ネタバレ注意!
クエンティン・タランティーノの最新作『ヘイトフル・エイト』が2月27日に公開されました。
『レザボア・ドッグス』を彷彿とさせる密室ミステリー。最近のタランティーノらしさが見られる超大作の詳しい解説やアメリカでの評価などを紹介します。
簡単なあらすじ
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舞台は南北戦争終結後のアメリカ。元騎兵隊の黒人賞金稼ぎマーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)は、賞金首を自らの手で殺さず絞首刑に処すことにこだわりを持つことから「首吊り男」の異名を持つジョン・ルース(カート・ラッセル)が貸しきった馬車に乗ることに。二人の目的はレッドロックという街に賞金首を届け、金に変えることだった。
ルースが捕まえた賞金首ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)と南軍ゲリラの子孫クリス・マニックス(ウォルトン・ゴギンズ)を乗せた馬車は吹雪を回避するためレッドロックへ向かう道の途中にあるミニーの店へ行く。
そこに店主ミニーの姿はなく、店を預かっているというボブ(デミアン・ビチル)、絞首刑執行人のオズワルド・モブレー(ティム・ロス)、カウボーイのジョー・ゲージ(マイケル・マドセン)、そして南軍元将軍のサンディ・スミザーズ(ブルース・ダーン)がいた。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】覚えていますか?脚本流出騒動
2014年1月、「タランティーノ最新作の脚本が流出し制作が中止に」というニュースが流れました。完成してから数人にしか見せていない脚本の初稿がどこからか流出、タランティーノは激怒して製作を中止したというのです。ちなみに、最近、流出元がアルコン・エンタテイメント(『ブレードランナー』の続編を制作する会社)であることがFBIの調査で判明しました。
タランティーノは流出した初稿をボツにし、改稿を重ねて完成させた脚本を朗読会で発表しました。本作に出演したサミュエル・L・ジャクソンやティム・ロス、カート・ラッセルが参加した朗読会は絶賛を受け、これは映画にしないといけないだろうという意識がタランティーノや俳優陣の間に生じ、映画が製作されることになりました。
『ヘイトフル・エイト』と『レザボア・ドッグス』をつなぐティム・ロス
脚本流出騒動の渦中には、最初に脚本を渡された3人の俳優のうちの一人、ティム・ロスもいました。ロスといえばタランティーノのデビュー作『レザボア・ドッグス』で重要な役を演じた俳優。ファンの間では「ミスター・オレンジが裏切った!」という声もあったとか。
本作でロスが演じるのは絞首刑執行人の英国紳士モブレーです。『ジャンゴ 繋がれざる者』のドクター・キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)に似たキャラクターで、どこか信用出来ない雰囲気があります。クリストフ・ヴァルツといえば、近年のタランティーノ映画には欠かせない存在。タランティーノがヴァルツを外してまで『パルプ・フィクション』以来21年ぶりにティム・ロスを起用したかった理由とは?映画を観た方ならわかるでしょう。
西部劇『ジャンゴ 繋がれざる者』との違い
『ジャンゴ 繋がれざる者』と本作には共通する原点があります。マカロニ・ウエスタン。60〜70年代のイタリアで多く製作された西部劇です。タランティーノは両作をマカロニ・ウエスタンを意識して制作しました。音楽を担当したエンニオ・モリコーネはマカロニ・ウエスタンを象徴する音楽家として知られています。
主人公が黒人という点も共通していますが、設定は大きく異なります。本作の主人公は北軍の元騎兵隊。ジャンゴは奴隷です。奴隷そのものを描いた『ジャンゴ』との設定の違いは、本作の舞台が南北戦争後のアメリカであるという設定に如実に現れています。つまり、本作は現代社会のアイロニーなのです。
黒人に人権が与えられてから50年も経つのに未だに黒人差別は残っているし、国内でいくつもの対立がある、という現代アメリカの問題点を8人のいがみ合う登場人物に重ね合わせたのでしょう。
ちなみに、本作の脚本はもともと『ジャンゴ』の続編を書くつもりで書かれていたんだそうです。
『エクソシスト』とも共通点があった?
ホラー映画の金字塔『エクソシスト』と本作がどう結びつくのか疑問に思われる方が多いでしょう。
町山智浩氏の『映画その他ムダ話』によれば、1万ドルの賞金首・ドメルグを演じるジェニファー・ジェイソン・リーは『エクソシスト』のリーガン・マクニールを意識しながら演技をしていたというのです。
確かに、ドメルグは顔に大量の血を浴びたりギャーギャー悲鳴を上げたり、悪魔に取り憑かれたリーガンとよく似ています。
ドメルグのキャラクター性や中盤以降の展開からホラー映画だと評する人も多いそうです。
また、本作では『エクソシスト2』の「リーガンのテーマ」も使用されています。タランティーノはこの音楽が大好きで、いつか使ってみたかったんだとか。相変わらず映画愛に溢れる男ですね。
鑑賞中、心の何処かで意識してしまうある映画
舞台が猛吹雪の雪山であり、カート・ラッセルが出演する、この2点から連想されるのはジョン・カーペンター監督作『遊星からの物体X』です。吹雪の中、O・Bがトイレへ向かうシーンを見てピンと来た人が多いのでは?このシーンの構図は『遊星からの物体X』からの引用だと思われます。
密室で正体の見えない敵を探す物語で、誰も信用することができない、という設定も本作と共通しています。どうやらタランティーノはマカロニ・ウエスタンを意識しながらも70年代に流行したホラー映画を参考にしていたようですね。これらをつなぐ存在が『物体X』の音楽を担当していたエンリオ・モリコーネです。
エンニオ・モリコーネ御大の偉大な仕事
マカロニ・ウエスタンを代表する音楽家であるエンニオ・モリコーネとどうしても一緒に仕事がしたかったと語るタランティーノ。実は『ジャンゴ』製作中にモリコーネにオファーを出したそうなのですが、モリコーネのスケジュールの都合で断念していたそうです。本作でようやく音楽を担当してもらえることになりました。
モリコーネは御年87歳。いつ音楽家を引退してもおかしくない年齢です。年をとるといい作品を作ることが難しくなると思われがち。黒澤明だって晩年の映画は評価が分かれます。
しかし、モリコーネの本作での仕事は見事です。男性のコーラスや物悲しい曲調はマカロニ・ウエスタンそのもの。ジャンルと映画をつなげる象徴的な人物・音楽を起用することで知られるタランティーノらしさがここにも見られました。
アメリカではどう評価されているのか
アメリカの大手レビューサイト「Rotten Tomatoes」での支持率は本稿執筆時点で75%。「そこそこ」ですね。ちなみに、『ジャンゴ』は88%、『イングロリアス・バスターズ』は89%です。
Amazon.comが運営する『IMDb』では8.0/10の高評価が付けられています。こちらでは『ジャンゴ』が8.5、『イングロリアス・バスターズ』が8.3のスコア。
まとめると、「『ジャンゴ』と『イングロリアス・バスターズ』には劣るが、面白いことに違いはない」といった感じでしょうか。
近年のタランティーノらしさと『レザボア・ドッグス』の要素を融合させた『ヘイトフル・エイト』。映画館の大画面・大音量で観ると、寒さとサスペンスの面白さで背筋が凍るかも。
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