本屋大賞原作映画1位とノミネート原作映画のあいだには深くて暗い河がある

映画に夢中な書店員

ふじわらなお

ついに2016年本屋大賞が決定しました!

ということで今回は、普段本屋で文芸書の担当をしているということもあり、本屋大賞特集です!

本屋大賞とは?

本が売れない時代と言われて久しい昨今、売り場からベストセラーを作っていこうという声で2004年に始まった、書店員の投票によって決められる「いちばん売りたい本」のナンバー1を決める賞です。

本屋大賞と映画

実は、本屋大賞と日本映画の間には深い繋がりがあるのをご存知でしたか?

なんと、本屋大賞受賞作の12作品中9作品が映画化もしくは映画化が決定している作品なんです! ノミネート作となると30作品以上が映画化されています。

近日公開の映画では、5月7日に前編が公開される『64』は、2013年本屋大賞2位。5月14日公開の『世界から猫が消えたなら』も同じく2013年8位。9月公開の『怒り』は2015年6位。12月公開の『海賊とよばれた男』は2013年1位。大型映画の多くが本屋大賞受賞作またはノミネート作であるといっても過言ではありません。

直木賞でも芥川賞でもない、書店員が「これは老若男女絶対面白いに違いない!」と太鼓判を押す本だからこそ、エンタメ性の強い、それでいて人間の心情に迫った映画が生まれるのかもしれませんね。

これまでの本屋大賞

ということで、これまでの本屋大賞受賞作からイチオシを紹介したいと思います!

2008年本屋大賞1位!迫力の逃亡劇『ゴールデンスランバー』

ゴールデンスランバー

あらすじ

アイドルを助けて一躍時の人になったこともある青柳雅春(堺雅人)はある日突然首相暗殺の犯人に仕立て上げられます。無実であるにも関わらず、マスコミや警察に追われ、全国的に指名手配され、命を狙われる毎日。親友(吉岡秀隆)からの「とにかく逃げて、生きろ」という言葉を糧に、たくさんの人たちの力を借りた決死の逃亡劇が始まります。

ベストセラー作家・伊坂幸太郎の最高傑作×中村義洋×斉藤和義!

見事な伏線の回収と愛すべき登場人物のキャラクター、思わず一気読みしてしまう展開の面白さで熱烈なファンが多い伊坂幸太郎の本の中でも、個人的に一番好きな本です。

監督は、他にも『アヒルと鴨とコインロッカー』『フィッシュストーリー』などの映像化が難しい伊坂作品を見事に映像化してきた中村義洋監督。そして、会社を辞めて作家業一本に専念すると決意するきっかけになった曲が彼の曲だったというほど、伊坂幸太郎が敬愛してやまないアーティスト・斉藤和義が音楽を担当しています。

そして、個人的に思うのですが、伊坂作品になくてはならない存在・濱田岳!今回も、どこか愛さずにはいられない連続刺殺犯・キルオを演じています。

2011年本屋大賞2位!思わず共感の傑作『ふがいない僕は空を見た』

本屋大賞1位の作品は、真っ直ぐな主人公が主役の最強エンタメ小説というイメージが強いですが、惜しくも1位を逃した作品には、いい悪いを断定することのできない市井の人々の生々しい感情を掬い取った作品が多いです。

中でもイチオシがこちら。

ふがいない僕

あらすじ

高校生の卓巳(永山絢斗)は、友人と一緒に行ったコミケ(同人誌販売イベント)で、あんずと名乗る主婦の里美(田畑智子)と出会います。やがて、里美は卓巳を自宅に招き入れ、アニメのコスプレをして情事にふける関係に陥っていきます。それは次第に里美の夫や義母、卓巳の家族や同級生を巻き込み、波紋が広がっていくのです。

気鋭の女性作家×女性監督が描く現代のイタくて切ないラブストーリー

原作は、女による女のためのR-18文学賞受賞で鮮烈デビューして以来、最新作「よるのふくらみ」まで女性のリアルな感情、生と性を描き続けている窪美澄さんの同名小説です。監督は、蒼井優主演の『百万円と苦虫女』や最近では大島優子主演の『ロマンス』を監督したタナダユキ監督。タナダ監督の映画は、ポジティブさもネガティブさも全部含めて女の子の「今」を絶妙なニュアンスで切り取っているように思います。

『ふがいない僕は空を見た』の卓巳と里美の関係は、傍から見たら不健全で、罵られるような関係です。でも、本人たちから見たらすごくまっとうな、狂おしいほど純粋な恋なのです。本当は、里美からすれば退屈な日常からの逃げ場であり、高校生の卓巳からすれば青春の通過点のようなものでしかないのかもしれないけれど。

窪田正孝と小篠恵奈が演じる卓巳の同級生2人の視点も見逃せません。

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2016年本屋大賞

それでは今回の本屋大賞1位に輝いたのは?

本屋大賞1位 宮下奈都『羊と鋼の森』

この本、本当にオススメです!

まだ映画化の予定はありませんが、いつか映画化すること間違いなしです。

ピアノの調律に魅せられた青年の成長を描いた物語なのですが、とにかく美しいのです。この本を通して見つめる世界は、何気ない日常のはずなのに柔らかく輝いていて、愛おしくなります。

青年だけではなく、彼が出会うピアノを愛する人々や個性的な同僚も魅力的です。

そしてこちら、本屋大賞1位は逃しましたが、早くも傑作映画誕生の予感がします。

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本屋大賞4位 西川美和『永い言い訳』

『ゆれる』や『夢売るふたり』の西川美和が原作・脚本・監督本木雅弘主演で10月14日公開予定です。

あらすじ

長年連れ添ってきた妻(深津絵里)をバスの事故で突然亡くした作家・津村(本木雅弘)。でも、その時妻との関係は冷え切っていました。突然の家族の死を受け入れることができずに困惑するまま日々がただ過ぎていきます。同じく事故で母親を亡くした一家と出会い、交流することによって津村の日常は新しい局面を迎えるのですが・・・・。

死と向き合うこと

大切な人が亡くなったとき、人はきっと何かに折り合いをつけて、その人がいない世界を生きていく覚悟を決めるのでしょう。でも、それができるまでの時間には個人差があります。ただ素直に泣いて悲しむことができずに、割り切れない感情に当惑したり言い訳したりする感情は、誰しもどこかにあるんじゃないかと思います。この本は、人にはなかなか説明できないその部分に寄り添ってくれます。

津村という男はなかなかサイテーな男なのですが、本木雅弘さんはどう演じるのでしょうか。映画が楽しみでなりません。

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おわりに

タイトルに「黒の舟歌」をもじって「深くて暗い河」なんて大げさに書いてしまいましたが、半分本音でもあります。

本屋大賞にノミネートされた1位から10位まで、どれも傑作ぞろいです。それでも、やっぱり脚光を浴びるのは、1位の本です。それは、書店員として商品を並べているとなんだか寂しい気分になります。そんな意味での「深くて暗い河」。

そして前述したように、本屋大賞1位の作品は、誰もが共感できる真っ直ぐな主人公が主役の作品。一方、1位を逃したノミネート作はいい悪いを断定することのできない生々しい感情を掬い取った作品が多いという意味での「深くて暗い河」。

そんな意味をこめました。

今日はちょっと、映画館に行く前にお近くの本屋さんで、本屋大賞コーナーを覗いてもらえると嬉しいです。

 

※2022年11月29日時点のVOD配信情報です。

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  • シロ
    3.5
    アメリカのドラマ「フルハウス」みたいな設定だけど話は重かった。人の死にどう向き合っていくか。 個人的な話しをすると先月、職場の仲良くしてたおっちゃんが急に亡くなった。言われた直後は信じられなくて何とも思わなかったけど後から死んだんだなぁってじわじわ悲しみがわいてきた。この前好きだったミュージシャンが亡くなった時はすぐ泣けた、会ったことも見たこともないのに。誰かの追悼するメッセージを見て泣いた。他人の気持ちを想像するほうが泣けた。 深津絵里が全然登場しなくてびっくりした。もっと回想とかで出てくると思ったのに。もっくんは映画のラスト5分でようやく死と向き合えたんだな。「人生は他者だ」という答えを導き出して。色んな死の向き合い方があるけど残されたほうはちゃんと前を歩いていかなきゃな。
  • エミネム
    4
    記録
  • katsuakishoji
    3.7
    アマプラで散々CMが流れててウンザリして見るのが遅くなったけど、早く見ておけば良かった。この監督の作る空気感が好きです。竹原ピストルも超渋くてかっけぇ
  • ヒキガネ霜田
    4.1
    電車に乗って遠くに行くときはネットに入った4連みかん。
  • アむーレ
    3.7
    ---------- 小説家・幸夫には妻がいた。 ある日妻は仲良くしている大宮さん家の奥さんと一緒に出掛けていったが、雪山を走っていた夜行バスの転落事故によりバスの乗客全員が命を落としてしまう。 幸夫はそのことをあろうことか不倫していた女とソファでいちゃつきながら聞くことになる。 バスの事故を巡っては遺族説明会などにより大宮さん家の夫・陽一と知り合い、その後話をするうちに意気投合していく。 陽一はトラックの運転手で、残された家族を養うにはこの仕事を続けるしかなかった。大宮家には陽一とその息子・真平と幼い娘・灯がいたが、陽一が仕事に出かける間は灯の面倒を見る必要があるため、兄の真平は通っていた塾を諦め、進学も諦めると幸夫に打ち明けていた。 何もかも自分の人生を犠牲にしようとする真平を心配した幸夫は、ペンとパソコンがあればどこでも仕事はできるからと、週に数回子守りを引き受け、灯の面倒と真平のバスの送り迎えを買って出たのだった。 ---------- 妻を失った同じ境遇から意気投合していく幸夫と陽一。しかし、子供を持たず不倫までしていた自分のことを最低だと蔑む幸夫と、愛し守るべき子供がいる陽一。 その対称的な2人の姿が印象的でした。 幸夫が子守りを買って出た時期、大宮家は母親を失った穴を埋める幸夫のおかげもありうまくいっていた。しかしある時、幸夫の負担を考えて子供を別の方法で預ける考えを打ち明けた陽一に対し幸夫はへそを曲げ出ていってしまう。 幸夫が来なくなった大宮家…またもとのように真平は自分を犠牲にして塾を休みがちになる。 授業に次第についていけなくなり、夜中に父親と大喧嘩。そのとき父親にかけた真平の言葉もあってか、陽一は仕事中に交通事故を起こし病院に運び込まれてしまうんですね。 雪山の事故の悲惨な状態から幸夫が大宮家に関わることでその穴を埋め温かい関係が築けていたものの、ひょんなことがきっかけで幸夫が離れると途端に事故直後の悲惨な家庭環境に戻っていってしまう。 その温度の変化というのがストーリーからも伝わって良かったです。 そしてその温度がどん底に落ちたとき、父親に最低な言葉を投げ掛けてしまった真平に対して幸夫は自らの人生観から感じた哲学を投げかけるんですね。 (以下セリフを抜粋) ~~~~~~~~~~~~ 生きてりゃ色々思うよ皆。 でもね、自分を大事に思ってくれる人を簡単に手放しちゃいけない。見くびったり貶めちゃいけない。 そうしないと僕みたいになる。僕みたいに愛して良いはずの人が誰もいない人生になる。 ~~~~~~~~~~~~ この言葉は観ている自分にもグサッときた。 近くにいると思っている人がそこにいることが当たり前ではない。離れていくときは一瞬。 だからこそ、近くにいてくれる人と繋いだ心をしっかり握っていなければいけない。 親しくなればなるほど、家族など近くにいて当たり前と思える人ほど、そのことをありがたく感じて大事にしなきゃなって思った。 相手を貶めるようなことをすれば人は離れていくし、ずっと愛し合っていたとしても人生は永遠に続くものではなく死という別れも必ず訪れる。 そのとき、その人を幸せにできたかな。大切な人を失ったあとも自分を支えてくれる人がいるような人に愛される人生を送れているのかな。 このセリフにはそんなことがギュッと詰まっているような感じがしてとても共感できた言葉でした。 映像的な派手さはなく映画のエンタメらしさはないけど心にジーンとくるような作品。邦画らしい文学的な作品でした。 エンドロールの『調子の良い鍛冶屋』は子役の武田あおいという子が弾いているらしいけど、この作品とはどんな繋がりがある子なのだろう。 変奏曲で確かに難しいとは思うのだけれど、途中ミスタッチしたり躓いている箇所もあり、あれでOKだした制作陣には疑問が残る。一発録りなのかな?編集でうまくやってあげて欲しかった。 子供が弾いた演奏と聞けば頑張ったねとも思うが、映画を観ている人にとってそんなことは関係のないこと。 音楽も隙なくしっかり作って作品を締めくくってほしかったのがとても残念なところ。
永い言い訳
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