映画『夜、鳥たちが啼く』山田裕貴、役にシンクロした想いから最近の息抜き事情まで【ロングインタビュー 】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

山田裕貴が単独主演を務める映画『夜、鳥たちが啼く』は、静かな熱を帯びた作品だ。大きな事件が起こるわけではない、淡々と流れる日常の中に蠢く気持ちが見え隠れする、感情のひだを味わう1作だ。

山田が演じる慎一は、デビュー作以降鳴かず飛ばずの小説家。同棲していた恋人に出て行かれた家の離れで、毎夜、執筆活動を続けてはいるものの、八方ふさがりで暗澹たる日々を過ごしている。そこに夫と別れたばかりで行き場をなくした裕子(松本まりか)と、彼女の息子がやってくる。家を提供し、奇妙な「半同居」生活をスタートする3人の生活が彩られていく。

インタビューで、山田は「こういう作品にずっと出たかった」と語った。「こういう作品」とは「生身の温度を感じられる」作品であり、自身もその類がすごく好きだと話す。演じることへの妥協は一切ない。だからこそ『夜、鳥たちが啼く』(※以下「夜鳥」と記載。)の息遣いまで伝わるような映画で、山田の俳優としての真価が発揮されたのだろう。

引く手あまたのいま、作品に懸けた思いと現在の思いを、ロングインタビューで聞いた。

『夜、鳥たちが啼く』に出演を決めたポイントから、教えていただけますか?

山田 表現がすごく難しいんですけど、「映画作りをしていると思える映画だから」です。僕は、いつもどの作品でも、お芝居にしたくないと思ってやっています。その点で、「夜鳥」はお芝居にしない時間を過ごすことができる作品だ、と感じたんです。企画書をいただいて、監督やプロデューサーさんの過去の作品を観て、この方たちと一緒ならそうなるだろうという予感がしたので、お引き受けしました。

実際、お芝居で流れる時間もすごくリアルで、本当に生きているみたいな時間の流れ方でした。そういう時間を過ごせるのは、生きている感覚と一番近いところに自分を置いておけることでもあります。よりちゃんと生身の温度を感じられながらやれるのが、僕はすごく好きです。慎一として生きることができたので、僕はすごくいい時間だったと思います。

慎一について、山田さんから見てどういう人間だと思いましたか?

山田 「えっ!」と思われるかもしれないけど、僕とものすごく似ているような気がしていました。自分の中でうずまく感情をどう表現していいかわからないところ、わかってほしい人にわかってほしいところとか。慎一は「あなたが私を好いていてくれるのであれば、僕のことはわかってほしい、僕の苦しみはわかってほしい」という人じゃないですか。なんかその気持ち……わかるなあって。

わかるんですね。寄り添えたと。

山田 「俺を見つけてくれよ、俺のことをわかってくれよ」という慎一の叫びは、すごくわかります。自分の中にすごくたまっていた時期があったから……20代前半~27、28くらいまでかな。以前、出演した映画の撮影中、主演の方々がいるとみんなが「ギャーッ!」となるけど、僕が出て行くと「シーン」となってしまう経験がありました。そんな小さいことはいっぱいあって、そういうのが積み重なっていくと、ぐっとなる、という。見つけてもらえない気持ちは、慎一と一緒ですよね。

あと、慎一が元恋人に対して、「僕が愛している人だからわかってくれるよね、あなたも同じ気持ちだったら甘えていいよね」となるじゃないですか。甘え下手だから、ああいう風に表現してしまうんだろうなと。ある程度の距離感が生まれたほうが、「わかってくれ」を言わずに済むから、人とうまく接することができるんですよね。

……これってでも、僕だけかな、僕だからなのかな……!? 皆さんも感じますよね?(笑)生きている人みんな、わからない感情ではないんだろうなと思います。

慎一は裕子とその息子・アキラと疑似家族のように暮らし出しますよね。3人での生活と結びつき、その関係が居心地よさそうに変化していくところも見どころだと思います。

山田 一般的にはあまり支持されない関係かもしれないけど、僕は慎一の気持ちにものすごく共感してしまいました。「結婚しないまま家庭内別居」という台詞もありますが、本当にその気持ちがわかっちゃったので、その辺りのシンクロ率はすごいです。

やっている過程でシンクロは生まれてきたんですか?

山田 もしかしたら、僕がやったからそういうテイストが強くなったのかもしれないですけど、僕の中にあるものを引き出しながら、「これは感じたことのある感情だ、このシーンはこれだ、これだ」と当てはめながらやっていたら「あ、自分じゃん、気持ちわかる!」と最終的になりました。

お話にあった20代中盤~後半くらいの山田さんは、明確に目標を立てて向かっていかれるイメージでした。近年、ご自身の職業や未来については、どう向き合っていますか?

山田 最近、自分の仕事が何の意味をなしているのか、わからなくなっていたりもしました。ちょっと慎一みたいな状態というか、何かを探しているんですかね? わからなくて。

昔は原動力やガソリンが自分の中にあって、自分で「うわあっ」といけたんです。けど、たぶんちょっと走りまくりすぎたのかな……。今の自分のことは、ゼロだと思っています。

ゼロとは、どういう状態なんですか?

山田 何でも陰と陽、光と闇がありますよね。闇のほうに心がよれば、光をうらやむ気持ちが生まれて、光のほうに進んでいくと「大丈夫かな」という気持ちが生まれて。結果、どちらに振れてもいいことはないんだろうと。陰と陽もあれでバランスが取れているから、結果±0が一番最強じゃないかなと思ったんです。

だから今、僕は何も感じないんです。ただ目の前にあることをやるだけ、という。じゃないと分量的にも乗り切れないし、感情を入れていたら疲れちゃうから、無というのが今自分にはすごくしっくりきているんです。

無の中でも山田さんは思考を巡らす方ですよね。

山田 幸せとは何かを、ものすごく考えるようになりました。「戦って、戦って、俳優としてナンバーワンになればいいのか?」とかいろいろ考えましたけど、最近は俳優としての幸せと人としての幸せが、なんか違うように思えてきて。いろいろな作品をやらせてもらうこと、たくさんの人に見てもらえるようになること、まだまだもっとその目を増やすことはできるのかもしれないけど、果たしてそれは幸せなのかと考えるようになったんです。

いち人間の山田さんとしてみたら、ということですね。

山田 はい。そういうこと(俳優業)を頑張れば頑張るほど、自分の時間はなくなっていくわけで。何もないじゃん、っていう。ごはんに行って、誰かとしゃべっても、別に何も感じないというか……(苦笑)。「幸せだ、楽しい!」という感情を味わっても、また明日戦場に行かなければならないから、その瞬間がくるぐらいだったらずっと戦い続けていればいいやって。「ああ、昨日楽しかったな」という落差で悲しくなってしまうんですよね。

もしかして、以前までは「さあ、切り替えて今日はこっちだ!」となっていたものが変わったということですか?

山田 うん。「楽しかったなー!」というのがある分「よし、頑張んないと」とスイッチを入れる温度差みたいな落差が、今は悲しくなっちゃって。だったら最初からなくていい、みたいな感じなんです。

いつくらいから今のようになっていったんですか?

山田 去年ぐらいから……かなあ。だから、ゼロになりました。感じなければいい、出来事として受け止めればいい、という。「今日はこういうことをしました、はい、以上です、次!」という感じというか。

人としての幸せを手に入れるために、山田さんが思い描くのはどんなことですか?

山田 よくご一緒するスタイリストさんに、お子さんが生まれたんです。生まれてからそのスタイリストさんの顔つきが変わったんです。その様子がとてもうらやましくて、そういう温かみを感じたいなと思います。……でもきっと自分の性格上、この仕事の感じでいくと、そっちは絶対にうまくはいかないともわかりますが(笑)。

今の山田さんはそう考えておられる。でも、人は変わりますからね。

山田 そう、人は変わりますから。だから、僕は今後の人生の自分のヒントになる映画だと「夜鳥」について思ったんです。だから「結婚しないまま家庭内別居」がものすごく刺さったというか(笑)。

先ほどの話につながるわけですね。そうして自分の演じた役からヒントを得ながら、糧にしているわけですよね。俳優業としての幸せについても伺いたいです。

山田 もちろん、やめたいとかはまったく思っていません。いろいろなことにチャレンジはしたいですし、もっともっと認められる人にならなければ、という思いもあります。今までの感覚は、何も失われていないです。

本作を皮切りに、30代はさらに様々な趣向を凝らした作品に出演というお気持ちもありますか?

山田 なんか今年はそういうものを見せられるな、という気持ちがありました。例えば、(『東京リベンジャーズ』の)ドラケンのようなキャラクターがあるものをやってきた分、それとはちょっと離れたところにあるようなにおいのする映画をやりたいと思っていたんです。大河ドラマ『どうする家康』にも出るし、月9『女神の教室~リーガル青春白書~』も始まるけど、「夜鳥」にも出ている、みたいな。少し前の作品で言うと、「あゝ、荒野」とかがそういう色、においのする映画なのかなと思うんです。

すごくメジャーな作品にも出れば、エッジの効いたような作品にも出る俳優だという。

山田 特に僕のことを最近知ってくれた人たちに、「ちょっと僕、こういうのもやるんで」、「こういうこともできますよ」という提示になればとも思っています。僕自身が、お芝居をやっていてこういう(「夜鳥」のような)時間の流れがある映画がすごく好きだから、「こういうのが好きなんです」ということも、わかっていただけたらうれしいです。

インタビューを掲載するFILMAGAは、映画好きな読者が集まるWEBマガジンです。山田さんが最近観た中で、心に残った作品は何ですか? 新旧問わず教えてください。

山田 韓国映画の『7番房の奇跡』かなあ……! 有村架純ちゃんにお勧めされたので観てみたら、もうぼろ泣きでした。皆さんのお芝居も、話、キャラクター、登場人物たちの温かみ、すべてが完璧でした。度肝を抜かれましたね。人間味のある、ああいうお芝居ができたらいいなと俳優として思わずにいられなかったです。

韓国発の作品は、今すごく勢いがありますよね。

山田 僕も韓国の作品ばかり観ています。『ペーパー・ハウス・コリア: 統一通貨を奪え』、『賢い医師生活』……あとオーディション番組『Girls Planet 999』! 最近ハマりまして、めっちゃ推しています(笑)。

多岐にわたっていますね。見る時間は頑張って捻出しているんですか?

山田 もう、無理矢理見ました(笑)次の日が早くても朝5時ぐらいまで起きて見たりして。

そういう時間が、山田さんを日常や思考から切り離してくれるというか。

山田 そうですね、スケジュール的にも作品が折り重なっていたりして、少しきつかったのでかなり助けられました。皆さんにだんだん注目していただいている分、見る目が増えてくるわけじゃないですか。そこへのプレッシャーも「怖いな」と思いながら今は戦っています。そこからまったく切り離してくれるので、見ちゃっていますし単純にすごく好きで見ているのもあります(笑)。

Filmarksでは読者が作品についてコメントをする機能もありますが、「夜鳥」についても熱いコメントがたくさん寄せられたらいいですよね。

山田 初号を観た後、まりかさんと「これ、観た人はどう思うんだろうね?」という話になったんです。この作品は何かが劇的に変わるとかではなく、本当にちょびっとの一歩という感じじゃないですか。「どういう感想になるんだろうね?」というのが正直な気持ちなので、すごく楽しみです。早く公開してもらいたいですし、観てくださった人のコメントを沢山読みたいと思います。

(取材、文:赤山恭子、写真:iwa)

映画『夜、鳥たちが啼く』は2022年12月9日(金)より新宿ピカデリー他にて公開。

出演:山田裕貴、松本まりか  ほか。
監督:城定秀夫
脚本:高田亮
原作:佐藤泰志
公式サイト:https://yorutori-movie.com/
(C)2022 クロックワークス

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