【映画解説】和製セブン『ミュージアム』は名作『セブン』を超えられるのか《徹底比較》

映画と音楽は人生の主成分

みやしゅん

2015年、問題作とも言える“過激な”漫画作品の実写化が発表され、話題となりました。そう、それが今回ご紹介する『ミュージアム』です。

ミュージアム

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この『ミュージアム』は、2013年にヤングマガジンで連載されてから「ヤバすぎる!」「怖すぎる!」との感想が寄せられるだけでなく、連載が終了した後も口コミで拡散され続けた作品です。そのため、映像化権をめぐって争奪戦が繰り広げられました。

実は本作、1995年に公開されたブラッド・ピットモーガン・フリーマン主演作『SE7EN(セブン)』に酷似している部分が多いことから、映画界では「和製セブン」と言われています。和製セブンということもあって『ミュージアム』は世界から注目され、いくつかの映画祭に出品される話題作となっているのです。

セブン

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しかしながら、本家『セブン』は映画レビューサービス・Filmarks(フィルマークス)でも高評価を記録している名作中の名作…。『ミュージアム』は“和製セブン”という名前に相応しい作品なのでしょうか? そして、本家『セブン』という高い壁を超えることが出来るのでしょうか?

今回は超話題作『ミュージアム』を『セブン』と比較しながら徹底解説していきます。まずは、『セブン』について押さえてきましょう。

『セブン』あらすじ ―7人殺して、殺人は完成する―。

雨の降り続く、とある大都会…退職まであと1週間のベテラン刑事サマセットと、新人刑事ミルズは、ある殺人現場へと急行した。

現場には、犯人の手がかりは一切残されておらず、無残な遺体と「GLUTTONY(大食)」と言う謎の文字だけが残されていた。そして、次の事件が起きる。そこには「GREED(強欲)」という文字…サマセットは、犯人が「七つの大罪」を基に裁きを下していることに気づく。

次々と起こる連続猟奇殺人…5つの裁きが下されたとき、本当の事件がはじまる―。

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和製セブンを観る前に押さえておきたい、名作『セブン』のこと。

『セブン』を知らない方に説明しておくと、本作は2014年に話題となった『ゴーン・ガール』のデヴィッド・フィンチャー監督の初期の作品です。映画史に残る名作であることはもちろん、Filmarksでも★4.0という数少ない高評価の作品として様々な場所で紹介されています。

では、何がそこまで評価されているのでしょうか?

私たちを待ち受ける“映画史上最悪”のラスト

本作はキリスト教の「七つの大罪」がモチーフにされているため、一見すると難解な作品のように思えます。しかし、謎に溢れた物語にのめり込みやすくするためのある工夫がなされています。それは、主人公が2人存在するということです。

キリスト

モーガン・フリーマン演じるベテラン刑事のサマセットと、ブラッド・ピット演じる血気盛んな新人刑事ミルズという主人公が2人いることで、事件を多面的にとらえるだけでなく、感情の面でも作品にのめり込みやすくしているのです。

だからこそ、誰もがラストで突き放されることになります。そう、この『セブン』は「後味の悪い結末」として有名な作品なのです。

「映画史上最悪のラスト」といっても過言ではない衝撃の結末は、まさに救いのないもの。しかも、作品全体もそうなのですが、特にラストの部分では“大事な部分は絶対に見せない”演出がされているため、私たちは想像するしかありません…。しかし、どう考えても最悪の結末しか想像し得ないのです。

ここまで後味の悪い作品は後にも先にもこの『セブン』くらいでしょう…二度と観たくないとその時は思っても、癖になってしまいます。

徹底された犯人像

もう一つ、秀逸な点は、作品における犯人の扱い方です。

まず、登場シーンの衝撃は物凄いものです。というのも、本作では後半まで犯人が一切姿を見せません。その代わりに、はじめて登場する場面では血だらけ…その姿は脳裏に焼き付くことでしょう。

拘束

また、通常の作品では少なからず語られる、犯人の人となりが分かるエピソードも『セブン』では一切語られません

もっと言えば、本名も職業も分からなければ、指紋もない…被害者との接点も全てが謎のまま、映画の幕は閉じます。実は、エンドクレジットでは、犯人を演じた役者の名前すら書かれていないとか…ここまで徹底された犯人像の創り込みは、きっとどの映画でも行われていないことでしょう

さて、『セブン』のことを押さえたところで、本題の和製セブン『ミュージアム』を探っていきましょう。

『ミュージアム』あらすじ ―僕は、人を楽しませるアーティストだ―。

とある雨の日、その連続猟奇殺人事件ははじまった。現場には見るも無残な遺体と共に残されていた謎のメモを見つけた刑事の沢村は違和感を覚える…。

捜査を進める中で明らかになる事件の全貌…そして、次なるターゲットが妻・遥と息子・将太だと気づく。沢村は、人間離れした残虐な刑を執行する殺人鬼“カエル男”から、家族を守り抜くことはできるのか?

いま、戦慄の殺人ミュージアムがオープンする―。

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『ミュージアム』が和製セブンと言われる、その理由。

先ほども書きましたが『ミュージアム』は、和製セブンと言われています。

それは、本家『セブン』と同じく、連続猟奇殺人事件を扱った作品であり、ストーリー展開が似ているからでしょう…しかし、似たように感じる要因は、もっと根本的なところにあります。それは、両作品における「罪」の捉え方です。

罪はあらゆる街角に転がっている。それが日常だから許している…些細なことだから。

これは『セブン』の劇中に登場する、犯人が語る言葉です。実はこの言葉が『ミュージアム』を観るうえでも、重要な視点となってきます。

すべての「罪」は、人々が何気なく過ごしている日常の中から生まれるものなのです。

日常生活の中で、私たちは「しょうがないか…」と済ませてしまっていることが山ほどあります。もっと言えば、周囲も見て見ぬふりをし、暗黙の了解として認めてしまっていることが必ずある…詳しくは語れないのですが、『ミュージアム』に登場する「母の痛みを知りましょうの刑」が最も分かり易い例でしょう。

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しかし、忘れてはならないこと…それは、あなたの身勝手な行為が、周囲の誰かにマイナスに影響しているということです。

極端な言い方をすれば、世の中にあるもの全てにバランスがある…そうした時、誰かを罰することで抑止しようとする者が現れます。その人物が善か悪かは、誰にも分からないのです。

恐怖心を煽る、異なる“不気味演出”

ここからは『セブン』と『ミュージアム』の違いについて紹介していきましょう。

とても似ている両作ではありますが、それぞれの作品が異なる“不気味演出”によって私たちの恐怖心を煽ってきます。

7つと6つ…全てが揃って意味を成す事件

本家『セブン』では「七つの大罪」がモチーフとなっており、7つの殺人が揃ってはじめて意味を成します。しかしながら、『セブン』では犯行の理由いや、その真意が謎に包まれています

もちろん、犯人の口から語られるシーンはあるのですが、どこまでが本心かはわからないうえに、衝撃的なラストで幕を閉じるため、観客は想像するしかない…デヴィッド・フィンチャー監督は、映画史に残る後味の悪い作品を生み出したのです。

一方、『ミュージアム』における連続猟奇殺人事件では、犯人の視点で言えば、6つの殺人が揃ってはじめて意味を成すものとなっています。しかし、『セブン』と大きく異なる点は、理解できる・できないに関わらず、殺人の理由や背景がしっかりと存在しており、劇中でも語られているということです。

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実は、この部分が原作にはない設定として映画に組み込まれているため、原作と異なるエンディングが待ち受けています。このエンディングが、とにかく日本らしい…和製セブンらしいエンディングとなっているのです。

作品に奥行を持たせる不気味な引用

両作には作品の奥行きを持たせるために、各々にある引用が用いられています。

『セブン』には、先ほども述べた「七つの大罪」が用いられています。こちらは、書物を読めば、それが意味するものが理解できるものだと言えます。

一方、『ミュージアム』ではメトロポリタン美術館(ミュージアム)」という歌の歌詞が登場します。この歌は、NHK「みんなのうた」で放送されていたのですが、不気味さのあまりすぐに放送されなくなったもの…考えれば考えるほど、歌詞に深い意味があるようにも思えるのです。

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簡単には理解できない引用だからこそ、色々と想像してしまい、恐怖心を煽られます。もっと言えば、歌を聞くだけでカエル男が口ずさむ不気味な画が蘇る…とても不気味な演出なのです。気になる方は検索してみてはいかがでしょうか?

幸せを壊す対象

『セブン』が、映画史上類を見ない「後味の悪い結末」だと言われるのには、それなりの理由があります。それを考えるために重要なことが“幸せ”という要素です。

ブラット・ピッド演じる新人刑事ミルズは、円満な家庭を築いています。犯人はこの幸せに目をつけます…そして、幸せを壊すのです。何となく途中から嫌な予感はあるのですが、実際に壊される瞬間は見ていられません…。

このような“幸せ”が壊される様が描かれていることは、両作のもう一つの共通点だと言えます。

しかし、誰の幸せを壊すか、という点で大きく違いがあります。『セブン』では“壊し”は一度だけ…まぁ、その衝撃が大きすぎるということもあるのですが、『ミュージアム』では、2段階の“壊し”がセッティングされています。

2つあるということは、1つは『セブン』と同じく主人公であると想像できます。しかし、押さえておきたいことは『ミュージアム』では、小栗旬演じる沢村の家庭は崩壊しており『セブン』の主人公ミルズとは真逆の立場にいるということです…では、誰が“幸せ”なのでしょうか?

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『ミュージアム』では“幸せ”が、周囲の人物に託されています。それが、冒頭から登場する、野村周平演じる沢村の部下・西野なのです。彼は結婚を控え幸せに満ちた日々を送っている…あなたが犯人ならば、主人公を深い絶望へと陥れるために、どうしますか?

あなたは、最悪のラストを期待する。

原作コミック「ミュージアム」にはグロテスクな要素が多いため、実写化ではR指定がつくと考えられていましたが、映画『ミュージアム』にはR指定がかかっていません。

そのため、過激さを求める原作ファンは納得がいくのか、公開されるまでの不安要素でもありました。しかし、R指定がかかっていないにも関わらず、グロテスクな部分も含め、原作の世界観を驚くほど忠実に再現しています

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個人的には、原作未読の方が楽しめるとは思いますが、原作を既に読まれた方も、映画ならではのラストを楽しむという意味で、オススメです。あとは、皆さんが『セブン』と『ミュージアム』…どちらが好みか、ということ。

是非、両作とも鑑賞して、大好きな映画トークに花を咲かせてみてください!

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(C)巴亮介/講談社 (C)2016映画「ミュージアム」製作委員会

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※2020年12月30日時点のVOD配信情報です。

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  • いちごパフェ
    3.7
    残酷なストーリーですが、面白かったです。オチがゾワっとしました…ワンオクの曲がカッコよくて気に入ってます。
  • ほな
    3.2
    グロかった気もするし あんまり覚えてない☠️ もう一回観よう
  • みずたま
    3
    心因性よ
  • Mimi
    2.5
    セブンじゃん…。日本の設定無理あるわー。エグいのいいけど真実味ないわー。終わり方もやりたい事わかるけど、可能性として無理じゃん。
  • こここ
    3
    覚えてない
ミュージアム
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