2009年に公開された劇場版名探偵コナンシリーズ第13弾『名探偵コナン 漆黒の追跡者(チェイサー)』(※以下、記事内では『名探偵コナン 漆黒の追跡者』と記載します。)では、劇場版シリーズでも初めてというぐらいの本格的なコナンと黒の組織の対決が描かれます。コナンの本筋となるストーリーにも大きく関わる内容ということもあってか、本作は当時でもシリーズ中では高い興行収入を誇る作品となりました。
なぜ本作がそこまで注目を浴びる作品となったのか。その作中のポイントを紹介していきます。
『名探偵コナン 漆黒の追跡者』(2009)のあらすじ
黒の組織の悪夢を見て、目覚めるコナン。コナンは、黒の組織の手がかりとなるメールアドレスについて調査をしている最中であった。そんなコナンに対して、灰原は深入りするのは危険だと忠告を受けます。
そんな中、東京を中心に県を股にかけての殺人事件が複数件発生。事件の現場には必ず麻雀牌が見つかることから、これらの事件は、同一犯による連続殺人事件と断定される。事件の規模の大きさからも警視庁では合同本部が置かれることになり、毛利小五郎も特別顧問として出席することになる。
小五郎に同行していたコナンだったが、会議の直後に警視庁に黒の組織が潜り込んでいることを察知する……。
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※以下、『名探偵コナン 漆黒の追跡者』のネタバレを含みます。
映画オリジナルの組織幹部アイリッシュが登場!
『名探偵コナン 漆黒の追跡者』は、劇場版シリーズでも数少ない黒の組織とコナンの直接対決が描かれる映画となっています。ただし注目は、ジンやウォッカといったおなじみの面々に加えて、この映画オリジナルの黒の組織メンバーが登場している点。アイリッシュという新たな黒の組織メンバーが初めて登場しています。
このアイリッシュという男。金髪で大柄な男なのですが、その体格さからの貫禄に恥じぬ黒の組織における幹部クラスという人物です。宿敵ジンとも同程度の地位だというのだから驚きです。
ただし、そんなジンとは同じ組織のメンバーでありながらも、あまりよく思っていないというのだから、また面白い話です。というのもアイリッシュは、今となっては「名探偵コナン」のかなり初期のエピソードであるTVアニメ176話『黒の組織との再会』に登場した黒の組織の別のメンバー・ピスコと親しかったという人物。そのエピソードでは、ピスコがミスを犯したということで、ジンによってピスコは殺されてしまうのですが、アイリッシュはそれをよく思っていなかったという、黒の組織の内部対立が起こっていることが明らかになっています。
アイリッシュの行動で分かるジンに迫る危険
ゲストキャラクターといえども、さすがは黒の組織の幹部。アイリッシュはシリーズでも随一の実力者であることが、この映画では明らかになります。
なんといっても、わずかな手がかりからコナンと工藤新一が同一人物であることを見抜いてしまうという鋭さ。幸い、ジンを落とし入れるためのカードとして、その秘密を隠していたことによって、組織のメンバーに知られることなく済みましたが、危うく黒の組織にコナンの存在がバレてしまうところでした。
ただ、改めて今作ではっきりしたことは、実は工藤新一が生きていたことが黒の組織にバレてしまうということは、すなわちジンにとっては自分の立場を危うくする事態だということ。
コナンにとっては黒の組織に自身の生存がバレることはなんとしてでも避けたいことですが、ある意味それはジンにとっても同じこと。ジンにとっては組織に知られる前に、コナンを消さなければいけないという状態なのです。
将来的にコナンが黒の組織との全面対決となった時、ジンと対峙するということがあるのならば、この辺りのジンの立場も大きく絡んでくることになるでしょう。
一騎当千!もっと評価されて良いアイリッシュの実力とは
頭脳明晰なのはもちろんのこと。アイリッシュの実力で忘れてはいけないのが格闘能力の高さです。黒の組織といえば、身体的には華奢な体つきのメンバーが多いのですが、アイリッシュは筋骨隆々で見た目からもその強さがにじみ出ています。
映画の中では、警視庁の管理官の松本清長を拘束することで、清長に変装することに成功。映画の終盤には、油断させている状況下でありながらも複数の警察官をはじめ、東都タワーの警備体制もたった1人で倒してしまい、コナンたちを追い詰めました。いくらアイリッシュが幹部クラスと言えども、異常なぐらいの強敵ぶりを見せてくれました。
そして本作のベストバウトとも言えるのが蘭との一騎打ち。肉弾戦における戦闘能力では、蘭も作中随一の実力者であるはずも、自身の体格と格闘センスなどを駆使し、その実力者の蘭すらもたじろがせる接近戦を見せました。
この戦いでは蘭も負けじと、相手の銃口の向きと引き金にかかった指の動きに集中することで、放たれた銃弾を避けるという芸当を見せて、観ている人の度肝を抜きました。そのインパクトの大きさからも、アイリッシュの印象が少し薄まってしまったのは、アイリッシュにとっては少しかわいそうな話。冷静に考えるとアイリッシュの強さも異常なほどと言えます。
他のキャラクターと対決したら、と想像すると他にも面白い展開見られそうではあるのですが、残念ながら本作でアイリッシュは命を落としてしまいます。もしも生き延びていたとしたら、名探偵コナンという作品のストーリーが大きく変わっていたであろう重要人物だけに、映画一作でリタイアさせてしまうには惜しいキャラクターでした。
警部オールスター映画という魅力
そんなアイリッシュの活躍のお膳立てのような形にはなってしまいましたが、今回の映画は名探偵コナンの劇場版シリーズきっての警部オールスター映画になっているというスペシャルな試みが盛り込まれていました。
おなじみ目暮警部や白鳥警部、佐藤刑事に佐藤刑事の面々はもちろんのこと、静岡県警と神奈川県警の横溝警部兄弟、京都府警の綾小路警部、長野県警の大和警部、群馬県警の山村警部などなど、普段は一同に集うことのない警部たちが、県を跨いだ事件ということで、総出演するという、マニアックな豪華ぶりを見せてくれました。
とはいえ、その総出演ぶりは当時のもの。公開当時の2009年には公安の安室透はまだ作中に登場していなかったり、今回アイリッシュに成り変わられてしまう松本清長は、管理官を退き、黒田官兵衛がその役職を担っているなど、時が流れ体制にも変化が生まれています。
黒の組織にもラムといったメンバーの存在が明るみになってくるなど、警察側も黒の組織側も対戦カードとしての色合いも変わってきているので、今後もしかすると今作のように新たな警察側のオールスターたちと黒の組織たちの直接対決が観られる日が来るかもしれません。より盛り上がりを見せている、名探偵コナンの最新エピソードにも引き続き注目です。