【ネタバレ】映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』ラストはどうなる?ダイヤルの本当の意味とは?徹底考察

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

人気シリーズ最終作品『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』をネタバレありで解説。

「インディ・ジョーンズ」シリーズの完結編となる『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023年)が、6月30日(金)より各劇場で絶賛公開中だ。

考古学者にして冒険家のインディ・ジョーンズを演じるのは、もちろんハリソン・フォード。親友サラー役でジョン・リス=デイヴィスが三たび登場するほか、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、マッツ・ミケルセン、アントニオ・バンデラス、トビー・ジョーンズといったキャストが新しく集結した。

という訳で今回は、全世界待望の話題作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』について、ネタバレ解説していきましょう。

映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023)あらすじ

アメリカが月面着陸に成功した1969年。ニューヨークの大学で教鞭をとっているインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)の元に、旧友バジル・ショー(トビー・ジョーンズ)の娘であり、自分が名付け親であるヘレナ(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)が現れる。彼女の目的は、「アンティキティラのダイヤル」の所在。元ナチスの科学者フォラー(マッツ・ミケルセン)もまた、伝説の秘宝のありかを探っていた……。

※以下、映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』のネタバレを含みます。

遅々として進まないシナリオ開発、そしてスピルバーグの離脱

『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)、『インディ・ジョーンズ/ 魔宮の伝説』、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年)、そして『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008年)。

「最後の聖戦」公開から「クリスタル・スカルの王国」まで19年も空いてしまったため、「インディ・ジョーンズ」シリーズはもともと三部作だと思われがちだが、スピルバーグ&ルーカスがパラマウントと契約した1979年時点で、最初から5本製作することになっていた。「最後の聖戦」がシリーズ完結編として申し分のない終幕を迎えことと、4作目の良いプロットができなかったことで、全3作で打ち止めになっていたのである。

「クリスタル・スカルの王国」が公開された2008年頃から、「インディ5」の企画も始動していた。だがいつまで経ってもストーリーの方向が定まらず、プロジェクトが停滞するという「ハリウッドあるあるループ」に突入。そうこうしているうちに、2012年にディズニーがルーカスフィルムを買収し、翌2013年にはパラマウントから配給権も獲得。「スター・ウォーズ」と同じく、「インディ・ジョーンズ」シリーズも創造主ジョージ・ルーカスの手を離れてしまう。ルーカスフィルム新社長に就任したキャスリーン・ケネディがこのドル箱シリーズを放っておくはずもなく、2016年には正式に「インディ5」製作が発表される。

問題はハリソン・フォードの年齢だった。1942年生まれの彼は、「クリスタル・スカルの王国」公開時点で66歳。「運命のダイヤル」では80歳のおじいちゃんだ。しかし彼は、むしろ老境に入ったインディを演じるチャンスだと考えていた。

「もう1本やる必要はないと思っていたよ。ただ、インディ・ジョーンズが旅の終着点にたどり着く作品が観られたらいいな、とは思ったんだ。良い脚本があれば、このキャラクターをもっと深められることができるとね」
(ハリソン・フォードへのインタビューより抜粋)

とはいえ、おじいちゃんヒーローのシナリオ作りは難航を極めた。「レイダース」のローレンス・カスダンや、「クリスタル・スカルの王国」のデヴィッド・コープが脚本家として雇われたものの、スピルバーグ、ルーカス、ハリソン・フォードを納得させるストーリーが上がってこない。しかもディズニー側との調整も必要だ。そして2020年、スピルバーグは監督の降板を発表。

「インディ・ジョーンズ」シリーズ完結編は、スティーブン・スピルバーグ監督でもなく、ジョージ・ルーカス原案でもない体制で作られることになる。

職人監督ジェームズ・マンゴールドの起用

スピルバーグに代わって監督に就任したのは、ジェームズ・マンゴールド。ありとあらゆるジャンルの映画を自家薬籠中のものにしてしまう、当代随一の職人フィルムメーカーである。ざっとそのフィルモグラフィーを見渡してみても、同じ人間が手がけたとは思えないくらいに多種多様なラインナップ。

『コップランド』(1997年)警察映画
『17歳のカルテ』(1999年)青春映画
『ニューヨークの恋人』(2001年)ロマンティック・コメディ映画
『アイデンティティー』(2003年)サスペンス映画
『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)恋愛映画
『3時10分、決断のとき』(2007年)西部劇映画
『ナイト&デイ』(2010年)アクション・コメディ映画
『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年)スーパーヒーロー映画
『LOGAN ローガン』(2017年)スーパーヒーロー映画
『フォードvsフェラーリ』(2019年)カーレース映画

「インディ5」のオファーがあったとき、これまでとは比べ物にならないビッグ・プロジェクトに携わることに、さすがのマンゴールドも躊躇したという。しかしハリソン・フォードやスピルバーグと仕事ができる千載一遇のチャンスと考え、監督を受諾。偉大なフランチャイズを引き継いだ。

ちなみに今年4月7日に開催された「スター・ウォーズ セレブレーション ヨーロッパ 2023」では、「スター・ウォーズ」新作をマンゴールドが撮ることが発表されている。いやー、「インディ・ジョーンズ」と「スター・ウォーズ」の両方を監督するって、マジでヤバくないですか。次代のキング・オブ・ハリウッドは彼かもしれない。

マンゴールドは、『フォードvsフェラーリ』でもタッグを組んだジェズ・バターワース&ジョン=ヘンリー・バターワースと一緒に、およそ半年という期間をかけて脚本を練り上げていく。彼が重要視したのは、時代遅れのヒーローをどう描くかだった。

「主役が40歳のふりをするような映画にはできない。(中略)勝利と後悔の両方を持つ人生において、“ヒーローとは何か”ということを描いてはどうだろう?」
(ジェームズ・マンゴールドへのインタビューより抜粋)

人生の黄昏を迎えたヒーローの物語。それはすでに、『LOGAN ローガン』で描いたテーマでもあった。本作はウルヴァリンを主役に据えた「X-MEN」のスピンオフ作品であり、『ウルヴァリン』三部作の最終作。筆者は近年のスーパーヒーロー映画の中でも、本作は指折りの大傑作であると考えている。

不死身だったウルヴァリンは治癒能力が著しく低下し、X-MENのリーダーだったチャールズは老化によってアルツハイマー病を患っている。ミュータントが世界を救ったのは、もはや遠い昔。ウルヴァリンはチャールズの看病をしながら、リムジン運転手として生計を立てている。そして彼はローラという名の少女と出会い、彼女のために命を賭した最後の戦いに挑んでいく。この映画で描かれるのは栄光に包まれたヒーローの物語ではなく、かつて英雄ともてはやされた男の哀しきドラマなのだ。

確かにスピルバーグの降板は残念だが、インディ・ジョーンズの最終章を作るにあたってジェームズ・マンゴールドを起用したのは、慧眼だったのではないだろうか。『LOGAN ローガン』の実績がそれを物語っている。

「悪魔を憐れむ歌」、「マジカル・ミステリー・ツアー」

「クリスタル・スカルの王国」はエリア51やロズウェル事件に目配せした、かなりSF色の強い作品。そして「運命のダイヤル」は、それに輪をかけてSF色が強い映画になっている。何せアルキメデスがいた紀元前にタイムスリップしてしまう、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』的アドベンチャーなのだから。

ちょっとした自慢になってしまうが、筆者は予告編を観た時点で「運命のダイヤル」がタイムトラベルものになる予感がしていた。その理由は、BGMとして使われていたローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌(Sympathy for the Devil)」にある。1968年のアルバム「Beggars Banquet」のオープニングを飾るこのナンバーは、ルシファー(悪魔)がキリストの磔刑、ロシア革命、ケネディ暗殺といった人類の歴史に関与してきたことが歌われる。もちろん1969年を舞台にした映画なのだから、当時の人気ロック・ナンバーを流しただけかもしれないが、そこに作り手のメッセージを感じたのだ。

だが本編では「悪魔を憐れむ歌」は流れず、ビートルズの「マジカル・ミステリー・ツアー」が使われている。これはこれで非常に象徴的なナンバーだ。“The magical mystery tour is waiting to take you away”(マジカル・ミステリー・ツアーがあなたを遠くまで連れていくよ)という歌詞は、「アンティキティラのダイヤルが、はるか過去の世界へといざなう」という意味にもとれる。

「マジカル・ミステリー・ツアー」は、観光バスに乗り込んだビートルズの一行が様々な“マジカル”な体験をする、というテレビ企画から生まれた。だが直前に敏腕マネージャーだったブライアン・エプスタインが死去したこともあり、ポール・マッカートニーの思いつきを作品としてまとめあげる人材がいなかったことから、その内容はだいぶとっちらかったものに。今でこそカルト作品として一定の支持を得ているが、イギリスのBBCで放送された当時は酷評の嵐だったのである。

スピルバーグ、ルーカスという「インディ・ジョーンズ」の生みの親がいない状態で、「運命のダイヤル」を手がけることになったマンゴールドの姿は、どこかエプスタインを失ったビートルズたちと重なる。そう考えると、「マジカル・ミステリー・ツアー」は極めて自己言及的な曲にも聴こえてしまう。

ピアノにフランジャーをかけたり、ポールのヴォーカルをやたらオーバー・ダビングしてたり、この楽曲はどこかドラッギーな手触りがあるのだが(というか中期ビートルズにはそういう曲が多いのだが)、当時ビートルズの面々はLSDをバリバリ服用しながらレコーディングしていたんだそうな。その白昼夢的なサウンドは、今回の冒険すらもインディの白昼夢であったかのような錯覚に陥らせる(この映画では、常にインディが目覚めた瞬間に過去から現代に戻っている)。

『インディ・ジョーンズのマジカル・ミステリー・ツアー』。それは年老いた男が夢見た、最後の冒険物語なのかもしれない。

過去に取り憑かれた男、インディ・ジョーンズ

「運命のダイヤル」は、第二次世界大戦の真っ只中、インディ・ジョーンズがロンギヌスの槍をナチスの手から取り戻そうとするシークエンスから始まる。若くエネルギッシュなインディの大冒険が、アクションたっぷりに繰り広げられるのだ。列車でのアクションシーンといい、直後に現代のシークエンスに接続する構成といい、明らかに「最後の聖戦」のオープニングを意識した作りだろう。

そして、現代となる1969年。夢でも見ていたのか、すっかり老人となったインディはソファからムクリと起き上がる。老いさらばえた裸体は、見ていて悲しくほど。そして隣人に「音楽がうるさい!」と文句を言い、地下鉄で大学に通い、やる気のない生徒に考古学を教える。もはやそこには、世界を股にかけて宝探しに奔走した冒険家の姿はない。

1969年といえば、ベトナム戦争がますます激化し、アポロ11号が人類初の有人月面着陸を果たした年。「クリスタル・スカルの王国」は、米ソによる冷戦構造がいよいよ深刻化し、各地で赤狩りが激化した1957年という設定だったが、ますますインディは時代遅れの男として孤独を深めていく。

ジェームズ・マンゴールド自身も、インディが活躍していた時代からますます遠ざかっていくことを感じていた。

「最初の3作が作られた時、それらは全て30年代か40年代が舞台で、物語と調和していた。(『クリスタル・スカルの王国』の時代になると)ハリソンが年をとったというだけでなく、映画がモダニズムの時代に突入する。世界はもはや、白か黒かの世界ではない。政治や価値観が変化する時代に突入し、敵は必然的に灰色の影を帯びることになったんだ」
(ジェームズ・マンゴールドへのインタビューより抜粋)

そもそもインディ・ジョーンズは、過去に取り憑かれていた男だった。アークだの聖杯だの歴史的遺物に固執し、未来に進むことなく過去だけに生きてきた。『クリスタル・スカルの王国』で実の息子マット(シャイア・ラブーフ)と出会い、かつての恋人マリオン(カレン・アレン)と再会することで、彼の人生は初めて前に進む。天涯孤独だった男は家庭を持つことで、今を生きることに意味を見出したのだ。

だが今作で、マットは戦争でこの世を去ったことが明らかになる。マリオンとは離婚の危機だ。ようやく進み出した時計の針は再び止まってしまう。そんなとき、自分が名付け親であるヘレナ・ショーと再会を果たし、アンティキティラのダイヤルを巡る冒険へと巻き込まれていく。過去にタイムスリップし、紀元前の時代にとどまって、「歴史を発掘するのではなく目撃する立場にいたい」と懇願するインディの姿は、あまりにも痛ましい。彼は自分が生きている世界に、自分自身の価値を見出していないのだ。

結局彼は、1969年の時代に舞い戻ることになる。そして我々は、かつて「レイダース」で胸をときめかせたあのシーン……インディとマリオンの「痛いところはどこなの?」というあのやりとりを、再びスクリーンで目撃することになる。マットの死を乗り越え、再び時計の針は時を刻み始めたのだ(インディが父親の形見となる時計を大切にしていたことに注意)。

おそらくダイヤルとは、“過去”ではなく“今”を生きる象徴なのだろう。二つの片割れを一つに繋ぎ合わせることで……つまりインディとマリオンの絆が一つになることで、もしくは過去と未来が組み合わさることで、一人の男の精神的空白を救済したアイテムなのだろう。偉大なシリーズのラストを飾るにふさわしい、見事な幕引きではないか。大傑作『LOGAN ローガン』を生み出したジェームズ・マンゴールドの手腕は、このエンディングで見事に発揮されている。筆者はその一点において、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』を全力肯定するものであります。

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※2023年7月7日時点の情報です。

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