漫画や舞台と多岐に渡ってのメディア展開を果たした辻村深月の小説「かがみの孤城」が、2022年についにアニメーション映画化。満を持しての公開となった本作は、国内外で高い評価を獲得し、日本でも興行収入10億円以上のヒット作となりました。
そんな映画『かがみの孤城』の物語には、ある仕掛けが隠されていました。早速解説していきましょう。
『かがみの孤城』(2022)のあらすじ
学校での居場所をなくし、部屋に閉じこもっていた中学生・こころ。 ある日突然部屋の鏡が光り出し、吸い込まれるように中に入ると、そこには不思議なお城と見ず知らずの中学生6人が。さらに「オオカミさま」と呼ばれる狼のお面をかぶった女の子が現れ、「城に隠された鍵を見つければ、どんな願いでも叶えてやろう」と告げる。
期限は約1年間。 戸惑いつつも鍵を探しながら共に過ごすうち、7人には一つの共通点があることがわかる。互いの抱える事情が少しずつ明らかになり、次第に心を通わせていくこころたち。そしてお城が7人にとって特別な居場所に変わり始めたころ、ある出来事が彼らを襲う。
果たして鍵は見つかるのか? なぜこの7人が集められたのか? それぞれが胸に秘めた〈人に言えない願い〉とは? すべての謎が明らかになるとき、想像を超える奇跡が待ち受ける……。
『かがみの孤城』とはどんな作品か?
「かがみの孤城」の原作は、2017年に刊行された辻村深月の小説。2018年に本屋大賞を受賞し、累計発行部数は2023年時点で200万部を突破するほどのベストセラー作品です。
原作の刊行時点で既に高い支持を獲得していた「かがみの孤城」でしたが、このアニメーション映画化にあたっての布陣がまた豪華。『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)や『河童のクゥと夏休み』(2007)で知られる原恵一がメガホンをとり、脚本には『カラフル』(2010)や『百日紅 Miss HOKUSAI』(2015)、遡ると『ドラミちゃん アララ・少年山賊団!』(1991)で原とタッグを組んでいる丸尾みほが名を連ねます。
本作は日本アカデミー賞にて優秀アニメーション作品賞に選出された他、フランスで行われるアニメーションの大規模な祭典・アヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティションにノミネートも果たしました。
※以下、映画や原作小説のネタバレが含まれます。あらかじめご注意ください。
意味深?孤城のルール解説
本作の舞台となる孤城には、オオカミさまから与えられた課題といくつかのルールがありました。
城のどこかには誰も入れない「願いの部屋」があり、その部屋に入ることができればどんな願いも叶うが、その部屋に入れるのは7人のうち1人のみ。しかもその願いの部屋に入るには鍵が必要で、翌年の3月30日までに城のどこかにある鍵を見つける必要がありました。
それ以外にもいくつか制限があり、誰かが鍵を見つけて願いを叶えた場合、その時点で城や鏡は閉じられてしまうこと。また、日本時間の午前9時から夕方5時しか城を利用することはできず、そのルールを破って城に滞在していた場合、巨大なオオカミに食べられてしまいます。その上、その日に一緒に過ごしていたメンバーも連帯責任で一緒に食べられてしまうという条件となっており、実際映画の終盤ではアキが時間を破ったせいでこころ以外の全員がオオカミに食べられてしまいました。
この時間の制限について、作中では市役所みたいだと言われていますが、病院などの施設の受付時間にも言える時間の制限です。この映画の秘密を知るとこの時間の制限にも事情があるのではと想像できます。
鍵の場所は結局どこだったのか?
オオカミさまに与えられた課題である鍵の在処は、終盤にこころによって見つけられることになります。その場所は城のエントランスに設置された柱時計でした。
ヒントは、こころの友達だったモエの玄関に飾られていた絵にありました。その絵というのが、グリム童話の「狼と七匹の子山羊」です。城の各所に記されたバツ印は、実は童話の中で狼に襲われないように子山羊が隠れた場所と一致していました。童話では子山羊たちは結局狼に見つかってしまい食べられてしまうのですが、その中で狼から唯一逃げることができた子山羊が隠れていたのが柱時計だったのです。
ちなみに、バツ印は実は狼に食べられてしまったこころ以外の6人の墓標であり、この印を集めたことでこころはそれぞれの記憶の断片を垣間見ることができたのでした。
死ぬ前からすでに墓標が決まっている点に、城の時間が特殊な状態にあることを示唆していれば、モエと向き合ったことをきっかけに、こころが鍵の在処を導き出したことは、物語の構造として偶然ではないでしょう。
7人の共通点と隠されていた秘密とは?
こころがそれぞれの記憶の断片を知ったことで、城に選ばれた7人の秘密に気づくことになります。
実は、7人はそれぞれ同じ雪科中学の生徒でした。が、在学時期がズレていました。それぞれが城を訪れた年は以下の通り。
1985年:スバル
1992年:アキ
2006年:こころ/リオン
2013年:フウカ
2020年:マサムネ
2027年:ウレシノ
最後には、それぞれ7年おきの世代で構成されていたことが発覚します。話題が通じなかったり、学校で会う約束をしても会えなかったのは、それぞれが違う世代の人間だったからでした。
こころがアキの罪をなかったことにしたため、オオカミに食べられた全員が救われることになるのですが、ここで救われたアキが後にキタジマ先生としてこころ達の下の世代の支えになっていくことを考えると、時代を超えて互いに助け合う形となっている点が感動的です。
ちなみに、マサムネが憧れるゲームクリエイターのナガヒサロクレンも実はスバルだったことが最後に示唆されています。スバルの本名は長久昴。昴といえばおうし座の星団プレアデスの意味があり、視認しやすい星の数が六つあるので“六連星”として知られています。実はナガヒサロクレンとはスバルのクリエイターネームであり、マサムネがゲームクリエイターと知り合いというのも結果的には嘘ではなかったことになるのでした。
オオカミさまの正体はいったい誰なのか?
7年おきに呼び出されたはずの子どもたちの中で、唯一1999年にあたる子どもが居なかった答えにリオンが気づくことになります。その1999年にあたる子どもこそ“オオカミさま”であり、そのオオカミさまの正体は、本当は1999年に学校へ行くはずだったのに行けなかった、リオンの姉であるミオだったのです。
学校へ行きたくても行けなかったミオが、時を超えて同じく学校へ行けなくなってしまった子どもたちを不思議な力で集め、結果的に救っていくことになります。
リオンが選ばれた子どもたちの中で唯一不登校の状況になかったり、こころと同じ学年で世代が重複しているなど異例の状態だった理由はこれで説明がつくでしょう。姉と一緒に学校へ行きたいと望んでいたリオンの望みを叶えるように、彼だけは他の子どもたちとは条件が違いながらも選出されたと言えます。
そして最後に、リオンはミオに城での出来事を覚えていたいと願い、ミオは「善処する」と応えました。二年生になり学校へ登校できるようになったこころに、転校してきたリオンが突然話しかけます。その様子からするに、リオンの望み通りリオンだけは孤城での出来事を覚えているのでしょう。
後日談が描かれた<その後の風景>
『かがみの孤城』は上映開始当初、二年生になったこころとリオンが再会するところで終わっていたのですが、特殊な形で後日談が補填されていった作品でもあります。
まず、入場者特典として登場人物のその後の様子が描かれた全6種のポストカードが2枚セットずつランダムで配布されました。ポストカードのイラストには、こころやリオン以外の子どもたちも“世代が違いながらも実は再会を果たしている”という様子が描かれたものでした。
さらに、上映から一ヶ月ほど経過したのちに、これらのポストカードに描かれた“その後の風景”をスペシャル映像として本編エンドロール後に上映するという異例の追加上映も実施。
フウカやウレシノは本当に会うことができたのかや、意外な形で他の子どもたちも再会を果たしている様子が描かれており、こころやリオンもしっかりとした記憶こそなくても、半ば運命的に通じ合っていく様子が描かれました。
この結末自体も、誰にだってどこかに居場所はあり、助けたり支えてくれる人が居ることを示してくれているように思えます。前述の入場者特典の第2弾の柄には“あなたが8人目”と題した後日談ではなく、カードのこちら側へ手を差し伸べる子どもたちの様子が描かれたものが配布されています。『かがみの孤城』自体が今現在居場所がないと感じる人にとっての拠り所になって欲しい。そういったメッセージが本作には込められているのでしょう。
(C)2022「かがみの孤城」製作委員会
※2024年2月10日時点での情報です。
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