『BAD LANDS バッド・ランズ』サイコパスな男と化した山田涼介「最高のエンタメを届ける」ために誓った覚悟と映画愛【ロングインタビュー 】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

映画『BAD LANDS バッド・ランズ』山田涼介インタビュー。役作りのこだわりや撮影秘話など。二度目の参加となった原田組で訪れた“俳優をやっていてご褒美のような瞬間”とは?

出演作品によってガラリと顔を使い分け、いつも我々を驚かせてくれる山田涼介が、映画『BAD LANDS バッド・ランズ』でまた新たな境地を開いた。オレオレ詐欺と受け子という裏稼業の犯罪組織を赤裸々に、スリリングに描いた本作。劇中にて、山田は特殊詐欺の受け子のリーダー・ネリ(安藤サクラ)の血のつながらない弟ジョーとなり、吹っ切れたダイナミックな演技を披露した。

『BAD LANDS バッド・ランズ』の監督・脚本・プロデュースを務めたのは、原田眞人。原田監督と山田といえば、『燃えよ剣』でタッグを組んだのも記憶に新しい。当時について「毎日本当に緊張感があり、命を削っているような現場だった」とした山田は、2年ぶりに現代クライム劇で共闘した原田組において「ああ、頑張ってよかったなと思った」としみじみと振り返った。

山田が演じた姉のネリに執拗に思いを傾けるジョーは、純粋無垢な一面も持ちながら、犯罪歴がありサイコパスに振り切れる瞬間もある。彼史上最大の濃いキャラクターとも言えるジョーを熱演した山田に、役への思いを聞いた。さらにインタビューでは、どの現場でも限界まで頑張ることは当然だとする山田のストイックさ、エンターテインメントを届ける側にいるプライドまで垣間見せてくれた。

『BAD LANDS バッド・ランズ』の脚本を最初に読んだときは、どのような印象でしたか?

山田:すごく複雑な内容なので、理解するのにちょっと時間がかかりました。特殊詐欺がベースになっているので、聞き馴染みのない言葉もいっぱい出てきて。ひとつひとつ調べながら……というところから、脚本の読み解きは始まりましたね。

今回の映画のストーリーは、普通に生きていれば携わることのない世界の話だと思うんです。だけど、こうやって影でしか生きられない不器用な人たちが、この世の中には確かに存在していて。ジョーを演じた後では、そういうニュースを見聞きすると俯瞰で見るというより、「何でこうなってしまったんだろう、きっとこうだったのかな」と少しだけ考察するようにもなりました。犯罪を肯定するつもりはまったくありませんけど、そうした自分の中の変化は、ジョーをやらないと考えることもなかったことなんですよね。

作品の中でも、ジョーはかなりインパクトがある役ですよね。どうつかんでいかれたんですか?

山田:ジョーの空気感、ジョーにどう近づけていくかを自分なりに一応一生懸命考えてはいきますけど、現場で感じたものをどう吸収してジョーに吹き込んでいくかを一番大事にしていました。どの現場でも同じように思っているんですけど、ジョーが出す空気感は現場でしか生まれないと思っているんです。そこは相手役の安藤サクラさんとの相性みたいなものもあると思っていました。

安藤さんとのバディ感、姉弟の感じが抜群で見どころの一つだと思います。現場ではどのようなコミュニケーションを取っていましたか?

山田:実は役についてとか、全然話していないんです。というか、会話自体をそんなにしなかったかな……(笑)。お昼休憩のときにお弁当を一緒に食べていたんですけど、そこで安藤さんが何かセリフを言い始めたら、僕もそこで勝手にセリフを始めて、みたいな。安藤さんとは、ずっと役で対話をしているような感じでした。経験したことがない不思議な現場の感じは、やっぱり座長の安藤さんが出す雰囲気なわけで、その場にいることが僕はすごく楽しかったです。

安藤さんから演技の面で学んだこともありましたか?

山田:芝居をしているときは余計なことは考えていないし、そういう目線では見てはいませんでした。……でも、見ていると全部勉強になるんですよね。特に試写を観終わった後には、「やっぱり安藤さん、すげぇな……」と第一に思いましたし。安藤さんから学ぶことは、僕ら世代の役者だったらみんながあるんじゃないのかな。

原田監督作品への参加は『燃えよ剣』についで二度目です。二度目は一度目とは違う感慨がありましたか?

山田:単純に「原田組にもう一度戻れるんだ!」という喜びが一番大きかったです。原田監督と僕は、現場で多く話す感じではないんですね。僕はすごい人見知りだし、原田監督は現場ではやることがたくさんあるので、1対1で何かを話す機会がないんです。互いが互いのやるべきことを遂行する感じがプロの現場だな、というか。……自分で言うのも変ですけど(笑)。余計なことは話さないで作品のことだけに集中している空気感は、『燃えよ剣』のときから感じていましたし、僕はそういう現場がすごい好きなので今回もまったく同じように感じていました。

原田監督の演出について、本作ではどのような感じでしたか?

山田:原田監督はとにかくセリフをかぶせるんですよ。しゃべっている人のセリフ尻に、もう自分のセリフをかぶせていくスタイルが、原田組の特徴です。そうした「セリフを待たない」という大前提の、当たり前のルールはありました。けど、ほかの演出はあまり受けませんでした。何となく原田監督が思うジョーのイメージと、僕が思うジョーのイメージは、ホン読みの段階からつながっていたのかなと思います。

先ほど、役作りについて現場で吸収してやっていくお話をしましたけど、自分がプラン立てていったものが原田監督の思うものとまったく違った場合、現場で直されたら、たぶん僕すごくテンパっちゃうんですよね(笑)。だからこそフラットな状態で現場に行って、言われたことに対して、自分なりの解釈をして吐き出していくようにしていました。

なるほど、そうでしたか。現場ではアドリブも求められたそうですね?

山田:アドリブ、多かったです! 「アドリブをお願いします」とは言われないんですけど、「こっちを撮っているから、その間、こっち(山田がいるほうの場所)でなんかしゃべっておいて」みたいな感じなんですよ。ジョーは関西弁だったので、それが大変で!

確かに、関西弁のアドリブはイントネーションも言葉のチョイスも違いますもんね。

山田:そうなんです。セリフは関西弁を練習していけるんだけど、アドリブは練習できないじゃないですか。でもアドリブを求められたら「わかりました」と冷静には言うんだけど、内心めちゃめちゃ焦ってるの(笑)。裏で(方言指導の)先生と「こういうことを言いたいんだけど、関西弁に訳してください」みたいなやりとりをしていましたね。2~3分で頭の中に入れて、耳で覚えてやる、みたいな感じでやっていました。

僭越ながら関西出身でして、山田さんの関西弁に違和感はなかったです!

山田:ほんと? え、ほんと!? でも自分で「ここは確実に間違えている!」という部分はあるんです。だけど、芝居が良かったら(使う)とかもあるじゃないですか。関西弁を見せたい映画ではないから、ちょっと違和感を覚えるシーンもあるかもしれないけど、そこは映画に没入して楽しんでいただけたら幸いだな、と思っています。

山田さんご自身は、ジョーのことをどんな人間だと受け止めていたんですか?

山田:ジョーは「自分、サイコパスですから」みたいなことを言っていますけど、サイコパスというより本当にただのアホなんですよね。かわいらしい弟で、ちょっと危なっかしい部分もあって。だけど、お姉ちゃんのことになると、なりふり構わず特攻隊長みたいな感じで突っ込んでいける潔さみたいなのを持っているという。本当に0か100の人で、わかりやすい子なんだろうなという印象でした。ジョーに限らずどの役もそうですけど、愛情は100%注ぎながらやっていましたね。

詳細は伏せますが、映画ファン&山田さんファンなら「わーっ!」と胸熱になるシーンですよね。

山田:あの場所が、この作品では賭場になっていて「おらぁ!」とか賭け事をやっている自分が、なんか面白いなぁと思っていました。原田監督作品じゃなければ絶対できないオマージュだと思いましたし、あのセリフが台本に書いてあったのもすごく嬉しかったんです。

そもそも、あの場所は取り壊す予定だったらしいんですよ。けど、県の方が「残してほしい」という話があって、それがまたご縁で使うことができたという。

俳優をやっていてご褒美のような瞬間、のような感覚でしょうか。

山田:いや、ほんとにそうです。自分がいけたこともそうなんだけど、原田監督からの愛をすごく感じたといいますか。「あ、これを入れてくれるんだな」という、そこに対しての喜びが一番大きかった気がします。「うわぁ……なんか……そういうとこ好きなんだよなあ!」みたいなことを思いました(照)。

先ほど現場ではあまりお話されないということでしたが、試写を観終わった後など、原田監督からかけられた言葉はありますか?

山田:「ジョー、よかったっしょ?」と言われました(笑)! ありがたいお言葉ですよね。監督はきっと何気なくおっしゃったと思うんです。でも、それが僕にはすごーく響くんですよ。現場ではそんなことを一言も言うタイプの方ではないので、1年半くらいたって完成して、作品を作ったご本人がそう思って言ってくださったのは、「ああ、頑張ってよかったな」と本当に思います。

僕、原田監督のことはたぶん読者の方と同じくらいの情報しか知らないと思うんですよね。「あ、なんか……こういうふうに思ってくれていたんだ」みたいなことは、原田監督が受けているインタビュー記事を読んで知ることがすごく多いんですよ。間接的にすごくありがたいお言葉をいただいたりするので、……密かに喜んでいます(笑)。

山田さんは様々な作品のオファーを受け、都度やり切っていらっしゃると思います。撮影に臨む際、プレッシャーや不安と対峙するときは、どう乗り越えていっているんですか?自分なりのルールややり方はあるんでしょうか。

山田:作品に出ること自体へのプレッシャーを感じることは、僕はあまりないんです。……でも『燃えよ剣』のときだけは、とてつもないプレッシャーと戦っていました。やはり歴代すごい俳優さんが演じてきたキャラクター(※同作で山田は新選組の一番隊組長・沖田総司を演じた)で、何より実在した方ですし、イメージが皆さんの中にすでにあるわけじゃないですか。

ものすごくプレッシャーを感じていたからこそ、誰も文句を言えないくらい練習をしました。「これ以上できないよね」という自分の限界までやったので「これで何か言われたら、ただの実力不足だからしょうがない」と腹をくくりましたね。だからプレッシャーとの戦い方で導き出した答えは……自分が納得できるぐらい練習すること、じゃないかなと思います。

そこまで自分を追い込むことは、やろうと思ってもなかなかできないことです。

山田:そうですよね。「もうだってこれ以上できないもん!」と言うまで、人間ってやらないですよね。あのときは……、僕はどの現場にも剣を持って行き振っていましたね(苦笑)。ライブ中も振るし、家に帰っても2~3時間はずっと素振りしているし、みたいな。常に剣とともに生きると言っていいくらい、それほど準備しました。

それでもダメなら才能がないだけだから仕方がないし、諦めるしかないと思えるんですよ。プレッシャーに打ち勝つのって、自分に自信をつけるしかないから努力をすることしかないんですよね。……あまり自分で「努力しています」とは言いたくなかったですけど。

「努力している」と言いたくないのはなぜ?……ということまで聞いてもいいですか?

山田:それが僕の仕事なので。お金を払って作品を観に来てもらっている人に対して、あまりにも失礼なことだと思うんです。本当に最高のエンターテインメントを届けたいと思って僕はいつもやっています。だからこそ、ちゃんと準備はしていきます。

自分が「限界です」と思うぐらいやったもので、自分が納得できるもので勝負しないと。そして、もしもそれが評価されたときは「練習してよかったな」とも思えるじゃないですか。たとえよくても、ダメでも、そこに行くまでのプロセスは大事にしたほうがいいと僕は思ってやっています。

(取材、文:赤山恭子)

映画『BAD LANDS バッド・ランズ』は、2023年9月29日(金)より全国ロードショー。

出演:安藤サクラ、山田涼介、ほか。
監督・脚本・プロデュース:原田眞人
原作:黒川博行『勁草』(徳間文庫刊)
配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://bad-lands-movie.jp/

(C)2023「BAD LANDS」製作委員会

※2023年9月25日時点の情報です。

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS