映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』インディの父子関係はスピルバーグ父子を踏襲?時系列で徹底考察【ネタバレ解説】

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』をネタバレありで徹底解説!

『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)に続く「インディ・ジョーンズ」シリーズ第3弾、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)。インディの父親ヘンリーと共に、イエス・キリストの聖杯を巡ってナチス・ドイツと熾烈な戦いを繰り広げる。

というわけで今回は、みんな大好き『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』についてネタバレ解説していきましょう。

映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』あらすじ

時は1938年。世界的に有名な考古学者にして冒険家のインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)は、富豪ドノヴァンから、聖杯捜索にあたっていた父親ヘンリーが行方不明になったことを知らされる。インディはヘンリーから託された日記を手掛かりに、イタリアのヴェニスに飛ぶ。

※以下、映画『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』のネタバレを含みます

自分の父子関係をインディに託した、シリーズ第3作

現在「インディ・ジョーンズ」シリーズは5作目が製作中だが、元々は3部作として考えられていた。スピルバーグはその完結編の脚本家に、クリス・コロンバスを指名する。彼はすでに『グレムリン』(1984)、『グーニーズ』(1985)、『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(1985)と、スピルバーグのプロデュース作品を数多く手がけていた俊英だった。

クリス・コロンバスは、1985年に『Indiana Jones and the Monkey King(インディ・ジョーンズとモンキーキング)』というタイトルのドラフトを完成させる。アフリカを舞台に、ピグミー族やら巨大ゴリラやらゾンビやらが登場する内容だったが(どんな話だソレ)、ストーリーがあまりにも非現実的だったために、最終的に不採用となってしまう。そこでルーカスが幽霊城をテーマにした物語を提案するも、スピルバーグはすでに『ポルターガイスト』(1982)で悪霊の映画を撮っていたこともあり、これまた却下。続いてルーカスが代案として提案したのが、キリストが最後の晩餐に使ったととされる聖杯だったのである。

そのアイディアもあまり乗り気ではなかったスピルバーグは、ルーカスに「インディの父親を登場させてみたらどうか?」と持ちかける。

『最後の聖戦』では、父子の関係を描きたかった。インディの父親像を掘り下げていって、息子に与えた影響などを描きたかった。ジョージに聖杯との関連性を尋ねられた。父親捜しが聖杯捜しの旅となるんだ」
(メイキング映像より、スティーヴン・スピルバーグへのインタビュー抜粋)

スピルバーグの両親は、彼が19歳の時に離婚している。母親を捨て、家族を置き去りにした父親アーノルドに対して、スピルバーグは憎悪にも似た感情を抱いていた。だが長い年月を経てから、実はそれは誤解だったことがわかる。母親のリアが夫の友人に恋愛感情を抱いたことが、離婚の原因だったのだ。スピルバーグの妻ケイト・キャプショー(『魔宮の伝説』のヒロイン、ウィリーを演じた女優)のとりなしもあって、長い間疎遠だった父と息子はようやく雪解けを迎える。『最後の聖戦』は、明らかに自分と父親との関係をインディに仮託して描いた作品なのだ。

そのインディの父親を演じるのにふさわしい俳優は誰か?もともと「インディ・ジョーンズ」は、「007」のようなシリーズものが作りたい、という発想から生まれた。であれば、その適任者は初代ジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリーしかいないはず!ダメ元でスピルバーグはショーン・コネリーにヘンリー・ジョーンズ・シニア役をオファーし、快諾を得る。

大まかなストーリーは、『カラーパープル』(1985)で知られるメノ・メイエスとルーカスが作り、それをSFコメディ『インナースペース』(1987)のジェフリー・ボームが脚本化。すったもんだを経て、『最後の聖戦』プロジェクトはやっと始動したのである。

インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』を時系列で徹底ネタバレ解説

では、ここからは時系列で『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』を解説していこう。DVDの音声解説のようなノリで読んでいただければと。

1912年ユタ州 若きインディの活躍(0:00:00〜)

『最後の聖戦』は、1912年のユタ州から始まる。レザージャケットにフェドーラ帽、明らかにインディと思われる人物が盗掘団のリーダーで、インディはまだ10代の少年だった…という流れるような展開が巧い。インディの少年時代を描こうと提案したのは、ルーカス。スピルバーグは自分がボーイスカウトをしていた経験を踏まえて、このオープニング・シーンを演出していったという。

少年時代のインディを演じたのは、リバー・フェニックス(ホアキン・フェニックスの実の兄である)。青春映画の傑作『スタンド・バイ・ミー』(1986)で注目を集め、『旅立ちの時』(1988)ではアカデミー助演男優賞にノミネート。ティーンエイジャーの頃からアイドル的な人気を博していたが、1993年に23歳の若さで逝去してしまう。

少年時代のインディ役にリバー・フェニックスを推薦したのは、ハリソン・フォード。彼とは『モスキート・コースト』(1986)で親子役を演じていて、「彼は自分の若い頃にそっくりだ」というお墨付きがあったんだとか。この作品での好演が評価されて、後年製作されたテレビドラマ・シリーズ『インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険』の出演もオファーされる。しかし活躍の場を映画中心に考えていたリバー・フェニックスはこれを断り、若き日のインディ役はショーン・パトリック・フラナリーが演じることになった。

・インディが鞭を使い始めたきっかけは?
・インディのトレードマークともいえるフェドーラ帽は、誰にもらったものなのか?
・インディがヘビを嫌いになった理由は?
・インディのアゴあたりの傷はいつできたものなのか?(実際にハリソン・フォードは、若い時の交通事故でアゴあたりに傷がある)

などなど、このシークエンスでインディ・ジョーンズ誕生秘話が語られることになる。

ポルトガル沖でのコロナド十字架奪還(0:11:49〜)

時は変わって、1938年のポルトガル沿岸。フェドーラ帽を被らせてもらった若き日のインディが、顔をあげると現在のインディになっている、という気が利いた演出がナイス。『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』ではいつもベロックにお宝を横取りされていたインディだったが、今回はコロナドの十字架をみごと奪還する。

ちなみに彼のトレードマークとなっているフェドーラ帽、ジャケット、ムチは、スミソニアン国立アメリカ歴史博物館で展示されているんだとか。興味のある方はおいでませ。

大学での講義(0:14:12〜)

インディが大学で講義をしていると、副学長のマーカスがひょこっり現れてお宝について語り合うというのは、『レイダース』と全く同じ流れ。『魔宮の伝説』に不満だったスピルバーグが、第1作のスピリットを蘇らせたいという想いから、このシークエンスを復活させたのだろう。

ちなみにこの講義でインディは、

「考古学が求めるのは“事実”だ。真理ではない。真理に興味がある者は哲学教室に行け」

とアツく語っている。いかにも実地研究者のインディらしい発言だ。彼は『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)でも、

「チャイルドの本を読め。彼は全生涯を発掘に捧げた。真の考古学者は、図書館などに用はない!」

と断言。彼はカラダで考古学を体得した男なのだ。

ドノヴァンからの父親捜索依頼(0:17:20〜)

大富豪ドノヴァンから、聖杯探索中に父ヘンリーが行方不明になったことを知らされる。ここで注意していただきたいのが、ドノバンの妻が「パーティのお客様はほったらかし?」と話しかけるシーン。このとき背後でピアノの旋律が聞こえるのだが、そのメロディーが『スターウォーズ』の「ダースベイダーのテーマ」なのである(曲が判別できないくらいにうっすらと流れるので、耳をダンボにして聞いてください)!

これは何を意味しているのだろうか?前述した通り、この映画は断絶した父子が聖杯をめぐる冒険の中で、次第に和解していく物語だ。一方、永遠の命をもたらすという聖杯の力を背景にして、インディをダークサイドに誘い込もうとするのがドノヴァン。つまり彼は、考古学の狂気に取り憑かれた、もう一人の「黒い父親」なのだ。

『スターウォーズ』に例えるなら、父ヘンリーはオビ=ワン・ケノービで、ドノヴァンはダース・ベイダーというところか(ルーク・スカイウォーカーの本当の父親はダース・ベイダーだけど)。スピルバーグは「ダースベイダーのテーマ」をピアノで流すことで、父子の物語を多層的に描こうとしている。

ヘンリー宅の探索(0:22:15〜)

父ヘンリーが聖杯に関する詳細なメモを記した大切な日記を、自分に託したことを知るインディ。ここから、「父親捜し=聖杯捜しの旅」の物語が始まる。

イタリアのヴェニスへ(0:24:28〜)

インディはマーカスと共に一路ヴェニスへ。いつも思うんだけど、こんだけ世界中を駆けずり回っていたら、大学の講義ってほとんど休講状態になると思うんだけど。普通に考えたら、間違いなく即解雇である。

今作のヒロインである、エルザ・シュナイダー博士登場。うーむ、麗しい!演じるアリソン・ドゥーディは、史上最年少の18歳で『007 美しき獲物たち』(1985)のボンド・ガールに選ばれた、当時新進気鋭の女優。ショーン・コネリーもそうだが、ここにも「007」シリーズとの関連性が認められる。

その後、インディたちは元は教会だったという図書館に移動。床に刻まれた大きなXマークを破壊して、地下に潜る。実はこの展開自体が、ちょっとしたジョーク。インディが大学で講義をしている時に、

「失われた都市とか埋もれた宝は存在しない。地図のX印を掘って宝が出たためしはないのだ」

と力説していたのだが、「実際には、X印を掘って宝が出た」というオチになっているのだ。いや、分かりにくいわ!!!

図書館の地下でインディが遭遇するのは、大量のネズミ。不潔なドブネズミだと出演者が感染症に冒される恐れがあることから、およそ2000匹をスタッフが繁殖させたんだとか。さすがスピルバーグ、やることがハンパなし。

十字剣兄弟団との戦い(0:36:32〜)

聖杯の秘密を1000年間守ってきたという「十字剣兄弟団」に襲われるインディたち。やがてリーダーのカジムから、父ヘンリーがドイツとオーストリア国境にあるブルンワルド城に幽閉されている情報を聞き出す。

その後、インディはちゃっかりエルザとベッドイン。この展開がいかにも「007」的。

ブルンワルド城〜父親との再会(0:44:57〜)

いよいよ、サー・ショーン・コネリー演じるヘンリー・ジョーンズ・シニア登場!いきなり陶器で息子の頭を殴るという、一筋縄ではいかない再会シーン。ここから長年確執を抱えてきた父子の冒険が始まり、映画はよりユーモアを増していく。

一方、マーカスは一人トルコの地中海沿岸にあるイスケンデルンへ。「自分の博物館で迷ってしまうほどの方向音痴」というオトボケキャラだが、考えてみれば1作目の『レイダース』では、まるでインディの父親代わりのような、威厳と貫禄を備えた人物だったはず。

しかし『最後の聖戦』では本物のインディの父親が登場するからして、このままだとキャラが丸かぶり。そこでスピルバーグは、マーカスのキャラを180度激変させて、完全なるコメディリリーフ要員にしてしまったのだ。

ブルンワルド城からの脱出(0:56:31〜)

ここからは怒涛の展開。炎に包まれたブルンワルド城を二人乗りバイクで脱出するまで、アクションに次ぐアクションが繰り広げられる。

当初、バイクのチェイス・シーンは脚本に書かれていなかった。スピルバーグが撮影したフィルムを編集したところ、「思ったほどアクションが少ない」と不安になり、急遽付け加えたんだとか。撮影場所は、スカイウォーカーランチ。ジョージ・ルーカスが立ち上げた映画製作会社、ルーカスフィルム本社がある広大な農場の一部だ。

ベルリン〜日記の奪還(1:07:49〜)

インディはナチスの本拠地ベルリンへ。ナチス将校になりすまし、党大会に出席していたエルザから日記を取り返す。誰よりもナチスと戦ってきたインディが、実はヒトラーと会っていたことがある、というサブプロットが面白い。

ヒトラーがサインを書きながら歩いているシーンに注目。その背後に、『レイダース』でゲシュタポのトート役を演じたロナルド・レイシーが映っているのだ!丸メガネにチョビ髭を生やした黒帽子を探してみて欲しい。群衆に紛れても目立つ顔なので、すぐ分かるはず。

なおナチスが着用している制服のほとんどは、レプリカではなく本物。衣装デザイナーのアンソニー・パウエルが、この映画のために東ヨーロッパからわざわざ調達した。

ツェッペリンでのひととき(1:10:42〜)

ドイツの硬式飛行船ツェッペリンに乗って、脱出をはかるインディたち。父子の軽妙なやりとりが楽しいが、実は元の脚本から大幅にセリフが書き直されている。『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』で知られる戯曲家で、『未来世紀ブラジル 』(1985)や『太陽の帝国』(1987)などの脚本を務めたトム・ストッパードを招聘して、シナリオを書き直させたのだ。

スピルバーグのコメントを抜粋してみよう。

「エモーショナルなストーリーではあるけれど、感傷的な話にはしたくはなかった。父子の断絶がコメディの基礎になっていて、クレジットはされていないけど、トム・ストッパードにそのあたりをやってもらった。彼はすべてのセリフに対して責任があるんだよ」
(雑誌エンパイアより、スティーヴン・スピルバーグへのインタビュー抜粋)

アンクレジットながら、『最後の聖戦』はトム・ストッパードの貢献がかなり大きいと言えるだろう。彼はこの仕事で、12万ドル+ボーナス100万ドルの報酬を得たという。

複葉機での戦い〜車での逃走(1:16:17〜)

見事な技術で複葉機を操縦するインディ。確か『魔宮の伝説』では、ウィリーに「(飛行機)を操縦できるの?」と聞かれて「いや。君は?」と答えるシーンがあったが、いつの間にか訓練をしたんだろうか。ちなみに実生活のハリソン・フォードは、飛行機とヘリコプターの操縦ライセンスを持つ熟練パイロット。山岳遭難者の人命救助を行うNGOのメンバーでもある。

ヘンリーが傘で威嚇してカモメを一斉に飛び立たせ、敵の飛行機を撃墜させる場面。カモメは非常に訓練しにくい鳥のため、実際には白い鳩が使われている。

ハタイ共和国(1:21:20〜)

ナチスがハタイ共和国の領域内で、聖杯散策の許可を求める場面。今でこそハタイはトルコに編入されているが、当時は共和国として独立を宣言したばかりだった。

三日月の谷へ(1:23:20〜)

我らがインディが馬にまたがり、一人戦車に立ち向かう。このシーンも最初の脚本にはなかった。ルーカスが突然「第一次世界大戦の戦車を出したい」と言い出し、スピルバーグがストーリーボードを描いて撮影に臨んだのだ。2日半で撮り終わる予定だったが、スピルバーグにしては珍しくスケジュールが大幅に遅延して、10日になったという。タフな撮影となったが、その価値があるスリリングなシーンとなっている。

秘密の神殿への到着〜3つの試練(1:39:12〜)

いよいよ、聖杯が隠された秘密の神殿に到着。ロケ地となったのは、世界遺産にも登録されているヨルダンのペトラ遺跡。『トランスフォーマー/リベンジ』(2009)のロケ地としても使われている。

訪れる観光客は毎年数千人程度だったが、『最後の聖戦』のヒットのおかげで一躍人気観光スポットに。そしてヨルダンといえば、スピルバーグのフェイバリット・ムービーの一つ『アラビアのロレンス』(1962)のロケ地でもある。

ドノヴァンに銃で撃たれてしまうヘンリー。このとき使用されたピストルが、ジェームズ・ボンドの愛銃ワルサーPPK。そしてドノヴァンを演じるジュリアン・グローヴァーも、『007 ユア・アイズ・オンリー』(1981)で悪役を演じている。この作品、どこまでも「007」オマージュ満載なのだ。

父の日記を頼りに3つの試練を突破したインディの前に現れるのは、700年間も聖杯を守ってきたという騎士。演じているのはロバート・エディスンだが、この役は元々ローレンス・オリヴィエが考えられていた。オリヴィエといえば、『レベッカ』(1940)、『ヘンリィ五世』(1945)、『リチャード三世』(1955)などで名演技を披露してきた、20世紀を代表する名優。だが当時彼は病に臥せっており、この映画の公開直後に亡くなっている。

エンディング(1:58:29〜)

映画のラストで、インディ・ジョーンズの本名がヘンリー・ジョーンズ・ジュニアで、“インディアナ”は飼っていた犬の名前だったことが判明。元々インディアナという名前自体、ルーカスが飼っていた犬の名前にちなんだものだから、それを映画でも踏襲した訳だ。

スピルバーグにとって最も“個人的な”インディ映画

スピルバーグはこの作品に関して、こんなコメントを残している。

「『最後の聖戦』のテーマは信仰だ。父への愛を信じることだ。過去には親子関係はなかったが、少しずつ信頼を取り戻す」
(メイキング映像より、スティーヴン・スピルバーグへのインタビュー抜粋)

初期作の『未知との遭遇』(1977)や『E.T.』(1982)で、父親の不在を描いてきたスピルバーグ。やがて自分自身が父親と和解することで、『宇宙戦争』(2005)や『リンカーン』(2012)のような、「家族を守る強い父親」を描くようになる。『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』は、スピルバーグにとって最も“個人的な”作品なのだ。

父アーノルド・ スピルバーグは、家族に囲まれるなか2020年8月25日に死去。103歳の大往生だった。

※2021年10月1日時点の情報です。

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