10月15日より公開がスタートした『何者』。
鑑賞後とてつもない感情になり、日本の就職活動、ネット依存という恐ろしい部分を浮き彫りにさせ、新しい課題を与えられる。そして何より映画としての新しさ、面白さを存分に楽しめる本作。映画選びのきっかけになればと『何者』の魅力を紹介する。
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「就活対策本部」で5人の就活生が互いの内定を祈り、情報交換をして一緒に頑張ろうと切磋琢磨する。
次第にその夢を叶える人物が現れるが、それは内定を獲得していない人物への最も恐ろしいプレッシャーでありジェラシーであり狂気である。そしてその狂気が静かであり、いやむしろその狂気を感じさせないある意味“落ち着いた大学生”は何を思っていて、誰を憎んでいて、誰を信じているのか。そういう人と人との関係をリアルに描いている。
自分は一体「何者」になろうとしているのか。
朝井リョウの原作を読んだ時、最初に思った感想は、これは映像化がすごくイメージできるということだった。読みながら映像が頭の中にはっきりと映し出されたことを記憶している。その時感じたSNSの恐怖は、映画のなかで見事に描かれており、本音を言う場を失った大学生たちの憩いの場であり、それは今の日本の縮図を見せられているような感覚だった。
映画『何者』の凄いところ3つ
1. 就職活動という霧に包まれた世界をしっかりと残酷に描いた
全員似たような服装で、ゾロゾロと説明会に列を作り、1日に何件もの試験や面接をハシゴし、帰宅の電車の中では疲れ果てた顔とぐったりしたスーツ。そんな世界を作ってしまった国、日本を堂々と描き切ったと思う。
そもそも就職ではなく「就社」しようと必死な人々は何に怯えているのか。この映画の登場人物たちは対策本部で、それぞれの夢や人生について語り出す。
私が何よりも恐怖を感じたのは、夢を語る人間より、現実的な「みんなやっている活動」を口にした方が頭がいい、そして何となくその方が偉いという空気。本作は改めて日本の就活の問題点を本当の言葉で伝えた非常に存在価値のある映画だったと感じた。
2. 舞台と映画
本作の監督、三浦大輔は学生時代舞台を演出しており、舞台演出という顔と映画監督という顔を持つ方で、本作にも三浦監督ならではの演出が詰め込まれていた。舞台というのは私個人の感想でいうと、しっかり「俯瞰」できるということ。客席とステージがしっかりと分けられ、観客はステージを鑑賞するという風景がくっきりとしている。
本作のシーンで言うと、真面目に就活していて周りを応援しているようで、自分以外の人間を「寒い」という冷ややかな目で見ている拓人がステージに立たされ、彼の美しくない部分を見て、観客が拍手する。それは残酷という言葉以外私は見つけることができない。見事の一言だった。
3. 就活生5名のキャラクターと絶妙なバランス
拓人(佐藤健)=冷静分析系男子
最も普通に見えて、友達を応援する彼は、他者を冷静に分析する。その分析ははっきり言って、的確。しかしその分析で、拓人自身は前に進むのか。どうしても自分以外の人間が自分より少しばかり不幸でいてくれないと落ち着かない彼は、きっとものすごく寂しい男なのだろう。
瑞月(有村架純)=地道素直系女子
自分が生きる道が決められてしまった彼女。とにかく「安定していて、ちゃんとしたところ」を求める彼女は大手企業の内定を得る。しかし彼女の表情からは心からの喜びというか、必死に生きなくてはならない義務のようなものを感じた。
理香(二階堂ふみ)=意識高い系女子
名刺、海外でのボランティア、自分は何でもやってきた。あなたの会社で私は絶対に役に立つ! そんな空気を一際解き放つ彼女の家こそ、就活対策本部だ。武器をたくさん持っているのになぜか内定できない。そんな彼女の唯一の救いはSNSでの「私頑張ってます投稿」だ。
本作の登場人物の中で、実際の世界に最も多いのではないかと思った人物。やはり二階堂ふみ凄いと思わされた。
光太郎(菅田将暉)=天真爛漫系男子
彼のような人物は社会でうまくやっていける。そんなの決めつけるのはよくないと思うかもしれまいが、事実、私の周りもそうだ。元気があり、弟のような少し頼りなさがあり、でもそれは先輩の心をキュンとさせ、大学時代に打ち込んだバンドではファンもいる。
そんな彼と大学の入学当初から親友だった拓人は彼をどう思っているのか。是非、劇場で確かめていただきたい。
隆良(岡田将生)=空想クリエイター系男子
「みんなさ、なんで就活してるの? 就活という社会の波に飲み込まれてるだけじゃない?」ぐうの音も出ないことをさらりと口にし、就活対策本部を凍りつかせる彼は、こっそりと就活している。彼は社会の流れに飲み込まれることを嫌い、自分の歩き方を突き進むタイプ・・・のように見えて最も弱い人間だと感じたのは私だけだろうか。
「それで? あなたは何かやっての?」そんな言葉をかけられたら彼はどんな顔をするのだろう。
5名全員を改めて見ていると、なんと見事なバランス! と感動した。そしてこのキャスティング。原作を読んだ友人数人に聞いたら全員一致で完璧なキャスティング! と絶賛していた。
この5名のやりとり、是非劇場で堪能して頂きたい。おそらく、ある意味、一種のホラー映画のよりも怖い人間の真理を見ることになる。
そして現在の就職活動の実態、SNSの恐怖、今の日本を知ることができる貴重な一作だと感じる。
(C)2016映画「何者」製作委員会 (C)2012 朝井リョウ/新潮社
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