【ネタバレ徹底考察】映画『ツリー・オブ・ライフ』神への祈りに満ちた、監督の自伝的作品

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

どうも、シネマ・アディクトの竹島ルイです。

2011年のカンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを受賞したものの、難解すぎる内容に拍手とブーイングが同時に巻き起こったという超曰く付きの映画『ツリー・オブ・ライフ』を徹底考察します!

ツリー・オブ・ライフ

主演のショーン・ペン自身、「完成した映画を観たら、意味が全然分からなくて混乱したよ!」と正直すぎるカミングアウト。演じている本人が分からないんだから、観ている方はもっと分からん!という訳で、観客の脳内に多くのクエスチョンマークを点滅させてしまった『ツリー・オブ・ライフ』について考察(ネタバレ有り)していきましょう。

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『ツリー・オブ・ライフ』あらすじ

1950年代のアメリカ。3人の息子に恵まれたオブライエン夫妻は、テキサスの小さな田舎町で幸せな生活を送っていた。一家の長男のジャックは、信仰にあつく厳格な父親と、子どもたちに深い愛情を注ぐ優しい母との間で、葛藤の日々を過ごし成長していく。やがて大人になり成功を収めたジャックは、自分の人生と少年時代に思いを馳せる…。

ツリー・オブ・ライフ

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監督のテレンス・マリックとは何者?

『ツリー・オブ・ライフ』(2011)を理解するために、この映画を監督したテレンス・マリックについて補足しておこう。

このテレンス・マリックという人物、映画界ではレジェンド的存在。最近でこそ短いスパンで映画を次々に発表しているが、『ツリー・オブ・ライフ』を公開するまでは『地獄の逃避行』(1973年)、『天国の日々』(1978年)、『シン・レッド・ライン』(1998年)、『ニュー・ワールド』(2005年)と、40年近くでわずか5本という寡作ぶり。

地獄の逃避行

しかもキルケゴール、ハイデガー、ウィトゲンシュタインといった哲学者に関する論文を発表し、マサチューセッツ工科大学で哲学の教鞭をとるほどの超インテリ。おまけに大のインタビュー嫌いとして有名で、公の場にはほとんど出ることがない。テレンス・マリック、なかなかヤバイ奴である

これだけ聞くと、いつも思索に耽っている華奢な人物のように思えるが、『地獄の逃避行』に主演したマーティン・シーンの証言によると、「プロデューサーがマリックの奥さんに対して非難めいた発言をしたら、マリックがブチキレて彼をフルボッコにしたんだぜ!」とバイオレンスな一面も暴露。テレンス・マリック、相当にヤバイ奴である

『ツリー・オブ・ライフ』は、超哲学系のヤバい映画監督によって撮られた作品であることを、まずは認識しておこう。

実は監督の自伝的作品だった!?

何の説明もないので一回観ただけではサッパリ分からないが、実は『ツリー・オブ・ライフ』は、監督のテレンス・マリックの自伝的作品として作られている

彼は1943年にイリノイ州オタワで、厳格な地質学者の父親エミールと、優しい母親アイリーンの元に生まれた。テレンスには音楽的才能に恵まれたラリーという弟がいて、スペインの有名ギタリストのアンドレ・セゴビアに弟子入りするほど将来を嘱望される。音楽家志望だった父親も、叶わなかった夢を息子に託しておおいに期待をかけたという。

しかし、その期待はやや過度すぎた。ラリーは自分の音楽的才能の限界を感じ、自ら命を落とすという悲劇的結末を迎えてしまう。実の弟の自殺に、テレンスが受けた衝撃は想像に難くない。やがてその哀しみは、弟を精神的に追いつめた父親への憎悪に転化する…。

っていうかコレ、『ツリー・オブ・ライフ』のお話そのまんまですよね? ショーン・ペンはマリック自身であり、ブラッド・ピットは厳格な父親であり、ジェシカ・チャステインは優しい母親であり、3人の少年たちはかつての自分の兄弟たちだ。要はこの作品、テレンス・マリック自身を治癒すべく、父親とのトラウマを克服すべく作り上げられた、とーーーーーーっても個人的な作品なのである。

映画自体が“癒し”であり、“神への祈り”

「わたしが大地を据えたとき、おまえはどこにいたのか」
旧約聖書ヨブ記38章4節

『ツリー・オブ・ライフ』は、こんな旧約聖書からの引用で幕を開ける。ヨブ記は、信心深い善人のヨブが、その信仰が本当に揺るがないものかどうかを神様に試され、超理不尽な苦難にあうというエピソード。彼は財産も家畜も子供たちも失い、絶望のドン底に叩き落されるが、それでも神を呪うことはしなかった。

ヨブ[「忍耐強いヨブ」(ジェラルド・ゼーガース)]

今度はヨブ自身が皮膚病にかかり、見舞いに来た友人たちが「神に懺悔した方が良い」と忠告するものの、身の覚えのないヨブはそれを拒否。すると天から神の声が聞こえて来て、

私が大地を据えたとき、お前はどこにいたのか。
知っていたというなら、理解していることを言ってみよ。
誰がその広がりを定めたかを知っているのか。
誰がその上に測り縄を張ったのか。
基の柱はどこに沈められたのか。
誰が隅の親石を置いたのか。

と、「お前が理解していることなど、神=宇宙というスケールでは無知に等しいのだ!」と一喝されてしまう。ヨブは友人への反論が自己弁護に陥り、それが神への不信心であったことを悟るのであった。

どんなに現実が辛かろうと、どんなに現実が理不尽であろうと、その状況をしっかりと受け止め、神への祈りを捧げるのみ。筆者のような不信心者にはその境地に辿り着くことは難しいが、哲学系映画監督のテレンス・マリックにはそれこそが最も重要なイシューなのだろう。つまり、この映画自体が神への祈り。主人公の名前がジャック・オブライエン(Jack O’Brien)で、大文字を繋ぐとヨブ(JOB)になるのは決して偶然ではない。

『ツリー・オブ・ライフ』にはやたら「神よ…」というナレーションがインサートされるが、この映画はテレンス・マリック自身を治癒すべく作られた作品であり、作品自体が神への祈りであるからして、極めて当然の帰結なのである!

“神”とは、それすなわち“光”である!

この映画、やたら逆光のシーンが多いことに気づかれただろうか。単に逆光というだけでなく、光源である太陽もフレームに映りまくり。普通の映画ではまずありえない撮影方法だが、これにもテレンス・マリックなりの意図がある。

神は光であって、神には少しの暗いところもない

新約聖書中の一書である「ヨハネの手紙一」にこんな一節が記されているくらい、光は“神”を描く象徴的なモチーフだ。そこでマリックは映画のトーン全体を光で覆い尽くすという実験を敢行したのである!

ちなみに本作の撮影監督を務めたのは、『ゼロ・グラビティ』、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、『レヴェナント:蘇えりし者』と3年連続でアカデミー撮影賞を受賞したエマニュエル・ルベツキ。

レヴェナント

ルベツキはこの映画を担当するにあたってテレンス・マリックとその撮影方法について慎重に議論を重ね、下記のような方針を立てたという。

・できるだけ自然光で撮影する。
・高密度の解像度で撮影する。
・フレーム内で白と原色を避ける。
・焦点距離の短い(=画角が広くなる)レンズで撮影する。
・マジックアワーに撮影する。
・ズームを使用しない。

もうひとつテレンス・マリックが“神”を描く光として採用したのが、トーマス・ウィルフレッドの「オーパス161」と呼ばれる芸術作品。(詳しくは「Opus 161」で検索)

「オーパス161」は、クラヴィラックスという光と音を同時に表現する楽器によって制作されたもので、揺らめく光は限りない神性、宇宙の生命を感じさせる。

マリックは天才撮影監督エマニュエル・ルベツキの起用、光の芸術「オーパス161」を採用することで、神の存在を映画の端々に織り込んだのだ。

家族の物語を人類の歴史と重ね合わせる壮大な試み

1950年代のテキサスの家族の映画かと思って観ていると、突然ダイナミックな宇宙創造のシーンがインサートされて思考停止状態になってしまう今作。

自宅そばにそびえる巨大なカシの木は、マリック家族の成長を見届けてきた象徴であると同時に、進化の系統樹を表象する“ツリー・オブ・ライフ”でもある。それが意味するところは、「アメリカの片田舎の家族の物語を、人類の歴史と重ね合わせて描きますよー!」という、極めて壮大な試みなのだ。

ガスから惑星が誕生して、海に生命が誕生する特撮シーンはものすごく『2001年宇宙の旅』っぽいが、それもそのはず。実際に『2001年宇宙の旅』の特撮スタッフであり、その後『未知との遭遇』や『ブレードランナー』などを手がけた特撮界の巨匠、ダグラス・トランブルが監修を務めているのだ。

2001年宇宙の旅

映画には『ジュラシック・パーク』ばりのCG恐竜も登場。川べりで倒れている恐竜を、もう一匹の恐竜が補食せずに見逃すシーンは、「恐竜だって慈悲の心を宿しているのだから、我々人間が赦しの心を失うはずがない」というテレンス・マリックの叫びだろう。

神への祈りに満ち満ちた『ツリー・オブ・ライフ』。一度鑑賞してゲンナリした気分になってしまった貴方も、敬虔な気持ちで再度トライしてみてください。

(C)2010. Cottonwood Pictures, LLC. All rights reserved.

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