反戦映画に少年ありき
「死者のみが戦争の終わりを見てきた」
『ブラックホークダウン』(01)では冒頭に、『戦場カメラマン』(09)では最後に引用されるプラトンの言葉です。
反戦映画は数えられないほど存在していますが、父親と少年と言えば、古くはヴィットリオ・デ・シーカ監督の名作 『自転車泥棒』(48)があります。子供の目を通して語られる戦争は、様々な不条理さを浮き彫りにし、あらためて戦争の不毛さ、残酷さを大人たちに突きつけるものです。
私自身、積極的に戦争映画を観ているとは言い難く、何故ゆえ腰が引けているのかといえば、心の痛みに加え、戦闘シーンに対する恐怖です。特にリアルさを追求した近年のVFX技術による戦闘シーンをスクリーンという大画面で観るのは、本当に怖い。
それでも今年6月にメル・ギブソン監督の『ハクソー・リッジ』が日本で公開され、続いて7月にはクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』が公開されましたので両作品観てきましたし、軍兵士40万人という『ダンケルク』とは対照的な、ほぼ一人芝居ともいえる『ザ・ウォール』も観てきました。結果、視覚と並んで大型スクリーンにつきものの大音響による迫力ある音の怖さも十分思い知らされました。
戦争映画の役割のひとつが過去を忘れるなということであるなら、戦闘シーンがない作品でも十分に価値ある映画になりうるわけで、結局のところ、心に刺さる反戦映画は戦闘シーンの有無に関わらず、覚悟がいるということを思い知ったわけですが、そんなわたしがここ10年以内のアメリカ製作の反戦映画にあって、特に女性にお勧めするならば、ポール・ハギス監督の『告発のとき』(07)と女性監督キンバリー・ピアースの『ストップ・ロス/戦火の逃亡者』(08)、そして今回ご紹介する『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』(14)です。
本作のストーリーと登場人物
この作品は戦地が舞台ではなく、戦地にいる、愛する人を待つ人々のお話しです。1977年にメキシコで誕生したアレハンドロ・ゴメス・モンテヴェルデ監督による、上映時間106分のとある家族の物語。
時は第二次世界大戦下。カリフォルニア州にある小さな漁村。長男に代わって、戦地に赴くことになった父親とその父を相棒と慕う8歳の息子ペッパー。町の誰よりも背が低いことから、リトル・ボーイとからかわれていたペッパーは、「愛する者が戻る」ことを信じ、何とかして父親を戦場から呼び戻そうと、司祭から受け取った古くから伝わる願いが叶うというリストを手に必死で奔走するというストーリーです。
そのリストとは、「飢えた人に食べ物を」「家なき人に屋根を」「囚人を励ませ」「裸者に衣服を」「病人を見舞え」「死者の埋葬を」そして司祭が自ら書き加えた「ハシモトに親切を」の全部で7つ。ハシモトはある日、ペッパーが住む町に移り住んでくる日本人男性です。当然、周囲の影響もあってペッパーもハシモトを敵視しています。
その日本人ハシモト役を演じるのは、ケイリー=ヒロユキ・タガワ。東京生まれですが、5歳でアメリカに移住して、現在はハワイ在住。アメリカ国籍を取得している日系アメリカ人二世の俳優です。長いキャリア。控えめな演技の中に重厚感がありました。
この映画を通して、私たち日本人が当時アメリカからどう思われていたのか、それがシンプルにわかりやすく描かれているからこそ、複雑な気持ちになるのは避けられません。どちらにも正義があって、誤解があって、偏見がある。それは戦争の宿命ですが、敵意むき出しの米国を目の当たりにすれば、不愉快さがないと言えば嘘になります。
それでも敵国同志のはざまにあって、まだ難しいことは理解が出来ないペッパーだからこそ持ち得た感情と決断、見えないものを信じる気持ち。純粋でひたむきなペッパーが、自分を取り巻く白人社会の中で、父親不在以来、味方と確信し、勇気を与えてくれるのがハシモトであるということは、この映画の要と言えると思います。
主人公のリトル・ボーイことペッパーを演じる、可愛いとしか言いようがないジェイコブ・サルバーティは2003年生まれで撮影当時は10歳ぐらい。そして母親役が何と言ってもエミリー・ワトソンですからものすごい安定感。エミリー・ワトソンが映画の中で場違いなことなどありえないので、安心して鑑賞ができました。彼女は本当に眉間のしわが似合いますね。
その他、司祭役にトム・ウィルキンソン、近所の悪ガキの父親であり、医師役にはケヴィン・ジェームズ、奇術師役にベン・チャップリンと何気にキャストが豪華。そしてどうしても最後に伝えたいのが、父親ジェームズを演じたマイケル・ラパポートです。彼は映画好きの方なら、「あっ見たことがある」という俳優ですが、ただ何に出ていたのかすぐに思い出せない。そんな彼が出番は少ないながらも、最後まで鑑賞し終われば、主演の一人として、存在感を残せていたのが、個人的にはとても嬉しかったです。
日本人が鑑賞することを全く前提にしていない作品ゆえに、日本人として観て良かったと思えた映画。要所要所の台詞に味があって、現実とおとぎ話のバランスがシリアスな内容に魔法を効かせていました。そこは脚本に携わったアレハンドロ・ゴメス・モンテヴェルデ監督がアメリカ人でなかったことが要因かも知れないですね。わたしはこのラストで良かったと思います。
歩み寄ることの大切さ、迷いがあってこそ人は価値ある選択が出来るということ、リトル・ボーイ、ペッパーは優しくそう教えてくれます。
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