【ネタバレ解説】映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ラストシーンに込められた本当の意味とは?出演が叶わなかったキャストとは?

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』をネタバレありで徹底解説!

記録的な大ヒットを驀進中の、映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022)。

この稿を書いている2022年1月13日時点で、アメリカでの累計興収はおよそ6億6,800万ドル(約770億円)!『タイタニック』を抜いて歴代興収ランキングで6位にランクインし、世界興収でもおよそ15億3,000万ドル(約1,770億円)のランキング8位につけている。

しかしこの作品は、単なるメガヒット作にあらず。既存の枠組みを破壊する、革命的な作品でもあるのだ。という訳で今回は、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』をネタバレ解説していきましょう。

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』あらすじ

前作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』で、ミステリオを倒したスパイダーマン。しかしミステリオは死の間際に「スパイダーマンの正体はピーター・パーカーだ」という告白をビデオに残し、それをデイリー・ビューグルがスクープ映像として世界中に公開してしまう。

騒動を受けて受験したMITも不合格となり、困り果てたピーターはドクター・ストレンジに助けを求めるが……。

※以下、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』未見の方は、観賞後にご覧ください。

※以下、これまでの映画『スパイダーマン』と「アメイジング・スパイダーマン」シリーズ、及び「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」のネタバレを含みます。

「スパイダーマンMCU離脱騒動」を救ったトム・ホランド

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の公開までには、紆余曲折があった。

そもそも“親愛なる隣人”ことスパイダーマンは、キャプテン・アメリカ、マイティ・ソー、ハルク、アイアンマン、X-メンなど数々の人気キャラクターを抱えるマーベル・コミックの中でも、屈指の人気キャラ。だが、’90年代に鳴かず飛ばずの業績不振に陥っていたマーベルは、スパイダーマン映画化の権利をソニーに売却してしまう。

その後ディズニーがマーベルを買収し、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)が大ヒット(実際には買収前に『アイアンマン』など数本が製作されているが)。打って変わってマーベルはイケイケ状態となる。こうなれば、マーベル・コミックの“顔”ともいうべきスパイダーマンもMCUに合流させたい。そこでディズニーはソニーに業務提携を持ちかけ、スパイダーマン単独作はディズニーではなくソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントが配給を行うことで決着をみる。

しかし、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)公開直後に、ソニーとディズニーが出資額に対する収益配分をめぐって対立。一時は、ソニーがMCUと完全に袂を別つ「スパイダーマンMCU離脱騒動」にまで発展した。ソニー会長のトニー・ヴィンチケラは、「(スパイダーマンのMCU復帰は)今のところドアは閉じている」とまで言明し、頑なな態度を隠そうともしなかった。

そのとき、救いの手を伸ばしたのがスパイダーマン役のトム・ホランド。彼はディズニーのCEOボブ・アイガーにスパイダーマン愛を熱っぽく語り、ホランドが仲介役となって両社は再び交渉の席に着く。2019年9月末にディズニーとソニーは新たな合意を発表し、これまで以上に協業関係を強化することとなった。

今後、MCUとソニー単独製作のSSU(ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)は、より強い連携で作品を世に放っていくことになるだろう。そのキッカケを作ったトム・ホランドは、現実世界でもヒーローぶりを発揮したのである。

MCUとSSU。巨大な2つのフランチャイズが交錯した記念碑的作品

拙稿「【ネタバレ解説】映画『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』ミッドクレジットシーンの意味は?ウディ・ハレルソンのキャスティング意図とは?徹底考察」でも書かせて頂いた通り、MCUとSSUの歴史的合流はすでに始まっている。

『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のミッドクレジットシーンは、デイリー・ビューグル編集長J・ジョナ・ジェイムソン(J・K・シモンズ)が、「スパイダーマンの正体はピーター・パーカーだ!」と伝える場面。『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)のエンディングと同じだ。それをエディ(トム・ハーディ)とヴェノムがテレビで観ているということは、彼らがSSUからMCUへと“移動”したことを示している。

そして『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のミッドクレジットシーンにも、エディとヴェノムが登場。本作は、ドクター・ストレンジが皆の記憶からピーターの存在を忘却させる呪文に失敗し、あらゆるユニバースから彼の正体を知る者たちを呼び寄せてしまったのがコトの始まりだった。そう考えると、エディたちもドクター・ストレンジの呪文によって呼び寄せられた、と考えていいだろう。

最終的にエディとヴェノムは突然光に包まれ、MCUからSSUの世界へと戻ったが、シンビオートの一部が残されていたのが何とも意味深。MCUでもヴィランとしてヴェノムが登場することを示唆しているかのようだ。

巨大な2つのフランチャイズがはっきりと交錯したという意味でも、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は記念碑的作品と言えるだろう。

なぜ、過去のスパイダーマン映画ヒロインを登場させなかったのか?

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、SSUとMCUという異なるユニバースの合流作品というだけではなく、別々のスパイダー・バースが合流するという歴史的快挙を果たした作品でもある。

思えば、第91回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞した『スパイダーマン: スパイダーバース』(2018)も、同じような手法が採られていた(詳しくは拙稿「映画『スパイダーマン: スパイダーバース』アメコミの世界をかたち作る多元宇宙とは?謎すぎるラストの意味とは?徹底考察【ネタバレ解説】」をご一読ください)。アメコミ独自の多次元宇宙的手法を逆手にとって、異なる宇宙のスパイダーマンが一堂に会するというアイディアが採用されていたのだ。

しかし本作は、アニメではなく実写。これまで積み上げてきたシリーズをリセットして、リブートするのが人気原作付き映画の宿命だった。乱暴な表現をしてしまうと、「これまでの作品は一旦なかったことにする」のがお約束だったのである。まさか、これまでのシリーズ作品を別ユニバースと位置付けて、ヴィランばかりかこれまでのピーター・パーカーも集結させてしまうとは!

サム・ライミ監督版スパイダーマン・シリーズ

主演:トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト

スパイダーマン』(2002)ヴィラン:グリーン・ゴブリン
スパイダーマン2』(2004)ヴィラン:ドクター・オクトパス
スパイダーマン3』(2007)ヴィラン:ヴェノム、ニュー・ゴブリン、サンドマン

マーク・ウェブ監督版スパイダーマン・シリーズ

主演:アンドリュー・ガーフィールド、エマ・ストーン

アメイジング・スパイダーマン』(2012)ヴィラン:リザード
アメイジング・スパイダーマン2』(2014)ヴィラン:エレクトロ、グリーン・ゴブリン

カルチャーマガジンのCollider は、キルスティン・ダンストがメリー・ジェーン・ワトソンとして、エマ・ストーンがグウェン・ステイシーとして復帰予定だと報じていた。だが、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を鑑賞した皆さんはご存知の通り、過去のスパイダーマン映画のヒロインを演じた二人は登場していない。

実は、サム・ライミ版のスパイダーマン役トビー・マグワイアはキルスティン・ダンストとの交際歴があり、マーク・ウェブ版のスパイダーマン役アンドリュー・ガーフィールドはエマ・ストーンと交際していた。実生活でも元カレ・元カノの関係なのである。(ついでに言えば、トム・ホランドもMJ役ゼンデイヤとの交際が囁かれている)。映画のなかで、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドがそれぞれの恋愛事情について語り合うシーンがあるが、それは映画&実生活の両方の意味を持っているのだ。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、どこまでもメタな作品なのである。

だが、キルスティン・ダンストとエマ・ストーンが再登板しなかったのは、それだけの理由ではないだろう。実はこの映画には、ストーリー上で大きな問題がある。自分たちが存在しているユニバースの生死に関わらず、ピーター・パーカーを知る者は全て呼び寄せてしまうという設定なのだから、『アメイジング・スパイダーマン2』で非業の死を遂げたグウェン・ステイシー(エマ・ストーン)も、理屈上は復活できることになってしまう。「忘却の呪文」は、「別ユニバースの死者を復活させる呪文」でもあるのだ。

それだと、非常な安易な形でアンドリュー・ガーフィールド版ピーター・パーカーを救済してしまう。彼は愛する恋人を救えなかったトラウマを長年抱えていたが、「クライマックスの決闘シーンでMJを救うことで、彼自身も救われる」というのが本作のキモなのだから。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、過去シリーズで最も悲劇色が強く、唯一3部作として作られなかった『アメイジング・スパイダーマン』シリーズの、番外的な第3作でもあるのではないか……。ふと、筆者はそんな妄想をしてしまった。

そう言えば、この映画のエンディングでかかる曲はDe La Soulの「The Magic Number 」。「“3”という数字はマジック・ナンバーだぜ!」というゴキゲン・ソングだ。もちろん3人のスパイダーマン、3人の仲間たち(ピーター、MJ、ネッド)という意味が込められているのだろうが、それ以上に幻の『アメイジング・スパイダーマン』の第3作をMCUで復活させてあげたい、という製作者の想いを勝手に感じてしまう。

「大いなる力には大いなる責任が伴う」

「大いなる力には大いなる責任が伴う」。

サム・ライミ版の「スパイダーマン」シリーズ、マーク・ウェブ版の「アメイジング・スパイダーマン」シリーズでは、ベンおじさんが亡くなる直前にこの有名な言葉をピーター・パーカーに投げかける。責任を持つこと……それは、まさに“子供から大人になること”に他ならない。先代のスパイダーマンたちは、この“通過儀礼”を経て成長を果たした。

ポイントは、彼らがそれぞれのシリーズ第1作で、この言葉を投げかけられていること。物語の序盤から、強制的に大人にならざるを得なかったのだ。だが、MCU版『スパイダーマン』のピーター・パーカー=トム・ホランドは、“大人になりきれないティーンエイジャー”としてシリーズを疾走する。ソニーとの契約もあってMCUへの合流が遅れ、初登場が『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)でのゲスト出演という異例のデビュー。その翌年の『スパイダーマン: ホームカミング』(2017)で、晴れて単独作品の主演を張ることになったMCU版には、「クモに噛まれてスーパーパワーを得る」だとか、「ベンおじさんの死に直面する」だとか、今までのお約束描写がない。つまり、“通過儀礼”を経ることなくスパイダーマンになってしまったのだ。

確かに、彼の父親がわりとも言えるアイアンマンことトニー・スタークの死は、彼に大きな精神的成長を促したことだろう。だがアベンジャーズという大人の仲間たちに支えられ、彼は子供であることを許容されてきた。だからこそトム・ホランド演じるピーター・パーカーは、屈託のない純粋な正義を標榜するのである。

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で、彼はやたら失敗を繰り返す。正体をバラされたうえに社会から大きなバッシングを受け、受験したMITが不合格に。ドクター・ストレンジに忘却の呪文をかけてもらうことを懇願し、その詠唱の途中で何度も邪魔をしてしまったがために、彼の正体を知る者を他のユニバースから呼び寄せてしまう。

現れたグリーン・ゴブリン、ドクター・オクトパス、サンドマン、リザード、エレクトロのヴィランたち。そのまま元のユニバースに送り返してしまうと、彼らは強制的にサドンデス。ドクター・ストレンジと対立してまでも、スパイダーマンは戦うのではなく治療することを選択。だがその結果、メイおばさんがグリーン・ゴブリンの毒牙にかかって死んでしまう。

このMCU版『スパイダーマン』がこれまでのシリーズと異なるのは、メイおばさんが「大いなる力には大いなる責任が伴う」のセリフを語るとき、「ヴィランたちを元のユニバースに戻せばいい、それが自然の摂理なのだ」という大人のロジックを否定し、「どれだけお花畑の夢物語であろうと、全ての人を救うことが正しい」という子供のような正義を肯定していることだろう。本作におけるピーター・パーカーの失敗を決して非難しないのだ。

映画のラストで、ネッドとの友情の証である『スター・ウォーズ』の悪役パルパティーンのレゴがチラッと映る(『スパイダーマン: ホームカミング』で二人はデス・スターのレゴを作っていた)。だが深読みすれば、悪役の代名詞とでもいうべきパルパティーンだって救われるべき存在なのでは? という映画製作者からの問いかけのような気がしてならない。

メイおばさんの死に直面し、「大いなる力には大いなる責任が伴う」の言葉を投げかけられることで、確実にトム・ホランド版ピーター・パーカーも大人への階段を登った。だがそれはきっと、“屈託のない純粋な正義”を捨て去ることではない。筆者はそう固く信じております。

 

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※2023年11月10日時点の情報です。

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