映画『DUNE/デューン 砂の惑星』スパイスが象徴するものとは?完全IMAX仕様であることの意味とは?徹底考察【ネタバレ解説】

ヒットガールに蹴られたい

竹島ルイ

2021年10月15日に公開した映画『DUNE/デューン 砂の惑星』をネタバレありで考察!難解な設定を徹底解説。

ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、ゼンデイヤ、ジェイソン・モモア、ハビエル・バルデムといった豪華キャストを揃えたSF超大作『DUNE/デューン 砂の惑星』。『メッセージ』(2016)や『ブレードランナー 2049』(2017)など、SF映画の傑作を世に送り出してきたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の最新作だ。

新型コロナの世界的流行に伴って1年ほど公開が延期された本作が、日本では10月15日から公開されている。という訳で今回は、話題作『DUNE/デューン 砂の惑星』をネタバレ解説していきましょう。

映画『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021)あらすじ

時は10191年。主人公ポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)とその父親レト公爵(オスカー・アイザック)は、皇帝からの命を受けて砂漠の惑星アラキスへと移住する。そこでは貴重なスパイス「メランジ」が産出されていて、それまではアトレイデス家の宿敵ハルコンネン家が治めていた。だが、この移住の裏には大きな陰謀が隠されていた……。

※以下、映画『DUNE/デューン 砂の惑星』のネタバレを含みます

デヴィッド・リンチ版からおよそ35年。天才ドゥニ・ヴィルヌーヴが挑むSF超大作

アメリカ人作家フランク・ハーバートによるSF小説シリーズ、「デューン」。1965年にネビュラ賞、1966年にヒューゴー賞を受賞し、『スター・ウォーズ』(1977)、『風の谷のナウシカ』(1984)にも影響を与えたと言われる、SF小説の金字塔だ。

この偉大な原作を、『エル・トポ』(1970)や『ホーリー・マウンテン』(1973)を手がけたアレハンドロ・ホドロフスキーが映画化しようとしたが、製作費が膨れ上がってしまい頓挫。このあたりの顛末は、後年ドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』(2013)に詳しく紹介されている。

ホドロフスキーに代わって、この小説の映画化に挑んだのがデヴィッド・リンチ。言わずと知れた、『エレファント・マン』(1980)、『マルホランド・ドライブ』(2001)で知られる“カルトの帝王”だ。だが、プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスとの指向性の違いが露わとなり、“世紀の失敗作”の烙印を押されてしまったのは、「デヴィッド・リンチ版『デューン/砂の惑星』はなぜ“世紀の失敗作”の烙印を押されてしまったのか?徹底考察【ネタバレ解説】」にて解説させていただいた通り(とはいえ、随所にリンチらしさが滲み出ている必見作であることは、声を大にして言っておきます)。

それ以降も、「デューン」はクリエイターたちの創作意欲を刺激し、身も心も虜にする“スパイス”であり続けた。2008年には、パラマウントが20年ぶりに映画化することを発表。監督はピーター・バーグが務める予定だったが、なんやかんやで降板。後任にはピエール・モレルが起用されたが、プロジェクトは遅々として進まず、2011年に製作中止となってしまう。

そして2016年。今度はレジェンダリー・ピクチャーズが、「デューン」映像化権の獲得を発表する。レジェンダリーといえば、『ダークナイト』(2008)、『パシフィック・リム』(2013)、『GODZILLA ゴジラ』(2014)、『インターステラー』(2014)などなど、オタク心をくすぐる映画を次々に世に送り出してきた映画製作会社。プロデューサーのメアリー・ペアレントとケイル・ボルターは、今度こそ「デューン」映像化作品の決定版を作るべく、卓越したビジョンを持った監督探しに動き出す。

やがて二人は、この映画にふさわしい人材を探し当てる。その男の名は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ。クライム・サスペンス『プリズナーズ』(2013)、新感覚ミステリー『複製された男』(2013)、メキシコ麻薬戦争を描いた『ボーダーライン』(2015)と話題作を次々に手がけ、近年は、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」を映画化した『メッセージ』(2016)、伝説的SF映画の続編『ブレードランナー 2049』(2017)と立て続けにSF作品を発表した、今最も注目される映画監督のひとりだ。

ヴィルヌーヴは少年時代に「デューン」を読んで衝撃を受け、この作品を映像化することが長年の夢であることを公言してきた。そのインタビュー記事をメアリー・ペアレントとケイル・ボルターが見つけ、彼にコンタクトをとったのである。

「(原作は)13歳か、14歳のときに読んだ。(中略)この作品は私の心にずっと残っていた。誰かが「君の一番の夢は何だい?」と尋ねたら、私は決まって「デューン」と答えていたよ。ちょうどその頃、レジェンダリーが権利を獲得したんだ。私たちは出会って45秒で契約が成立した。私はそれをやりたかったし、彼らも私と一緒にやりたいと思ってくれていた。そして私たちは、この映画がどうあるべきか、同じ情熱と同じビジョンを共有したんだ」
(wired記事より、ドゥニ・ヴィルヌーヴへのインタビュー抜粋)

かくしてドゥニ・ヴィルヌーヴは、1億6,500万ドルと言う巨大なバジェットをかけて、長年の夢だった「デューン」の映画化に取り組むことになったのだ。

ちなみにデヴィッド・リンチは、ヴィルヌーヴ版『DUNE/デューン 砂の惑星』への興味はゼロだと明言。「自分が製作した時の辛い記憶が蘇るからだ」と言うことなのだが、よっぽど彼にとって心の傷になっているようである。

隅々まで理知的な計算が行き届いたシナリオ

ヴィルヌーブは、エリック・ロス(代表作:『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008))とジョン・スペイツ(代表作:『プロメテウス』(2012)、『パッセンジャー』(2016))を脚本家として招聘し、長尺なストーリーをどのように映画に落とし込むべきか、徹底的にブレストを重ねる。

そもそも原作は、

「デューン/砂の惑星」(1965)
「デューン/砂漠の救世主」(1969)
「デューン/砂丘の子供たち」(1976)
「デューン/砂漠の神皇帝」(1981)
「デューン/砂漠の異端者」(1984)
「デューン/砂丘の大聖堂」(1985)

の全6部から成っていて、第1部の「デューン/砂の惑星」だけでも上中下3巻に及ぶボリューム(2016年出版の新訳版)。デヴィッド・リンチ版は第1部を丸ごと映画化しているが、ストーリーを咀嚼しきれず壮大なダイジェスト版になってしまった。

これをどう処理するべきか? 映画の冒頭で「デューン PART1」と銘打っている通り、ヴィルヌーブが出した答えは、第1部をさらに2部作に分割して製作することだった。今作では、「ポール・アトレイデスとその母レディ・ジェシカが、ハルコネン家の襲撃をくぐり抜けて、砂漠の民フレーメンと出会うまで」にストーリーを絞り込んでいるのである。

ハッキリ申し上げて、お話としてはめちゃくちゃ地味。サンドワームからスパイス採掘機を救出したり、ダンカン・アイダホ(ジェイソン・モモア)がサーダカー(皇帝直属の親衛兵)と戦ったりするシーンはあるものの、アクションとしてアガる場面は極端に少ない。

フラップターで脱出したポールとレディ・ジェシカが敵機に追いかけられるシーンでも、てっきり激しい空中戦が繰り広げられるものと思いきや、砂嵐に飛び込んで九死に一生を得るというアッサリ展開。「デューン PART1」は、ポール・アトレイデスがクイサッハ・ハデラッハとして覚醒するまでの物語でもあるからして、「最後の決闘シーンまでは彼に人を殺させない」という縛りがあるのだ。

アクションが物足りないという不満は、おそらく「デューン PART2」で解消されることだろう。ヴィルヌーブもこんなコメントを残している。

「私にとって、「デューン PART1」は前菜のようなものだと思っている。「デューン PART2」は、さらに多くのものを加えることができるメイン・ディッシュだ。「デューン PART1』」がこれまでで最もエキサイティングなプロジェクトであったように、「デューン PART2」はすでに私を興奮させているよ」

筆者が感心したのは、有象無象のキャラクターが入り乱れる群像劇を、ポール・アトレイデスに焦点を当てた物語に再構築することで、物語としての分かりやすさを徹底させたこと。原作では、帝国を統治する“皇帝”シャッダム四世、領家たちによる組織ラーンスロード、宇宙航行を仕切っているギルドの3勢力が拮抗している設定だが、今回の作品ではあえてギルドの存在感を希薄にして、「アトレイデス家とハルコネン家のメランジ採掘権争い」というわかりやすい構図にしている。その裏では皇帝が糸を引いていて、日の出の勢いのアトレイデス家を殲滅せんとしている、という訳だ。

メランジだのヴォイスだのクイサッハ・ハデラッハだのベネ・ゲセリットだの、聴き慣れない独自のワードが横溢しまくっている問題もあった。原作にも、

「学ばなければならないことはあまりにも多い。(中略)ポールの心は新たに得た知識で混乱していた。」
(「デューン 砂の惑星」〔新訳版〕 (上) より抜粋)

という一節が出てくるのだが、これは初めてこの作品に接する全ての人間が抱く想いだろう。ヴィルヌーヴは、まずオープニングでチャニ(ゼンデイヤ)に大まかな設定をモノローグという形で語らせ、ポールがアラキスの生態系について勉強しているシーンをインサートさせることで、鑑賞者にも自然に情報が伝達できるよう工夫を凝らしている。

DUNE/デューン 砂の惑星』には、隅々まで理知的な計算が行き届いているのだ。

スパイスが指し示すものとは何か?

フランク・ハーバートの原作は、明らかにイスラム教色の強い作品だ。ポールという主人公は、異教徒の迫害を恐れてメッカからメディアの地に逃れたマホメット(ムハンマド)のようだし(おそらくそうなのだろう)、ジハード(聖戦)やウンマ(民族、国家)など、アラビア語まんまのワードが出てきたりもする。

だが、2021年のいま砂漠の民が皇帝に反乱する物語を実直に描いてしまうと、どうしたって彼らをイスラム過激派と重ねてしまう。映画で描かれているものが現実と近接していることで、別の意味に置き換えられてしまう危険性があるのだ。くしくもアフガニスタンでは、アメリカの軍撤退を受けてイスラム主義勢力タリバンが再び権力を握る、という事態が発生している。

ヴィルヌーヴが、できるだけイスラム教的なものを抑制しようとしていることは間違いない。映画でも「聖戦」という表現は出てくるが、ジハードという言葉は周到に避けられている。ドーハに拠点を置くテレビ局アルジャジーラは、その事実を批判的に記事にしている。

本をよく知るファンは、作品に大きな欠落があることに気づいた。それは、イスラム教に影響された小説の枠組みについての言及である。実際、予告編では「a crusade is coming」という言葉が使われているが、これはキリスト教の聖戦を意味する言葉であり、原作シリーズの6冊の本の中ではわずか3回しか登場しない。ファンが探していたのは「ジハード」という言葉だ。これはシリーズの基礎となる言葉であり、必要不可欠な概念である。しかしジハードは悪いブランディングだと思われており、ハリウッドではイスラム教は撃たれるべき存在でないと売れないのだ。
(アルジャジーラの記事より抜粋)
https://www.aljazeera.com/opinions/2020/10/11/paul-atreides-led-a-jihad-not-a-crusade-heres-why-that-matters

アメリカは「イスラム教=悪」という考え方に凝り固まっている、という批判である。その通りかもしれない。だが筆者には、そのアメリカすらも露悪的に描くことで、「イスラム教=悪」という保守的な態度からも逃れようとしているのでは、と感じている。

おそらくヴィルヌーヴは、スパイス採掘の様子を丹念に描くことで、「スパイスとは石油の比喩である」ことを明確に打ち出すことにしたのでないだろうか。皇帝は貴重な資源であるスパイスを確保するために、領家に代理支配させていた。それは、アメリカが貴重な資源である石油を確保するために、アラビア半島の石油産出国に傀儡政権を作って実効支配していたことに重なる。つまりカナダ人監督のヴィルヌーヴは、ハリウッド資本でアメリカを仮想敵に仕立て上げたのではないか!?

避けては通れない批判は織り込み済み。その上でここまで戦略を立てたのだとしたら、ヴィルヌーヴは相当な策士である。

完全IMAX仕様で作られた『DUNE/デューン 砂の惑星

本作の配給を行うワーナー・ブラザースは、劇場公開と同時にHBO Maxでストリーミング配信することを発表した。これに対して、ドゥニ・ヴィルヌーヴは

「ストリーミングは素晴らしいコンテンツを生み出すことができるが、『DUNE/デューン 砂の惑星』のような規模の映画は作れない」

と主張して、はっきりと不快感を示している。なぜなら、『DUNE/デューン 砂の惑星』は完全にIMAX仕様の作品であり、IMAXに対応した劇場で鑑賞されることを前提とした作品だからだ。

少々長くなりますが、ここで少しIMAXについて解説させていただきましょう。IMAXとは、IMAX社が開発した動画フィルムの規格、及び映写システムのことである。通常フィルムには8mm、16mm、35mmなどの種類があるが、これは1コマあたりの面積を指す表現で、数字が大きくなれば大きくなるほど、「より多くの情報を1コマに収めることができる」=「より精密な表現ができる」ということになる。IMAXはこの面積が70mmもあり、とにかくめちゃめちゃ高精細度の映像を実現することができるのだ。

さて、ここからがややこしいのだが、IMAXには

1.IMAXカメラ、もしくはIMAX社がARRIと共同開発したARRI 65 IMAX デジタルカメラで撮った、純然たるIMAX映画
2.独自のデジタル・リマスタリング技術「IMAX DMR」によって、IMAXフォーマットへ変換した映画

の2種類が存在する。もちろん、「1.IMAXカメラで撮った純然たるIMAX映画」の方がダンゼンIMAX映像体験としては上。とはいえIMAXカメラは台数が限られていて、製作現場で導入することは難しい。そこでIMAX社は新しく「Filmed In IMAX」というプログラムを発表。ARRIのAlexa LF、Mini LF、パナビジョンのMillennium DXL2、RedのRanger Monstroなどのカメラで撮影した作品でも、IMAX映画として認定されるようになった。

『DUNE/デューン 砂の惑星』で使われたのは、ARRIのAlexa LF。これは35mmフルサイズ4Kセンサーを搭載したカメラで、3種類のセンサーモードが用意されている。センサー全体を収録する「LF Open Gate」、4Kを最大90fps収録できる「LF16:9」、150fpsのハイスピード撮影が可能な「LF 2.39:1」。

※fps=1秒間あたり何枚の画像で動画が構成されているかを示す単位

「LF Open Gate」は4486×3096 の解像度で撮影できる訳だから、当然画角は「LF16:9」や「LF 2.39:1」よりも正方形に近くなる。だが、このフルサイズ(1.43:1)でIMAX体験ができる映画館は、日本では2箇所しかない。池袋のグランドシネマサンシャインと、109シネマズ大阪エキスポシティだけだ(2021年10月18日時点)。これが、いわゆる「IMAXレーザー/GTテクノロジー」と呼ばれるもので、その次がのIMAXレーザー(1.9:1)。フルサイズの1.43:1に比べると、上下が削られた形になってしまう。シネスコサイズの2.39:1だと、さらに削られる部分が大きくなってしまうことがお判りいただけるだろう。

『アバター』(2009)や『ゼロ・グラビティ』(2013)が、3D上映でないと製作者の意図した映像体験を味わえないのと同様に、IMAXでなければ『DUNE/デューン 砂の惑星』は、そのポテンシャルを最大限まで味わい尽くすことはできない。ヴィルヌーヴがストリーミング配信に警鐘を鳴らしたのは、至極当然なことなのである。

「PART2」は製作できるのか?ヴィルヌーヴの賭け

『ロード・オブ・ザ・リング』3部作に代表されるように、シリーズものであればスタッフ・キャストを集めて一挙に撮影するのが効率的だ。だが『DUNE/デューン 砂の惑星』は、その方式で撮影するにしても天文学的な予算がかかってしまうことが判明。まずは「PART1」だけを製作し、回収したお金で「PART2」、そして「PART3」(ヴィルヌーヴは原作の第2部『デューン/砂漠の救世主』の映画化にも意欲を見せている)を作ることにした。

この戦略がうまく行くのかはわからない。ある意味で賭けだ。我々にできることは、できるだけ数多く映画館に足を運ぶことで、「PART2」への足がかりを作るのみである。さあ、IMAX映画館に出かけるべし!!

 

(C)2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

※2021年10月19日時点の情報です。

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