どうも、侍功夫です。
みなさんインド映画見てますか?
「インド映画って全部3時間以上あるんでしょ〜!?」
「インド映画って全部ボリウッド映画でミュージカルなんでしょ〜!?」
「インド映画って絶対にハッピーエンドになるんでしょ〜!?」
などなど。様々なインド映画を揶揄する言葉があるが、少なくとも上記した3つはウソである。
そこで、正しいインド映画の“リテラシー”を会得し、娯楽の王道を行くインド映画をもっと楽しむ手引きをしていきます!
Q:インド映画は全部3時間以上ある?
A:最近はだいたい2時間くらい。長くても2時間半くらいまでが主流。
まず、そもそも。ごく最近まで映画は「約3時間の娯楽」であった。
日本では90分の2本立て上映が一般的で、たとえば70年代東映の「仁義なき戦い」シリーズは千葉真一の空手映画とセットで公開され、東宝の加山雄三「若大将」シリーズは艶っぽい恋愛ドラマや特撮映画と併せて公開されていた。80年代に入ってからも角川映画では薬師丸ひろ子と原田知世それぞれの主演作を併せて上映するといった興行が行われていた。
アメリカではニュース映画やアニメ映画などと併せて上映されていた。ちなみにジョー・ダンテ監督作でたびたび本編前にアニメ映画の上映があるのは、当時の興行形態と当時のアニメ作家へのオマージュだ。
このように、何本かの映画を同時上映して3時間の枠:プログラムを埋めていくのが、いわゆる「プログラム・ピクチャー」である。
この上映形態がインドに渡ると、なぜか長い1本の映画を休憩で半分に割って上映するスタイルに変化する。このスタイルが定着したことでインド映画は作劇自体も2部構成が前提になっている。たとえば、前半終了間際に「実は孤児だと思われていた主人公は立派な貴族の家系で両親も健在だった!」とか「死んだと思われた最悪な悪党が死んでいなかった!」といったサスペンスが描かれ「うっひょー! この先どうなっちゃうのぉ〜!」と後半への“引き”を演出するのだ。
そこまで「3時間」という長さがインド映画に染みついているにも関わらず、近年の映画は2時間ほどが主流になっている。これはハリウッド作などの欧米作品からの影響と、シネコンの台頭が原因だ。少ない窓口で多くのスクリーンを運営できるシネコンのシステムは「3時間」という枠に拘らないプログラムが作れるのだ。
しかし、短くなっても2部構成の作劇は健在で、途中の休憩も残されている。この休憩の間に油っこいおやつや甘~いチャイを嗜むのがインド流だ。トイレが近くなってきた筆者にとってはとても親切な設計だと言えるが、日本で上映される際には途中の休憩を無くしてしまうことが多く、実に不親切である。
Q:インド映画は全部ボリウッド・ムービーなんでしょ?
A:アメリカ映画が全てハリウッド映画では無いように、インド映画もいろいろある。
「ボリウッド」とはボンベイ(現在のムンバイ)の大手スタジオで制作されたヒンディ語映画を総称する呼び名である。
日本でも有名なラジニ・カーント作品は南インドのタミル語映画でチェンナイのコダムバカムという地域にあるスタジオで作られているので「コリウッド」。『バーフバリ伝説誕生』や『マッキー』はテルグ語映画で「トリウッド」。ひと昔前の日本ではインド映画の代表格だったサタジット・レイはベンガル語映画で、トリガンジ地区で作られるのでテルグ語映画と同じく「トリウッド」と呼ばれているのがややこしい。他にもマラヤーラム語のモリウッドとかカンナダ語のサンダルウッドとかインドの映画業界には「とりあえずウッドいっとくか!」という不思議な感覚があるようだ。
アメリカのハリウッド映画とニューヨーク派の作品が違った傾向になるのと同様、大きなスタジオを駆使したミュージカルレビューが描かれることの多いボリウッド作に、暴力的な描写が大仰に描かれるコリウッド作といった、おおまかなテイストの差がある。
日本でもメジャースタジオの東宝、東映、松竹それぞれの作品やインディーズ系作品、テレビ局主導作品で違ったテイストを持っているのと同様にインド映画も当然のようにひとくくりには出来ないのだ。
Q:インド映画は全部歌って踊るミュージカルでしょ?
A:今も昔も、インド映画はいろいろある。
日本ではラジニ・カーントの『ムトゥ 踊るマハラジャ』特大ヒットの影響により、インド映画とはすなわち「3時間を超えるミュージカルである」といった偏見に見舞われている(日本のインド映画ファンの間では「ムトゥの呪い」とまで言われている)。
しかし、今も昔もインド映画には様々なスタイルが存在していた。たとえば上記したサタジット・レイの代表作『大地のうた』『大河のうた』『大樹のうた』のオプー三部作は、それぞれ約2時間。ミュージカルシーンは存在せず、少年「オプー」が大人へ成長する過程を静謐なトーンで見守っていく文芸作品だ。
日本では蓮実重彦が絶賛したことで一部のシネフィルに知名度が高いグル・ダットはカテゴリーとしてはボリウッド作品になるのだが『紙の花』や『渇き』など悲痛なメロドラマの傑作を残している。
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近年の作品群はもっと多彩で『女神は二度微笑む』はラストのどんでんがえしで観客を欺く見事なサスペンスだし、欧米ホラー作品の影響を色濃く受けたゾンビ映画『インド・オブ・ザ・デッド』や、国際的な映画祭を狙い撃ちした社会派作品など、さらなる多様化が推し進められている。
(C)Eros International Ltd 2013
よく考えてみれば解るハズだが、日本の映画が全て時代劇では無いように、インド映画も全てミュージカルであるハズが無いのだ。
Q:インド映画ではキスやベッドシーンはNGなんでしょ?
A:『きっと、うまくいく』ラスト覚えてますか?
キスシーンやベッドシーンが禁止されているために、代替え表現としてミュージカルがある。という話もあるが、これも厳密にはウソ。
なが〜いキスシーン(情熱的では無く可愛らしいものだけど)がある『きっと、うまくいく』。主演のアーミル・カーンは高確率でキスシーンを演じる「キス魔」として知られている。ボリウッド界の“キング”シャー・ルク・カーンは長いキャリアの中で頑なにキスシーンを拒否してきたが『命ある限り』でロマンチックなキスシーンを演じた。このように、ハリウッド映画ほど頻繁には描かれないが、日本映画と同程度にキスシーンは登場している。
ベッドシーンで言えば『マルガリータで乾杯を!』で、障害を持つ女性のベッドシーンが描かれているし、実在の盗賊出身の政治家を描いた『女盗賊プーラン』では集団レイプも描かれている。男性諸君なら一度は前のめりに聞いたことのあるインド発祥の“愛の聖典”「カーマスートラ」も、その名もズバリ『カーマ・スートラ/愛の教科書』として映画に取り入れられている。
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邦画と同様、インドでも性を描く作品は決してメインストリームでは無いが、全く無いワケでもない。
Q:インド映画には9つの感情を入れなければいけなくて、必ずハッピーエンドなんでしょ?
A:ルール化はされたことは無いです。
「9つのナヴァ・ラサ」と呼ばれたりする「インド映画のルール」。そもそも、この「9つのナヴァ・ラサ」は2~5世紀ごろに記されたインドの演劇論「ナーティヤ・シャーストラ」に登場する用語で、伝統舞台劇の中で表現されるべき「9つの感情」のことだ。つまり“インド伝統舞台劇の規定演技”と言い換えられるだろう
以下「色気(ロマンス)」「笑い(コメディ)」「哀れ(お涙頂戴)」「勇猛さ(アクション)」「恐怖(スリル)」「驚き(サスペンス)」「憎悪(敵役の存在)」「怒り(復讐)」「平安(ハッピーエンド)」の9つ。これら9つもの感情を喚起させるように作るから映画は3時間を越えて、必ずハッピーエンドで終わる、というのがインド映画における「9つのナヴァ・ラサ」である。
確かにラジニ・カーントの主演作群やボリウッドの名作群は、それら様々な要素が盛り込まれている。
ところが、1960年の大傑作『偉大なるムガル帝国』は身分違いの恋から皇族親子が対立した末、戦争にまで発展する「ハッピーエンド」とは言い難い終わりを迎えるし、何度もリメイクされた『デーブダース』は惹かれ合う2人が家族同士の不仲から引き裂かれてしまうメロドラマで、この作品の終わり方を一言で表すなら「バッドエンド」だ。
「9つのナヴァ・ラサ」は言ってみれば「インド映画の中でも比較的多めな作風」ではあるが、無論“全部”なんてことは無いし、もちろんルール化されてもいない。
インド映画を観ない理由
インドでは年間約1,000本ほどの新作映画が製作・公開されているそうだ。
それほどの本数が作られていながら、その中から日本で上映されるのは年に数本からせいぜい十数本。近年では日本でインド映画を上映する独立系イベントも多く、年々増加しているとはいえ、1/100程度しか上映されていないことになる。
逆に考えれば、日本で上映されるのは約1,000本の作品を蹴落として勝ち上がった厳選された作品だ。
実際、日本で上映される作品には傑作が多い。近年ではネットフリックスなどの動画配信サービスで劇場公開されていない作品の配信も始まり、こちらでも評価の高い作品が並んでいる。
今、日本で観られるインド映画を観ない理由、無いよ!
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