かを言うわけでも、映画とは何ぞやと講釈を垂れるわけでもなく、ただただ感謝を捧げるのみ。
筆者が『レディ・プレイヤー1』を愛する理由は、そんなスピルバーグの素朴な映画愛がストレートに表現されているから。それってすごくステキなことではないか。
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