映画『若き見知らぬ者たち』磯村勇斗×内山拓也「彼の背中だったら彩人を託せる」才気あふれるタッグ、見知らぬ者たちで作り上げた快作【ロングインタビュー 】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

『佐々木、イン、マイマイン』で新人賞を総なめにし、多くの観客の心を捉えた内山拓也監督による商業長編デビュー作『若き見知らぬ者たち』が2024年10月11日より全国公開を迎える。主人公の風間彩人を演じるのは、『月』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞し、名実ともにトップランカーに躍り出た磯村勇斗。この才気あふれるタッグに心が躍らない、わけがない。

彩人は、亡くなった父の借金返済に明け暮れながら、難病を患う母(霧島れいか)の看病をしつつどうにか日々を生きている。重くのしかかる家族の問題と自身の人生との狭間でもがきながらも、恋人で風間家を支える日向(岸井ゆきの)とささやかな幸せをつかもうとする。しかしある日、思わぬ残酷な出来事が彩人の身にふりかかる。

監督以外に原案・脚本も務めた内山が、8年という月日を費やした渾身作。その思いに共鳴し本作に身を投じた磯村。信頼を寄せ合い作品を結実させた同世代の二人に、ロングインタビューを行った。

内山監督の商業デビュー作『若き見知らぬ者たち』の主演のオファーを、磯村さんは最初どう受け止めましたか?

磯村:内山監督とご一緒できるという面白さを、まず最初に感じていました。同じ歳でもあるので、こうして同世代で作品を作っていくところがいいなと思ったんです。そして脚本と企画書を読んだときに、なんだかすごく……「こんなにも報われないこともあるんだな」と思いましたし、同時にすごく腹も立ったんですよね。そうやって、脚本を読んでいるときに自分の感情が動くことはすごく大事で、僕の指針になっています。『若き見知らぬ者たち』では完全に内山監督が描く脚本に感情を動かされたので、この作品に自分が挑戦したらどんなふうに自分が変わっていくのか、と同時に、この作品を世に届ける手助けを自分ができたらいいなと思い、「ぜひやりたいです」とお受けしました。面白いものができるなと直感で思ったので。観客の皆さんにはこれから観ていただくので、どんな反応があるかはちょっと楽しみにしています。本当に最後まで皆で戦ったので、自信を持って届けられる作品になったと思います。

内山監督は長年温めた脚本の主人公を磯村さんにお願いするにあたり、期待したことや、どうして磯村さんだったのかなど、理由も聞かせてもらえますか?

内山監督:『若き見知らぬ者たち』については、初めて撮った自主映画を完成させた後、すぐ考え始めました。ですので、公開すると足掛け8年ぐらいになりますかね。さまざまなことが移ろいゆき、向き合い続けた期間でした。制作することを決め、誰と一緒なら届けられるか、そして誰と一緒に届けたいかと考えたときに、彼(磯村)の背中だったら彩人を託せるんじゃないかと思いました。

内山監督と磯村さんは、もともとのつながりや関係性もあったんですか?

内山監督:いえ。間接的にお会いしたことは少しだけありましたが、ほとんどしゃべったこともありませんでした。僕は作品を作るときに想像力を持つことを大切に思っているのですが、その想像性であったり、余白みたいなものをきちんと持たれていると磯村さんから感じていたので、彼とだったら共に作り上げることができるのではないかと思いました。人がフィクションを作るということではなくて、フィクションが人を作るというふうにも捉えていて、つまりはフィクションが時代を作り、時代がフィクションを捉えていくんじゃないか、という仮説を自分の中で立てています。その思いの延長線上で、今作は現実とフィクションのきわで物語りますが、彩人にある出来事が降りかかり、主人公が仮に真ん中にいなくなったとしてもずっとそこに(存在は)居続けなきゃいけない。それを託せるのは磯村さんで、磯村さんならできるんじゃないか、というのがお願いしたきっかけだったと思います。

先ほど磯村さんから「皆で戦った」という言葉もありました。主演として参加したというよりも、内山監督や皆さんで混ざり合って作ったという印象を受けます。実際、現場でそんな磯村さんのことをどうご覧になっていましたか?

内山監督:本当にたくましいなと思いました。文字通り主人公であり、組の真ん中にずっと居続けてくれました。僕は、僕が伝えようとすることだけを手となり足となりやってもらうことは、まったく望んでいません。作品を演じるということだけじゃなくて、彼は本当に彩人を真正面から受け止めて、彩人として立ってくれていたんです。その姿が“若き見知らぬ者”でもあり、そういうところを現場全体に混ざり合わせながら伝播させてくれていると受け止めていました。その姿でも、言葉でも、みんなに表現をしてくれていて。チームとしても、すごく素晴らしい時間だったと思います。

磯村さんはどのようにして、どこにも逃げ場がない彩人を作り上げていったんでしょう。

磯村:脚本を読んだとき、最初に不自由さをすごく感じたんです。だから、不自由な状態を作っておく必要があると思い、衣食住が満たされていない環境作りからアプローチして入っていきました。彩人には母親の介護のこともあるので、介護をしている人たちを見ていく中で、どれだけ身体や心にストレス具合を持っておく必要があるかも考えていました。……かといって、そればかりを引きずっていてはシンプルな人間像になってしまう。そうじゃないアプローチも考えて準備しつつ、あとは本当に現場でどう感じていくか、みたいなところでやっていました。

共演の俳優さんたちもすさまじく、まさにその人を醸すたたずまいでした。そのあたりも彩人を演じる上での助け、刺激になりましたか?

磯村:もちろん、おっしゃる通りですね。特に、母親を演じた霧島(れいか)さんが、現場でお会いしたときの状態があまりにもすごかったんです。僕はただ受けるだけでよかった感じでした。僕自身も、ほかの役者さんも、スタッフさんも、一人一人が自分たちがやるべき準備を、ものすごく緻密に作りあげてきていた現場でした。その集合体でこの映画は作られた気がするから、あまり無理に何かをやろうとしなくても、自然と彩人というもののレールが現場に敷かれていたような気がします。僕はそこに乗っていきました。

彩人は本当にギリギリの精神状態で、それでも諦めずに懸命に日々を送っています。胸が締め付けられる演技でした。

磯村:彩人は諦められなかったんでしょうね。諦めたら、とっくに自分で死を選択してしまっていたと思います。やっぱり死ねないというところは、僕の中で明確に作っていました。(内山監督の)取材に僕も一緒に参加させてもらう中で、介護をしている人がその本人を捨てたくなったり、自分自身が死にたくなったりするときがあるということを聞いていたんです。それでもなぜ生きてこられたかという理由に、明確に“この人がいたから”とか“こういう存在があるから死ぬことができなかった”というのがありました。彩人にも絶対当てはまるしあるだろうなと思い、それをどこに当てるかを考えたりしていました。

監督には演出面についてお伺いしたいです。例えば、母親の万引きシーンのくだりなど、時系列を曖昧にすることで、実際に自分の記憶の曖昧さと似ているような感覚を覚えました。そのあたりも意図して組み立てていたのでしょうか? 何かインスピレーションを受けたり、参考にした作品などがあれば、教えてください。

内山監督:この作品においては、正直参考にした、インスピレーションを受けたというものはあまり思い浮かばないんです。昔の作品を中心によく観直しはしたのですが、それらはどちらかというと美術や衣装などに反映されたかもしれません。時系列や記憶の曖昧性については、生きていて、誰しもに平等に流れるはずの時間は、必ずしも同じではないと感じていて、その時間の中で成り立っている日常に「これでいいのか」と感じることを緩やかにも鋭く差し込む、ということを大切にしました。

僕たちは日常をすごくいい加減に、曖昧に捉えながら生きているんじゃないかなと思っています。それなのに、曖昧なものをさも正確かのように発信し、それが正確なものとして受け取られていることがしばしばあるように感じます。「あのとき、ああだったよね」と言ったことが当然違ったり、その「あのとき」がいつなのか、それが5年前なのか、10年前なのかと全然バラバラだったりするのは、人間のいい加減なところと、歳を重ねていくことでないまぜになって、自分の記憶にストックしたり、そのまま他者に伝えてしまっているからだとも思っています。ただ、自分が感じているそれらの曖昧性を、表現としては無自覚にやっている部分が大きいんですよね。意識的にそうしようと思って脚本を書いたりはしていなくて、それは僕自身も記憶にとらわれてしまっているからだと思います。なので、現場で演出をしていくときに記憶の曖昧性というものに対峙することになりましたが、それはやはり、そこに俳優の肉体が存在していたからだと思います。

今回の万引きのシーンで言うと、事象である万引きをするシーンを最初に描写することが、いわゆる通常の描かれ方かもしれません。ですが、彩人がお金を払うシーンを先に描きました。その意味については、スライス・オブ・ライフであれば「そういうことだったんだ」ということは後からついてくる方が自然のように思うからです。僕たちも「あれって、こういうことだったのかな」みたいなことは後から実感したり、日常の中で裏付けを取りながら生きているんじゃないかなと思うので、必然的にそのようになっていきました。

磯村さんは今回初めて内山監督とご一緒して、監督の映画作家としての特質や魅力をどこに感じていますか?

磯村:とにかく、嘘がないんですよね。すべての言葉とそのシーンの組み立て、伝えたい物語の構成も含めて、嘘がないし絶対に無理をしない方なんです。そこが僕はすごい好きです。だからといってストレートにチープなものではなくて、しっかり組み立てて考えられているから、とても丁寧なんです。ここまでいろいろなことを、本当に細かいところまで準備して、調べて、現場を動かしている監督は、ちょっといないんじゃないかと思うぐらいです。僕は初めて出会いました。

それは現場での立ち居振る舞いからももちろん感じました。何か気になることがあって聞いたら、必ずそれ以上のもので、ちゃんと自分たちを説得する言葉で教えてくださるんです。そこが信頼を置ける部分でもあるし、内山監督の『若き見知らぬ者たち』に結びつく作家性なのかなと思います。だからこそ、こんな作品が作れるんだな、そこに俳優たちがついていくんだなというのは感じました。

『若き見知らぬ者たち』というタイトルにも惹かれる作品ですが、観終わった後はさらにその意味を反芻してしまいます。監督はこのタイトルに込めた想い、また磯村さんもタイトルについて感じたことなどをお聞かせください。

磯村:結局、みんな見知らぬ者たちであると僕は思っています。この現場に入って撮っているとき、それぞれがまだ未知数の人たちで作っている感覚があったというか。才能の……何と言うんだろう。羽ばたいていきたいけど、まだそこにいっていない存在が集まっていたんですよね。自分自身もまだまだ見知らぬ者ですし、自分でも自分のことをまだわかっていないですし(苦笑)。きっとこの先に知ることがたくさんあるからこそ、今を一生懸命生きたいなと思うんです。そういう思いを持った人たちが現場のクルーにもいましたし、見知らぬ者たちで作り上げたものが、果たしてどう知られていくのかという面白さもあるタイトルだなと思いました。

だから『若き見知らぬ者たち』は、本当にいろいろな解釈ができるタイトルなんですよね。自分もまだまだ若いので、若き見知らぬ者でもあると思いますし、年を重ねてもたぶんその心を大事に知っていかなきゃいけないなという気がしています。

内山監督:もともとは、『常に若き見知らぬ者たち』というタイトルで書き始めました。「常に・Always」がついていたんです。今が常に一番若いとき、ということを念頭に置いていたので、有名・無名であるとか、年を老いる・若いという実年齢のものでもなくて。目の前にあるものだけで精一杯で、日常を生きていくこと自体もままならなくても生産性があるのか・ないのかで判断がされるような時代の中で、それでも生きていこうとする思いや行為そのものが「若き」ではないのだろうかと思っていました。結果的には「常に」というものは想像性や余地のためにタイトルからは取りました。この考えに正解はないですからね。

ところで、お二人は普段から仲良しだそうですね……? 作品が終わってからも交流がずっと続いているということですか?

内山監督:はい、そうですね。

磯村:しょっちゅう会ったり、ごはんに行ったりしていますよね。監督ともですし、キャストのメンバーとも、終わってからも定期的に集まって、夜な夜なしゃべってごはんを食べてお酒を飲んで、みたいな感じです。

本日は終始淡々と、落ち着いたトーンでお話いただきましたが、普段はこのテンションではない感じですか?

磯村:これぐらいですよ(笑)。別に「うわー!!(騒ぐ)」みたいなことじゃないです(笑)。ただ、こんなふうに作品後に一緒に遊んだり、何人かで定期的に集まろうということが僕はこれまであまりなかったので、すごく珍しいことですね。このチームが自分の中で居心地が本当によくて、すごいびっくりしています。

非常に気の早い話なんですが、さらにいつか何かの作品でタッグを組むとか、今回の座組みで何かを考えているとか……もしも構想があれば教えていただけませんか?

内山監督:えっと……今はないですね。それも一期一会でいいかなと思っているんですよね。仲がいいからやる・やらないということはないので。でも、かといってご一緒した方で「また一緒にやりたいな」とか「また何か一緒に表現したいな」とお互いに思えることはとてもありがたいことなので、確実にまた一緒にやれたらいいなと思っています。

本日は多岐にわたってお話くださり、ありがとうございました。最後、磯村さんに。八面六臂のご活躍ですが、作品ごとに達成感を得たり、自分で自分を褒めたくなるときはありますか?

磯村:達成感みたいなものは……僕はないかもしれないです。例えば一つの作品が撮り終わったとか、みんながクランクアップしたとかだと、ちょっとひと安心して「ここまでみんなで作り上げたね」という気持ちはあったりはします。その後、公開してたくさんの人に届いて、いろいろな感想をいただいたときはもちろんうれしいですし、「こんな風に思ってくれたり、届いているんだな」という発見もあったりします。けど、じゃあそれでよし、達成した、みたいなものはないんです。

それはたぶん、この仕事だからだと思うんですよね。役者は特に、本当にゴールみたいな明確なものはないので。上映して何人お客さんを呼べたかとか、数字の目標があれば達成になるのかもしれないですけど、僕は数字だけで判断するものじゃないと思うので、やっぱり僕には達成という言葉が結びつくことはないかもしれないですね。

(取材、文:赤山恭子、写真:映美、磯村勇斗ヘアメイク:佐藤友勝、磯村勇斗スタイリスト:笠井時夢)

映画『若き見知らぬ者たち』は、2024年10月11日(金)より、全国公開予定。

出演:磯村勇斗、岸井ゆきのほか。
監督・脚本:内山拓也
公式サイト:https://youngstrangers.jp/
配給:クロック・ワークス

(c) 2024 The Young Strangers Film Partners

※2024年9月26日時点の情報です。

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