【最終回】星崎は九条の写し鏡?「最高の教師」とは何だったのか。ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』ネタバレ考察

日本テレビ系ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』最終回をあらすじを踏まえながら考察。九条と星崎の関係性や、九条が1周目に選んでしまう死の可能性、生徒が託したものは何か、を考察します。

芦田愛菜が7年ぶりに民放ドラマでレギュラーキャストに名を連ね、主人公は松岡茉優と注目を集めてきた『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ)。ドラマは第2章へ移り「学園ドラマ」の域を超え、「大人」に語りかける内容へ。第10話では、ついに1周目で九条を突き落とした犯人と対面する。

九条と星崎の関係性や、九条が1周目に選んでしまう死の可能性、生徒が託したものは何か、を考察します。

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*以下、ネタバレを含みます。

最高の教師 1年後、私は生徒に■された』あらすじ

【最終回】九条は突き落とされなくても死んでいた?星崎と九条の意外な関係性。ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』ネタバレ考察

鵜久森(芦田愛菜)の事件の真相も判明し、3年D組は卒業式を迎える。1周目の人生で突き落とされ命を落とした担任・九条(松岡茉優)は、ついに犯人と対面する。そこにあらわれたのは星崎(奥平大兼)だった。突き落とされるのを回避し、星崎の動機や自身が抱える悩みを聞く九条だったが、星崎の心を動かすことはできず星崎はテラスから飛び降りようとしてしまう。その時、相楽(加藤清史郎)らクラスメイトが星崎を呼び止め、駆けつけた夫・蓮(松下洸平)に星崎は救出される。

落ち着いた星崎たちと帰路につこうとする九条だったが、恨みを募らせた浜岡(青木柚)が九条をナイフで突き刺してしまう……。しかし、九条は運命を乗り越え目をさます。そこには、クラスメイトたちが揃っていた。

【考察】「変わらない」と諦めた「星崎」と「九条」

サブタイトルに「『変わらない』と諦めたあなたたち」と題された最終回は、犯人である星崎の胸の内を明かす語りが印象的だった。星崎は以前から掴みどころがなく、クラスに混乱を招いたりと怪しい動きを見せ、「犯人ではないか」と考察する記事も多かった。それゆえに、実際に星崎が犯人だと判明した時は、正直拍子抜けに感じてしまった。しかし、物語が終わる頃には、星崎は九条にとってどのような存在だったのか、そして、星崎を通して、この物語が最後に変えて救ったのは「九条」なのではないか、と気づいた。星崎と九条の関係を読み解くには、まず星崎の気持ちを整理する必要がある。

星崎がみる白黒の景色と根本的な問題とは

教室内でどこか無感情で、客観的な態度をとる星崎。その性格の根源は、小学生のころの体験にあると語られた。自分と違うまわりの反応をみて「自分はおかしい」と思ってしまう。それからというもの、空気を読み、真似をし、邪魔にならないようにと我慢をしてきたという。その結果、現在では「まわりが白黒の景色」のように見えるようになってしまった。
退屈な景色を誰も変えてくれないことに鬱々としていたが、そこに現れたのが九条だった。鵜久森をきっかけに、クラスを少しずつ変えていく九条。自分の周りに色を取り戻してくれる「ヒーロー」だとも表現した。

そんな九条の力になりたいと、星崎はアクションを起こすようになる。その一つが浜岡に西野の情報を伝えたことだった。何か起これば、九条がまた生徒たちを変えてくれるかも、という思いからだった。次第に九条のように自分がみんなの事を変えられるようになりたいと考えはじめ、東風谷に浜岡の動画を見せるなどしてクラスを混乱に陥らせる。その行動について「誰かのために生きてみたかった」と語る。

浜岡の動画を見つけた時は興奮した様子を見せていたが、そのうちにクラスメイトたちは変わりつつあるのに、自分は何も変わらないことに気付き、世界はまた色を失ってしまう。そして、それが永遠に続くことが怖い、と想いを吐露した。

星崎は白黒になってしまったまわりの景色や生徒たちを誰かに変えて欲しい、そして変えようと思っていたと明かした。実際に九条の登場により変わっていくクラスメイトに最初は喜んでいたようだった。しかし、根本的問題は「自分はおかしい」と言う認識にある。自分を否定し続けた結果、客観的にしかクラスをみることができず、どんなにまわりが変わってもその虚しさは消えない。星崎が抱える悩みに対して、九条は、色を失っていたのは周りではなく自分ではないか、と伝える。そして「自分だけでも自分を信じて欲しい」「心を、思いを解き放って」と提案した。

九条の言葉だけでは心は動かなかった星崎だったが、約半年間も自身を気に掛け、駆けつけてくれたクラスメイトたちに心は動いていたようだった。他者によって自分をおかしいと思わされたのと同じく、他者がいるから自分の位置を確認できることもある。星崎に残ったのはありのままの「自分自身」を受け入れてもらえる嬉しさだったのではないかと感じた。

九条は突き落とされなくても自ら死を選ぶ? 九条と星崎の共通点。

色のない景色を生きるのは星崎だけではなかった。星崎の胸中を聞いて、九条は理解を示す。淡々とこなす日々の虚しさを1周目の自分も感じていたからだ。確かに、回想で出てくる1周目のシーンは、どれも白黒だった。

「生徒のために命をかけて死力をかける教師。そんな理想を掲げる教育者は、今何人残っているだろう。生徒の問題を注意すればパワハラと騒ぎ立てられ、生徒の悩みに耳を傾ければ直ちにモラハラを糾弾されるこの時代に、彼らが教師に期待する役割はもはや、ただ彼らの自由を邪魔せず卒業の日を迎えさせることだけになっていた」

これは1話での九条の独白だ。卒業する生徒を見る顔は無表情で、無気力。星崎に「あなたは一人、全てを客観的にみているようでした。この世界が作り物かのように」と告げるが、まさしく1話の九条そのものだった。星崎とは「先生と生徒」ではなく「人と人」との距離で話してしまう、と口にしていたが、それは無感情な星崎は自分と重なるところが多く、まるで自分自身と話しているように感じたからではないか。星崎は九条の写し鏡のような存在とも言える。

九条はなぜ、突き落とされるとわかってあの場所へ向かったのか。蓮が言うように、休むという選択だってできたはずだ。それは、最後に変えなければいけないのは九条自身だったからだ。

「今日、あなたに会わないとこの運命は変えられないと思ったから」

過去の九条も星崎と同じく、「この世界がこんなものかと達観してしまう危うさ」を持っていた。

「“その選択”の瞬間というのは、苦しい状況が変わらないと絶望したとき」

1周目の九条は星崎によって命を落としたが、もしそうでなかったとしても、1周目の鵜久森や星崎がそうしたように同じ選択をしてしまうのだと、本人は自覚していたのではないか。九条は星崎を通して変えなければいけない「過去の自分」と対話をしにこの場所へ赴いたのだと思う。変わらない世界に絶望した星崎に向き合うことは、死を選んでしまう自分自身に向き合うこと。最後に「自分」を変え、救うために必要だった。

【考察】九条を変えた「最高の教師」が託すもの

九条を取り巻く環境は1周目に比べて大きく変わった。鵜久森や相楽、西野や東風谷、クラスメイトたち、教員、そして夫の蓮までも。星崎の危機に駆けつける生徒や手を差し伸べた蓮、花壇に咲いた花、この1年で変わったことが画面に溢れていた。1年後の惨劇を回避するべく九条がクラスを変えようと始まった物語だったが、いつでも苦しい状況を変えてきたのは生徒自身だったと九条は語る。自分を信じて立ち上がることの強さ、白けず本気で向き合うことで誰かが応えてくれること。「最高の教師」は生徒の方だったと明かされる。「いつからだろう、卒業式で泣かなくなったのは」と語っていた九条の目に涙が光っていたのは、本当の意味での救済のあらわれなのだと感じた。

本作は1話目から終始メッセージ性の強いセリフが多かった。特に第二章にうつるとそのメッセージはクラスを飛び越えて「現代の私たち」へ問いかけ始めていた。これまでの考察で幾度か触れたが、このクラスでの出来事は社会を反映させた劇になっている。「まずこの教室から変わるんです」の宣言通り、クラスは生徒自身の力で変わってみせた。そして最終話である10話。星崎を通して九条のような「白けてしまった大人たち」、「『変わらない』と諦めたあなたたち」へ最後のメッセージを送った。

「過去の私みたいな生徒が生まれないような教室に、無自覚に人を傷つける世界を少しでも変えてくれることを。」

「この世界を、これからも生きて、変え続けることを」

クラスメイトたち、そして鵜久森からの「バトン」は、私たちにも託されたのだと思う。

最高の教師 1年後、私は生徒に■された』作品情報

脚本:ツバキマサタカ

演出:鈴木勇馬、二宮 崇、松田健斗

製作:日本テレビ

主題歌:菅田将暉「ユアーズ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

公式サイト:https://www.ntv.co.jp/saikyo/

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*2023年9月26日現在の情報です。

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