今や25年以上の歴史を誇る「名探偵コナン」。TVアニメが始まった当時に子供だった人もすでに自分の子どもと観ているなんて話があってもおかしくはないぐらいの作品となりました。そうなってくると、コナンのことは知っていても、コナンが小さくなってしまう事件が描かれる一番最初のエピソードを観たことがない人も多いのではないでしょうか。そんな新しい世代にとってもコナンのルーツがわかるシリーズが『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』です。
『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』(2016)あらすじ
厳重なセキュリティで守られた研究施設にやってきた宮野志保。パソコンで実験用のマウスを眺める中、一日のマウスが生き残っていることを発見する。
一方、高校生探偵の工藤新一と幼馴染の毛利蘭は、二人で水族館に来ていた。その帰り道、事件の推理のために携帯電話をフードに入れたままにしてしまっていた新一のせいで、蘭は携帯電話を落としてしまう。怒る蘭に、新一はお詫びに空手の都大会で蘭が優勝したら、トロピカルランドへ連れて行ってあげる約束をするのだった……。
※以下、『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』のネタバレを含みます。
そもそも『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』とはなに?
『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』って映画とも違うみたいだしなんなんだろう、と気になる方も居るのではないでしょうか。本作は2016年12月に、金曜ロードSHOW!で初めて披露された「名探偵コナン」のTVスペシャル版です。この年は記念すべきTVアニメ放送開始から20周年目という節目を迎えており、それを記念してのプログラムでもありました。
本作の注目は記念すべきTVアニメ第1話である「ジェットコースター殺人事件」のエピソードを中心に、放送当時は登場していなかったキャラクターや描かれなかった場面を追加して、全面的に新作アニメーションで描いています。
原作者の青山剛昌が監修としてクレジットされており、作者公認の上でのリメイクという形となっています。
オープニング演出からサービス満点!?
『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』ではTVアニメシリーズとは異なるオープニング演出が採用されています。原作のエピソードの中でも工藤新一が成長するまでに体験してきた事件がマンガ風のカットで描かれています。
そして注目はその際に使用されている曲。THE HIGH-LOWSの「胸がドキドキ」です。この曲はTVアニメシリーズのオープニングテーマの第1弾でした。当時から「名探偵コナン」のTVアニメを観ていた方にも懐かしく嬉しいファンサービスとなっていました。
漫画にも描かれていない驚きのシーンたちとは?
『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』では、原作をよく知るという人にも驚きのシーンが目白押しとなっています。それは原作漫画でも描かれていない、初披露となる出来事が描かれていることです。
まずは、灰原哀が幼い姿になる前の宮野志保での研究活動をしている姿が描かれている点。新一がコナンになるきっかけとなる毒薬のAPTX4869の研究をしているシーンや原作では僅かに触れられている黒の組織による新一の家の調査、さらには宮野の機転で新一が黒の組織内で死亡扱いとなるシーンなどが描かれています。
また、漫画では僅か数ページしか描かれていない“車椅子に乗った老人の事件”がより詳細に描かれています。そしてさらに驚くべきは、新一と蘭が遊園地へ行くきっかけとなる、蘭の空手の都大会の模様までが描かれている点。原作の前日譚とも言える内容となっていたのです。
劇場版からの逆輸入もエピソードも収録!?
実は驚くべきポイントはそれだけではありません。原作だけでなく劇場版シリーズからも影響を受けているシーンが存在します。その劇場版というのが劇場版第4弾にあたる『名探偵コナン瞳の中の暗殺者』(2000)。本作では、当時原作やTVアニメでは詳細に描かれなかった新一と蘭の遊園地デートシーンが描かれており、事件の舞台にも同じ遊園地が登場していました。
『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』では、この映画内で初披露となったデートのエピソードもしっかり反映されたものとなっています。「名探偵コナン」シリーズ作品には、原作者の青山剛昌が密接に関わっていることもあり、原作やTVアニメ、劇場版も相互に影響し合っているシリーズ。そんな作品の特徴が、今回の劇場版からの逆輸入設定からもわかります。
ちなみにデートシーンではZARDの「運命のルーレット廻して」が起用されています。こちらも90年代後半にTVアニメのオープニングテーマに起用されていた曲で人気の高い曲でした。
蘭が固執するナマコ男ってどんなキャラクター!?
作中で携帯電話を紛失した蘭がこだわる謎のキャラクター「ナマコ男」。強烈なフレーズに驚かされますが、一体どんなキャラクターか気になりますよね。
実はこのストラップは、のちに新一が買ってあげていることが判明しています。そのビジュアルはTVアニメ772話「工藤新一水族館事件」というエピソードの後半に登場しています。
この事件こそ、『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』の冒頭で映る水族館の出来事を描いたお話です。犯人がアリバイを作るために携帯電話を、被害者が身につけている物に隠したのではないかと考え、新一は蘭のフードに携帯を隠していました。携帯を落としてしまうくだりは『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』とほぼ同じシーンが放送されています。
実はこのナマコ男というキャラクターは、原作者青山剛昌の漫画「YAIBA」に登場する別の漫画のキャラクター。原作者つながりの思わぬカメオ出演となっています。
ナマコ男のストラップは実際に商品化も果たすほどの公式グッズにもなっています。
エンディングで流れるエピソードは?
『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』では、主に工藤新一が活躍する作品となっていますが、コナンの活躍もエンディングにてダイジェスト形式で描かれます。ここで採用されているエピソードはどれもコナンにとって転機となる事件ばかり。内容が気になる方も居ると思うので、それぞれTVアニメのどの事件のエピソード化を紹介していきます。
屋敷が火事になるシーンが描かれているのは、11話の「ピアノソナタ『月光』殺人事件」。自殺しようとする犯人をコナンが止められなかった曰く付きの事件です。
推理に勝ったも負けたも、上も下もねーよ。真実はいつも、たった一つしかねーんだからな。
という名言は、48話「外交官殺人事件」の新一のセリフ。服部平次の初登場回であり、新一が久しぶりの登場となる回でもありました。
犯人を推理で追い詰めて、みすみす自殺させちまう探偵は、殺人者とかわんねーよ
という名言は、77話「名家連続殺人事件」で登場したセリフ。「ピアノソナタ『月光』殺人事件」が、コナンにとって忘れがたいものであったことが分かるエピソードです。
不可能な物を除外して行って残ったものが、たとえどんなに信じられなくても、それが真相なんだ。
のセリフは、223話「そして人魚はいなくなった」に登場。犯人が思わぬ相手だと狼狽する服部にコナンが語るセリフでした。
そして宮野志保の姉である宮野明美が亡くなるエピソードは、128話「黒の組織10億円強奪事件」の一幕。黒の組織と関わりがあった彼女を組織から救うことができなかった、こちらもコナンにとって因縁のある事件でした。
そして満を持して怪盗キッドが登場するのは、76話「コナンvs怪盗キッド」。今では何度も対決・共闘を繰り返しているコナンとキッドですが、このエピソードが初めての対面の機会となりました。
どれもTVアニメの初期のエピソードですが、新たに描きおこした新規カットとして描かれています。当時観ていた人にとっては、懐かしいセリフや懐かしい登場人物を見つけられたのではないでしょうか。
このように『名探偵コナン エピソード“ONE” 小さくなった名探偵』では、劇場版とはまた違った試みがたくさん詰まった長編となっています。原作漫画や初期の「名探偵コナン」の要素を多数盛り込み、当時を知っている人と知らなかったという人が同時に楽しめる工夫に富んでいます。
※2020年9月11日時点の情報です。