スタジオジブリ出身で、現在はスタジオポノックにて映画を制作している米林宏昌。『思い出のマーニー』や『メアリと魔女の花』などの作品を制作をしてきましたが、そんな米林宏昌の初監督作品が『借りぐらしのアリエッティ』です。
そんな『借りぐらしのアリエッティ』をより楽しめる設定や豆知識が存在するので紹介していきます。
『借りぐらしのアリエッティ』(2010)あらすじ
とある屋敷の床下に、小人のアリエッティは両親と共に暮らしていた。屋敷に住む人間の物を少しずつ借りながら生活していたが、成長したアリエッティはその夜、父とともに初めての“借り”をする約束をしていたのだ。しかしその日、アリエッティたちの住む屋敷に、一人の少年・翔が療養のためにやってきていた。相手は子供だから早く寝てしまうだろうという父の予想から、予定通りそのアリエッティは借りに出かける。順調そうに借りは進んでいったものの、少年の部屋にやってきたアリエッティは、少年にその姿を見られてしまうのだった……。
※以下、『借りぐらしのアリエッティ』ネタバレを含みます。
ハルはなぜそこまで小人に執着するのか
『借りぐらしのアリエッティ』において、その凶悪ぶりが強い印象を残していくのが、屋敷のお手伝いとして働いているハル。アリエッティの母、ホミリーを捕まえてビンに閉じ込めてしまったり、小人を見つけるためにネズミ駆除の業者を呼んだりと小人に対して異常なぐらいの執着を見せます。
そんなハルには、小人に執着するのも仕方ないと納得できる裏の設定が用意されています。ハルは映画で描かれる出来事の前にも、実は小人を見たことがあって、その時に誰にも信じてもらえなかったという過去があったそうです。その時の悔しさがあったため、今度こそ小人が存在することを証明しようと、残酷なぐらいに小人の発見に執着したのでしょう。
冒頭で車の駐車の仕方が悪かったりと、他人に対する配慮に欠ける描写があったりと、ヘイトが集まるキャラクターとして描かれてしまっていますが、小人との出会い方が違えばハルの態度も変わったかもしれません。
翔はなぜそこまで悲観的なのか
ハルとはまた違った形で、小人への執着を見せるのが、他でもない翔です。よくよく考えるとアリエッティたちが引っ越さなければいけなくなってしまうのは全て翔のせいだったりします。そこには翔の不器用な性格が表れているとも言えるでしょう。
落ち着いた雰囲気で大人びた印象がありますが、実は翔はまだ12歳の男の子。学校にもほとんど行けず、友達も少ないせいで、本ばかりを読んでいたため、現在のような佇まいになったという設定があります。両親は離婚して父とは別居しており、母とは疎遠な状態なので、愛情表現として何をしたらいいのかというのも、あまりわからないのでしょう。
だからこそ、アリエッティと庭で話すシーンでは「君たちは滅びゆく種族なんだよ」なんというぶっきらぼうな言葉が出てきてしまうのです。一方でそこには、翔が友達が欲しくて、アリエッティが自分に似た存在であって欲しいという願望も込めらているように思えます。
そんな翔がアリエッティとの出会いを経て、心を打ち解ける相手ができ、場所を同じでなくとも未来を生きていこうと思うことができるようになる最後の場面は感動的です。アリエッティとの出会いが、翔の手術の結果と翔の将来を変えたようにも感じられます。
小人たちは日本出身ではない?
不思議な点として、アリエッティたちが外人のような顔立ちで、名前も日本であまり聞くような名前ではないところも気になります。
この理由は、身も蓋もないことを言えば、原作のメアリー・ノートンの「床下の小人たち」がイギリスを舞台にした物語だったからです。映画では設定を改変して、アリエッティたちを日本の家屋に住む、小人として描きました。
実は製作初期のイメージでは、小人たちの部屋の内装が現在よりも和風のものになっているものもありました。ですが、最終的には現在のような洋風のデザインになったそうです。
これによって人間と小人たちが全く別の世界を生きる生き物であることが顕著になったと言えるでしょう。実は小人たちのルーツを探っていくと海外に通じるのではないかという想像をさせられるし、映画の最後に旅立ったアリエッティたちの先にも広い世界が待っていることを予感させます。
そして、本来は交わるはずのなかった二つの世界が、奇跡的に交わったことで、二人の運命が変わるというのもロマンティックですよね。
物語に影響を与えた意外な作品たち
『天空の城ラピュタ』や『もののけ姫』などといった冒険譚などと比べると、落ち着いた情景や、素朴な雰囲気が印象的な作品となった『借りぐらしのアリエッティ』。原作はもちろん、実は以外な作品などが影響を与えていることも明らかになっています。
本作で脚本を務める宮崎駿は、製作の際に病気を持った少年の退廃美を描こうと、漫画「トーマの心臓」のタイトルをあげています。『コクリコ坂から』など少女漫画からのインスパイアを受けることも多い宮崎駿らしい作品とも言えます。
一方の監督の米林宏昌は、本作を「美術」の作品にしようと考えていたそうです。カラフルな色彩の中で、大自然の緑に、赤い服を着たアリエッティが映える印象を意識したそうです。夜の借りのシーンでは全体が青く、小人たちの家の屋内は黄色で染め上げたりと、シーンによって画面を一色のイメージに統一する手法が何度か登場します。映画『ラストエンペラー』で、シーンごとに一つの色彩に染め上げる演出を米林宏昌が気に入っており、『借りぐらしのアリエッティ』でも採用されているようです。
製作側でも宮崎駿と米林宏昌という、二人のジブリのエッセンスが交わった映画だったのですね。
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※2020年8月27日時点の情報です。