2018年11月2日(金)にアポなし突撃取材で知られるマイケル・ムーア監督の新作ドキュメンタリー『華氏 119』が公開された。
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マイケル・ムーアと言えば2002年の『ボウリング・フォー・コロンバイン』でアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞し、一躍その名を世界に轟かせたドキュメンタリー監督。重く難しいテーマにもエンタメ性を持たせ、多くの観客を巻き込んで考えさせるその手腕は唯一無二だ。
これまでにも自動車工場閉鎖に伴う失業者問題をテーマに、ゼネラルモーターズの企業経営者ロジャー・B・スミス会長に突撃取材した『ロジャー&ミー』、ブッシュ政権を批判した『華氏911』などを手掛けている。
今回は、観る前に知っておきたい『華氏119』をより深く楽しむための10個のキーワードをご紹介しよう。
ドナルド・トランプ
本名はドナルド・ジョン・トランプ。言わずと知れた第45代アメリカ合衆国大統領。2000年の大統領選挙に出馬するも一時撤退し、共和党から出馬した2017年1月20日、第45代アメリカ合衆国大統領に就任した。
1946年、裕福な家庭に生まれた彼は、父親の支援をきっかけにカジノ・ホテル経営、ビルやゴルフコースなどの不動産建設で成功を収める。「アメリカの不動産王」と呼ばれ、テレビや映画の出演もあって大統領になる前からアメリカではよく知られた人物だった。
1977年にはチェコスロバキア人モデルのイヴァナと結婚し、後に大統領補佐官を務めることになる娘・イヴァンカが生まれる。1993年には不倫の末、モデルのマーラ・メイプルズと結婚。離婚ののちに2005年にユーゴスラビア出身のモデル・メラニアと3度目の結婚をして、息子バロンが生まれた。
「アメリカ・ファースト」を連呼する彼の政権をマスメディアは“超保守主義”と位置付けている。メディアやTwitterで繰り返される毒舌や暴言は、常に世界中の人々の関心を引く。
アメリカ・ファースト
トランプ大統領が選挙中からスローガンとして度々口にしてきたこの言葉、つまり「アメリカ第一主義」。簡単に言えば、“自国主義”であり“排他主義”。貿易は少なくして自国アメリカで生産しよう、移民を制限してよそ者を減らそうということだ。
アメリカで外国人が働くための就労ビザの発給基準を難しくしたり、テロ多発国からの入国を制限したり、メキシコ国境には壁を建設、TPP離脱や関税をアップして他国からの輸入品を少なくする、国民や企業への税率引き下げなど、その政策は度々ニュースで報じられている。
アメリカ合衆国大統領
アメリカ合衆国大統領は、アメリカ合衆国の国家元首……つまり“アメリカで一番偉い人”。アメリカ大統領になるために必要な資格は、
・アメリカで生まれ市民権を持っていること
・35歳以上
・アメリカでの在留期間が14年以上あること
4年に1度、国民の投票によって再任されるか、新しく選出される。アメリカ大統領でいられるのは2期となる8年間までだ。
なんと勤務時間は特に決まっておらず、自身の裁量に任され、年収は約40万ドル+経費もろもろ。国の政策を行う権限(行政権)、裁判官や各省長官など全ての連邦公務員を指名する権利、アメリカ軍の最高司令官としての指揮権など、強大な権力を持っている。
アメリカ合衆国大統領選挙
アメリカ大統領の選出については、国民が選挙人を選び、そこで選ばれた人物が投票するという間接選挙の制度をとっている。
アメリカでは日本のように、国の費用で候補者の主張を紹介する「政見放送」のようなものがない。そのため大統領になりたいと宣言した人物は、選挙資金や選挙運動のボランティアを集め、民間放送で政策を訴えるCMを流し、アメリカ全土を選挙演説で行き来するための多額の資金が必要になる。
まずアメリカの50の州それぞれで、共和党員や民主党員に属する人だけで代議員が選ばれる。その後に、各州から集まった代議員たちが予備選挙をして、各党の大統領候補者を選出する。2016年の民主党予備選挙では、ヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースが、ギリギリまで大統領候補者の一席を争った。
そして11月の第1火曜日に一般選挙が行われる。
ここで選ばれるのは全国538人の選挙人。この選挙人たちが12月に大統領を投票で選ぶというのがアメリカの大統領選挙のシステムだ。12月に大統領選挙が行われると言っても、11月のこの一般選挙で選挙人たちが誰に投票するかが分かっているので、次期大統領は事実上11月に決まっていると言っても良いだろう。
二大政党制
二つの大きな政党が議席数や影響力を保っているのが、アメリカの政治体制。二大政党とは民主党と共和党。その他の政党は第3党と呼ばれ、アメリカ緑の党やリバタリアン党、立憲党などがある。近年ではこの第3党が一般選挙で選挙人を獲得した例はない。
大統領選挙では、党の代表者とは別にその党の大統領候補者を予備選挙などで選出する。新人候補はそこで勝利すれば党の公認を得られることが多いため、有望な政治家志望者のほとんどは二大政党からの出馬を志向する。
第45代トランプ大統領、第43代大統領ジョージ・W・ブッシュは共和党から、第44第オバマ大統領、第42代大統領ビル・クリントンは民主党から出馬をしている。
フリント水道汚染
2016年、オバマ大統領が非常事態宣言をするなどアメリカを震撼させたミシガン州フリント市の水汚染公害。
フリント市の上水道は長年、同じくミシガン州のデトロイト市から供給されていたが、ヒューロン湖からの取水で効率的な上水道供給をする「新公社」を設立する際に、フリントは利用料が払えず、市内を流れる「フリント川」から上水道の取水を余儀なくされた。
これが原因で老朽化していた市内の「鉛水道管」が急速なペースで腐食され、その鉛が水道水に溶け出した。この鉛汚染によって、住民たちは深刻な健康被害に悩まされる。
現在、行政に対する複数の訴訟が進行中で、ミシガン州知事リック・スナイダーの責任追及にまで発展する事態となっている。飲料水は全国からの寄付により、ミネラルウォーターのペットボトルが無料配布されているが、水道管の交換などの解決策は財政難のため目途が立っていない。
大規模教員ストライキ
2018年2月、ウェストバージニア州の教員たちが1990年以来となるストライキを行った。理由は、米国内で最も低い賃金水準であることに抗議して、給与増と福利厚生の改善を求めたというもの。
この出来事を通じて、アメリカの公立学校の教師が教材を自腹で負担することや、副業のアルバイトで生計を支えるのが珍しくないことが世界に知れ渡ることとなった。
このストライキはSNSなどを通じて全国に拡大、全州55郡のすべての学校が閉鎖。歴史に残る規模のストライキに。
赤いバンダナとTシャツ姿のウェストバージニア州の教員たちたちは、2週間に及ぶストライキを貫徹して賃金5%アップを勝ち取った。
マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件
2018年2月14日午後3時頃、高校を退学処分とされていた19歳の元生徒が校内に侵入し、火災報知器を作動させた。校内の生徒が逃げようと避難を始めたところにAR-15ライフルを乱射。犯人は白人至上主義団体に所属し、軍隊式訓練に参加しており、この事件で生徒・教職員17人が死亡する惨事となった。
事件後、一部の生徒たちが銃規制の必要性を訴える活動を始め、2018年3月24日にワシントンで行われた銃規制要求デモは近年まれにみる規模となり、数十万人が集結、他の都市にも拡大した。
中間選挙
アメリカ大統領任期4年間の中間である2年が経過したタイミングで行われる、連邦議会上院の3分の1と下院全ての議員の選挙のこと。
2年間の実績や、大統領を支える与党の評価を問う「国民からの審判」 とも言える選挙だ。
2016年にトランプがアメリカ大統領に就任したので今年(2018年)は中間選挙の年。今年は本作の公開直後の11月6日に行われた。中間選挙を見越してか、10月初旬に人気歌手テイラー・スウィフトが民主党支持を表明して話題になったのも記憶に新しい。
119
2016年11月8日、アメリカ合衆国大統領選挙一般投票が行われた。開票の結果、一部の州を除き、全米で過半数の選挙人を獲得する見通しとなっていた。タイトルの「119」はその翌日となる11月9日を意味する。ドナルド・トランプが勝利宣言をした日だ。
奇しくも27年前の1989年11月9日は“ベルリンの壁崩壊”の日。東西ドイツを隔てる壁が崩壊した日に、メキシコ国境に壁を建設しようとしているドナルド・トランプが勝利宣言をするとは、なんとも皮肉である。
最後に
ドキュメンタリーは世界の今を知るためのとても素晴らしいツールのひとつだ。それが面白ければなおさら。マイケル・ムーア監督のドキュメンタリーは「地味」「小難しそう」といったドキュメンタリー映画への先入観を取っ払ってくれる。
本作を観ると、アメリカの今に日本の姿も重なる点が多々あることに気づかされる。マイケル・ムーアがドキュメンタリーを通して私たちに訴えるのは、
「民が黙れば民主主義は消える」
ということ。ぜひ、心して観てほしい。
(C)2018 Midwestern Films LLC 2018
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