知れば知るほど解らなくなる映画の話(5)~「ホラー映画を観る」ということ~

Why So Serious ?

侍功夫

どうも、侍功夫です。

つい先ごろ、80年代に公開されたホラー映画の予告ばかりを7時間以上にわたって収録したブルーレイソフトがリリースされた。人間が様々な理由で殺される映画の予告が延々と続いていく大変素晴らしいもので、一家に1枚(2枚組だけど)あると、とても楽しい生活が送れるハズだ。

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出典元:輸入DVD&ブルーレイ専門店ビデオマーケット「トラウマ映画予告編集 3 : 80年代ホラー特集」より
※写真はホラー映画ファンの聖地、新宿ビデオマーケットさんよりご提供いただきました。

というようなことを言ったり書いたりしていると「わざわざお金を払ってまで怖い思いや不快な気持ちになろうという人の気が知れない!」などと、侮蔑の視線と共に吐き捨てられることが、ままある。そこで、「ホラー映画を観る」ということについて書いてみる。本題に入る前に、いきなり結論めいたことを言ってしまおう。

レ・ミゼラブルってタイトル直訳すると「悲惨な人たち」だし、タイタニックは1,000人以上の人が死ぬ話だけど、みなさん好きでしょ?

モラル・テール

童話の「かちかち山」を覚えているだろうか?

畑を荒らすタヌキを捕まえた老夫婦。タヌキはおじいさんのいない間におばあさんに泣きついて自由になるや即座におばあさんを撲殺。その遺体を味噌汁の具材にし、おじいさんに飲ませる。という本当に酷い展開をしていく。おじいさんは悪がしこいタヌキを前に、太刀打ちできない怒りを仲良しのウサギに打ち明けると、今度は数日に渡るウサギのタヌキいじめが始まる。

タヌキの背負った薪に火をつけて火傷を負わせ、薬だと偽って唐辛子入りの味噌を塗り込み、お詫びにと泥の船に乗せ、溺れかけたタヌキをオールで水中に押し込み溺死させる。

このように「悪いことをする奴は酷い目に会う」といった物語のテンプレートは「訓話(モラル・テール)」と呼ばれ、子供向けの物語に数多く存在する。そこには、もちろん道徳教育的な意味合いを含んでいるが、その根底には「モラルを無視する者はひどい目に会うのが当然の報い」という迷信めいた刷り込みから生まれる爽快感がある。

13日の金曜日シリーズはホッケーマスクの殺人鬼“ジェイソン”と共にホラー映画を代表する存在だと言っても過言では無いだろう。しかし、その一方で「ホラー映画なんて、ただ残酷なだけで中身はカラッポ」といった言説の礎になってもいる。

しかし「享楽的なセックスを楽しみ、マリファナを燻らせ、酒を飲んで浮かれて騒ぐ学生が、かつてそんな学生に放っておかれて死んだ少年によって殺されていく。」という訓話の側面を鑑みれば「ただ残酷なだけ」では無いことも浮かび上がってくる。そして、多くの訓話がそうであるように、チャラ男やギャルたちをザックザックと殺していくジェイソンの姿には、喝采を上げたくなる爽快感も孕んでいるのだ。

「中身がカラッポ」であることは特に否定しない。

ファンタジーとしてのホラー

ハリー・ポッターシリーズにはドラゴンやペガサスにケルベロス、大蛇など、現実にはありえない生物が登場し、スクリーンを彩っていく。それら、実際には見たこともない生物の活躍は鑑賞する私たちを高揚させるものだ。

また「トランスフォーマーシリーズでは見慣れた車や飛行機がガシャガシャと変形し巨大な人型ロボットとなっていく。そのイマジネーション溢れる様子には問答無用に感嘆せざるをえない。

これらの例には多くの賛同をしてもらえるだろう。では、全く同じ理由で次の作品を紹介したい。

1982年の作品遊星からの物体Xだ。

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凍える寒さと猛吹雪で孤立無援となった南極観測隊を謎の物体が襲うホラー映画である。この「謎の物体」の生態が揮っている。どうやら宇宙からやって来た、その物体は地球上の生物に入り込むとその外見や記憶、行動様式を保ったまま体内で増殖し、乗っ取ってしまう。しかも、細胞単位で生息が可能なため、人間であれば致命傷であるハズの脳や心臓への攻撃でも、損傷部分を切り離すなどして生き延びてしまう。

乗っ取りに気付かれ体を燃やされるも頭を切り離し、カニのようなグロテスクな姿に変形して逃げていく場面は本作の名場面のひとつだ。

あらぬ方向へ体が捻じ曲がり、想像もつかない姿に形を変えていく。そのイマジネーション豊かな様子は大いなる高揚と心地よい感嘆を捧げずにはいられない。

娯楽としてのツラさ

ネイティブ・アメリカンのある部族には、こんな遊びがあるそうだ。

テントの中で焚き火を炊いて煙で充満したところに篭り、煙たさを我慢し、もはやこれ以上ダメだ! というところでテントから飛び出し、“空気”を楽しむ。

これと似たような遊びは私たちの日常にもある。たとえばサウナは、100℃を越える熱くて蒸した小部屋に篭り、ダクダクと汗を流し、もはやこれ以上ダメだ! というところで飛び出して水風呂に浸かる。

また、「適度な運動」は健康に良いとされているが、趣味でフルマラソンをする人は、私の理解の外側にいる存在だ。絶叫マシンと呼ばれる遊園地の乗り物や、人気の激辛料理店なども“門外漢”にとっては理解不能なものだ。

では、セルビアン・フィルムという作品の存在はどうだろうか?

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ヤクザな生活に嫌気がさし始めたポルノ男優が高額なギャラに釣られ、最後の仕事として「金持ちの変態が個人的な欲望を満たすためだけに作られるポルノ」の出演を承諾してしまう。始めのうちこそ、いわゆるポルノ映画の範疇にある撮影だったが要求は次第にエスカレートしていき、もはや付き合いきれないと逃げ出そうとする。

ここから先、映画は文章化するのもはばかれる空前絶後の最悪な展開をしていく。

本作はホステルあたりから端を発した、いわゆる「トーチャー・ポルノ」と呼ばれるホラー作品群の、ある種の到達点と言っても良いであろう。モラルを破壊し、人間の尊厳を踏みにじる様子は、それが過激であればあるほど、寂寥としたやるせなさが募っていく。

普通に生活していれば、滅多に味わうことのない感覚や感情は「フルマラソン」や「絶叫マシン」「激辛料理」と同じように「娯楽性」を孕んでいるのだ。

人生にホラー映画を!

上記した以外にも、ホラー映画には様々なスタイルがある。謎解きミステリーや、サスペンス、スリラーとの相性は抜群で数多くの傑作があるし、エイリアン2を筆頭にSFやアクションの姿を纏ったホラー映画も多い。シャイニング羊たちの沈黙のように文学性を持った作品だってある。黒沢清監督のホラー作品には映画研究者ですら解釈の海へ突き落とす深遠ささえある。

「ホラー映画」の作品群はひとつのジャンルではくくれない多種多様さを孕んでいる。とは、以前に「カンフー映画」について書いた時と同様である。

そして「ホラー映画を観る」のも「カンフー映画を観る」のも「恋愛映画を観る」のですら、同じ理由がある。

面白いからだ。

趣味でフルマラソンを走る人だって、全身から汗が噴出し舌が熱く燃えるような感覚になる激辛料理も、死ぬんじゃないだろうか? と思うようなジェットコースターも、好きな人にとっては「面白いから」としか言いようが無いのでは無いだろうか?

ホラー映画。面白いよ!

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  • Yuta
    3.7
    とあるyoutuberの動画で「絶対に見たら後悔する。精神に異常をきたしても保証しない」と謳っていたので、気になって見た作品。 倫理・道徳の外側にある映画であることは間違いないんだけど、ぶっちゃけ見ても後悔しないし精神もそこまで揺らがない。 セルビアの映画は珍しいし、エログロに少しでも耐性があって気になる人は見てみてもいいんじゃないかなと思った映画。
  • saya
    4
    簡単に言うと中年版『ブギーナイツ』といった趣のお話です。 落ちぶれたポルノスターが家族の為に再起をかけて奮闘するロッキーのような熱血前半部と、失われた記憶を取り戻そうとするサスペンスフルな後半部という構成も実に素晴らしいです。 後半は非常に悪趣味かつ酷すぎる展開が待ち受けているのですが、映画としては非常に面白くグロ度もそこまで高くないのでかなりオススメです。 まあ良識的な人は絶対観ないほうが良いのは間違いないですが。 ビデオカメラがSONY製だったり、作中に出てくる監督が仕事で日本へ行った過去があったりするのは、日本=HENTAIみたいなイメージなのでしょうか。 この映画では普通では考えられない様々なものを暴力的に犯していますが、意外なことに少女が犯される映像だけは最後まで出てきません。 倫理的に考えると少女よりアウトなものを犯していると思うのですが、そのへんのバランス感覚が非常に面白いと思いました。
  • マツヲ
    -
    20歳未満は見ちゃダメ〜!なエログロ作品 「セルビアンフィルム」 伝説のポルノ男優が高額なギャラで「ポルノの芸術性を極めるプロジェクト」なるものに参加する。 しかしその詳細は全く知らされず、ビビりながら撮影をこなしていくが次第に内容がエスカレートしていく。 というもの 倫理観なんてものは崩壊しています。 妊婦から赤ちゃんを取り出してfuckする「新生児ポルノ」なるものや 自分の戦闘状態の息子を目に突き刺すなど 普通の感覚じゃ観ていられません。 が 要所要所の映像や音楽は美しく、残酷なシーンもそれほどキツいわけではない。 嫌悪感を残し救われない展開ではあるが、嫌いじゃない。 「これが正しいセルビア人の家族」
  • てけてけ
    -
    一言で言ったら「やばい」、二言で言ったら「やばいやばい」 この映画に「やばい」は誉め言葉だろう。。。 ぶっちゃけ、前評判とか予告を見て、直視できないだろうなと思って、作業しながら見た(もちろん吹替はセルビア語なので内容はそこまで理解してない(したくない))。 けど、まぁそんなに内容が難しくもなく、ある程度ストーリーを理解してしまった。(笑) 終盤は胸糞ってことも知っていたし、ある程度の展開は読めてしまった。(笑) まぁ二度と見ないということには変わりないけど。 マーターズ、屋敷女、セルビアンフィルム。これでホラーは割と制覇したか? というか、これはホラーではない気がするが。。。 エロとグロは最終的に行き着く先は同じなのだろうか。 新生児なんちゃらはあれは、倫理観がやばいとか云々の以前に、楽しかったり興奮したりするものなのですかね?まったく意味不明なのですが。 プロデューサーが無駄にかっこよかった(顔だけ)し、音楽も作りこまれてる感があって、クオリティが高かったのは否めない。 最後に俺はこの映画を見て全く興奮しなかったから、正常な人間だと思った。 てかポルノ界のニコラ・テスラってなんやねん。
  • 水色かると
    5
    これが本物のトラウマ映画だと思う
セルビアン・フィルム
のレビュー(947件)