どうも、侍功夫です。
『ズートピア』観ましたか?
動物たちだけが暮らす街“ズートピア”に暗躍する陰謀に力の弱いウサギの警察官ジュディとキツネの詐欺師ニックが立ち向かっていく、全体的には愉快で可愛らしい映画だが、非常に解りやすい形で私たちの住む社会が投影されている。
ジュディが警察署内で受ける差別的な仕打ちは、そのまま私たちの社会で女性が受けるものだし、肉食動物が受けるのはステレオタイプな黒人偏見に基づく差別と同様のものだ。
このように、対象とする事象を「別の何か」に投影して見せる時の「別の何か」のことを“メタファー”という。たとえば『ズートピア』のジュディは「社会における女性のメタファー」である。
今回はこれら、映画のメタファーを取り上げる。
人種問題を投影する
上記した『ズートピア』がそうだが、人種差別や民族浄化の大虐殺など、正面から描けばシャレにならない描写になってしまう事柄もメタファーとして扱えば、加減の効いた描写でも本質を描くことが出来る。
「Xメン」シリーズ
特別な遺伝子を持つ“ミュータント”集団の活躍を描く「Xメン」シリーズ。原作コミックスが発表されたのは1963年。アメリカでは黒人たちによる公民権運動がピークを迎え、黒人を中心とした約20万人もの人々がワシントンで行進をした、いわゆる「ワシントン大行進」のあった年だ(ワシントン大行進が1963年の8月。「X-メン」コミックス第1号の発売が同年11月)。
人間との共存を目指すプロフェッサーXと優れた能力で人間を支配すべきだと主張するマグニートは、当時の黒人公民権運動の指導者キング牧師とマルコムXになぞらえている。
映画版1作目『X-メン』ではミュータント隔離政策「ミュータント登録法案」をめぐる戦い。2作目『X-MEN2』ではミュータント根絶を目指すジェノサイドとの戦い。それぞれ、南アフリカのアパルトヘイトと第二次世界大戦当時、ドイツナチス党による民族浄化を想起させる。
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複雑な社会情勢から湧き上がる不安や、断片だけでは不条理にも思える出来事を、メタファーとして単純化・記号化することで、深い理解への糸口になる。
『SF/ボディ・スナッチャー』『未知空間の恐怖/光る眼』など侵略SF
人間をいつのまにか乗っ取ってしまう侵略系SFが描く「見た目は同じなのに中身は全く違う隣人」とは、冷戦時代の共産主義へのアレルギー的な嫌悪だ。
「形状や種類・種族としては「同じ人間」なのに、自分には全く理解のできない考え方をしている人は、理解の出来なさという点から見れば宇宙人と同じだし、しかも自分にその考え方を勧めてくるのは全く気持ちが悪い。」という無理解が産む恐怖が、謎の宇宙人に投影されている。
『ディヴァイド』『フェーズ6』など終末世界SF
少し前に流行った本「世界がもし100人の村だったら」は、複雑化した世界情勢を「100人」に単純化することで、富の独占や貧困の蔓延などを解りやすく解説していた。この手法をさらにソリッドにしたのが終末世界SFだ。
映画『ディヴァイド』ではシェルターに閉じ込められた9人の男女が。『フェーズ6』では謎の死病によって人類がほとんど死に絶えた世界の中で7人の男女が。それぞれ暴力的なリーダーが生き延びるために少数の者が虐げられる。
つまり、私たちが生きているということが、すなわち第三国の貧困者や政治的に弱い他の誰かの死の上に成り立っていることを描いている。
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そのものズバリを言い表すのは躊躇われる事柄を表現する時に便利なのがメタファーで、その代表格がセックスだろう。愛の行為であると同時に淫靡な快楽でもあり、人間の行為の中でも随一の面倒臭さを誇っている。また、そういった特別さから、セックスを他の何かに投影させることも多い。
『塔の上のラプンツェル』
『塔の上のラプンツェル』幼いころからずーっと高い塔の上に幽閉されていたラプンツェルの「一度も切られたことの無い髪の毛」は「性体験の無さ」のメタファーだ。
マザー・ゴーテルが不在の間に、こっそりと塔の外へ出たラプンツェルが喜んだり心配したりを繰り返す描写は、嬉しいんだけど同時に後ろめたさや不安もある、DREAMS COME TRUE(ドリカム)が「うれしはずかし朝帰り」で歌った心境そのものだ。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】『LOVE【3D】』
(C)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
『LOVE【3D】』主人公マーフィーはそれなりに好奇心を持って様々なセックスに向かっていくが、かつての恋人アレックスはさらに飛び越えるように上を行く。男女のセックスのみならず、同性とのセックスにSM的な倒錯したセックス、複数人でのセックスなど、あらゆるセックスに自然と入り込んで行く。
セックスは基本的には好きな相手と行うものだ。“金銭的契約上のセックス”の場合でも“買う側”は出来るだけ自分の好みに近い相手としたいと希望するだろう。しかし、稀に快楽追求のために相手の美醜や性別、スタイルや人数に囚われない人が存在する。この“差”は、極めて生理的なもので易々とは超えられない。何に対して“興奮”するか(セクシャリティ)は、自分で決められないからだ。
本作でセックスが表しているのはマーフィーの職業が映像作家であることを鑑みて“芸術的な才能”のことであろう。
“絵心”を例に考えれば解りやすいと思う。絵心がまったく無い人にとって、鳥山明や大友克洋の超絶技巧は、何をどうすれば書けるのか解らない、全く理解の範疇を超えた存在に映るのではないだろうか。
メタファーに託すことで生まれる意味
上記した例は、事象の意味をメタファー表現で伝えるものだが、逆にメタファー表現することで初めて生まれる意味というものもある。
『インサイド・ルーウィン・デイビス 名もなき男の歌』
(C)Photo by Alison Rosa ©2012 Long Strange Trip LLC
ひょんなことからネコを持ってあっちこっちへ移動せざるをえなくなった売れないフォーク歌手を描いた本作。『インサイド・ルーウィン・デイビス 名もなき男の歌』タイトルロール「ルーウィン・デイビス」の日々を振り返ってみると面白いことに気づくだろう。
フォーク・シンガー仲間のアパートに転がり込んで、リビングのソファーを定宿として使わせてもらっているが、あんまりタダで泊めてもらうのも気後れして、つい甘い言葉を囁いてベッドを共にしてみたり。だけど計画性は無いから妊娠させてしまう。行けばいつでも泊めてくれるしご飯を御馳走してくれる大学教授がいるけれど、なんだか可愛がりが過ぎて居心地が悪いので徹底的に他が無い時にしか行かない。
これは正しくネコの生態そのものだ。
心地の良い場所をめざとく見つけると周囲の視線など気にせずにゴロリと横になり、腹が減ったら誰かに頭をグリグリ押しつけてエサを獲得する。その一方で気高くもあり、過剰に触りたがる奴には爪をたてる。
ネコはなぜ存在しているのだろうか? ネコがいなくても人間は死なない。しかしネコは「かわいいから」存在している。フォーク歌手だっていなくたって死にはしない。しかし、いれば楽しい。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』
『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』引っ越し船旅の途中、嵐に会ったピシン:パイくん。からがら乗り込んだ救命艇にはシマウマ、ハイエナ、オランウータン、それにトラと、動物ばかりが乗っていた。動物たちは殺し合いを始め、最終的にはトラとパイくんのみが残り、奇妙な共同サバイバル漂流をするハメになる。
本編の大部分を割いて語られるパイくんのサバイバルだが、これはパイくんの内相的な風景であったことがラストで明かされる。シマウマ、ハイエナ、オランウータンはそれぞれ水夫、コック、そして母親であり、トラはパイくん自身のことであったのだ。
本作が描くのは「何かを何かに例えて表現することの有用性」。つまり「メタファーの有用性」とも言い換えられるだろう。
パイくんの“実際の”漂流の旅は凄惨を極めたものであった。それをそのまま記録するのは辛いし、パイくん自身が記憶するのはもっと辛い。しかし、それを知るのも体験したのも、今となってはパイくん一人だ。であるなら、わざわざ辛い思いをする記憶よりも、概要をふんわりと記憶するトラとの漂流の方が誰も傷つかない。ならば、それがたとえ実際には起こっていない内相的な風景であったとしても、そっちでイイじゃないか。というのが『ライフ・オブ・パイ』である。
ちなみに。パイくんの本名はフランス語で“きれいなプール”を意味する「ピシン・モリトー」だが英語で「ピシン」が「立ち小便」と同じ発音になるので替わりに「パイ」を名乗る。「パイ」は円周率を表す記号「π」で、未だに終わりまで計算されつくしていない「3.1415926……」の替わりとして使われている。
このように、本作には「何かを何かに変えて表現することの有用性」が多く登場する。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】メタファーは、解らなくても大丈夫
私がまだ小学校低学年だったころ。ウルトラマンシリーズのリバイバルブームでシリーズ作のどれかがローテーションで早朝と午後に毎日再放送されていた。そんな中でも人気だったのはウルトラセブンだ。
今でこそウルトラセブンの先鋭性やメッセージ性は各界著名人に語り尽くされているが、当時はまだそこまで深い理解はしていなかった。しかし、それでも「これは、ほかのウルトラマンとはちがう……」と、子供ながら思っていたものだ。
『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』の公開劇場でキツネにつままれた様子の小さな子供を見かけたが、あの子たちも「これはきかんしゃトーマスとはちがう!」と思ったに違いない。同様に『ズートピア』を観たメインターゲットである多くの子供たちも楽しく鑑賞しこそすれ、見た目だけでは無い不穏さの奥行きを感じとっていただろう。
作家が作品に込めたメタファーは、子供たちに限らず全ての視聴者の理解を得られるワケではない。しかし、それでも何某かの奥行きは観た人々の心に爪痕のようなものを残している。
今はまだ、解らない表現があったとしても、いつかフとした拍子に気づき、作品の奥行きを改めて理解し、ハッとするような体験をするのもメタファーの有用性の一つだと言えるだろう。
今回は解らなくても大丈夫なテーマだったが、次回は解ってもらえないとさみしい「オマージュ」について解説する予定。
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