松田龍平とデスメタルと瀬戸内海!奇跡のコラボ『モヒカン故郷に帰る』の魅力

映画と本とコーヒーと。

藤ノゾミ

ゆるやかな日常にくすりと笑えるユーモアを散りばめた、独自の世界観を持つ沖田修一監督オリジナル脚本による最新作『モヒカン故郷に帰る』が4月9日、全国公開されます!

今回、沖田監督が描くのは、売れないバンドマンのダメ息子と末期がんの発覚した頑固親父の物語。主演の松田龍平は人生で初めてモヒカン頭に挑戦し、熱狂的な矢沢永吉ファンの父親役には名優・柄本明。さらに、熱狂的なカープファンの母親にもたいまさこが扮し、恋人役の前田敦子は妊婦姿に!

舞台は瀬戸内。のどかな島で、果たしてどんなどたばたホームドラマが繰り広げられるのか?製作秘話を盛り込みつつ、『モヒカン』の魅力をたっぷり紹介します!

モヒカン故郷に帰る

(C)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

デス声で始まるホームドラマ

沖田監督と言えば、おばちゃんたちが山で迷子になる『滝を見にいく』や、ダメ監督が木こりのおじさんに助けられて映画を撮る『キツツキと雨』など、脱力系のゆるい感じが特徴的。ですが、『モヒカン』はいきなり「うあ゛あ゛ぁぁあ」と鳴り響くデス声で物語がスタートします。

松田龍平扮する主人公・永吉はデスメタルバンド「断末魔」のボーカルで、映画の冒頭はライブシーンなのです。練習を重ねた松田本人のデス声と、観客役の本物のデスメタルファンの熱狂する姿は「いつもの沖田作品とは何かが違う…!」と期待させてくれます。

あらすじ

緑のモヒカン頭がトレードマークの田村永吉、30才。恋人・由佳の妊娠をきっかけに、7年ぶりに故郷の戸鼻島(とびじま)に帰ってきた。職なし家なし貯金なし、だらしなさ全開の永吉に腹を立てる父・治だが、孫の誕生はやっぱり嬉しい。

ところが、島をあげての大宴会の夜、治は倒れて緊急入院してしまう。なんと治は末期の肺がんで、余命あとわずかだった。永吉はなんとか親孝行しようとするが、空回りしてばかり……。

(C)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

四つの島でオールロケ!100歳のご長寿エキストラも

戸鼻島は架空の島ですが、撮影は実際に広島の四つの島で行なわれました。山の斜面にミカン畑が広がり、その向こうの海にまた島が見える瀬戸内の風景は情緒たっぷりです。

また、景色だけでなく、島の人たちも総出でエキストラ出演!担当の助監督が撮影の1ヶ月前から島に滞在して交流を深めた成果で、そのキャスティング力は沖田監督が「玉澤プロダクション」と呼んで舌を巻いたほど(助監督の名前が玉澤さん)。

なかでもイチ押しの“女優”は前田敦子を診察する産婆さんを演じたおばあちゃんで、脚本を変更してクライマックスの病院での結婚式シーンにも登場することになりました。このシーンでは、100歳のおじいちゃんもベッドの上で「患者役」を熱演しています。

瀬戸内海

出典:https://www.pakutaso.com

島の中学生が吹奏楽で「アイ・ラヴ・ユー,OK」

ファーストシーンのデス声をはじめ、多彩な音楽も『モヒカン』の魅力の一つ。永吉の名前からも明らかなように、父・治は「永ちゃん」の大ファンで、部屋も自営の酒屋の店内も車の中も、矢沢グッズでいっぱいです。

そんな治が指導する中学の吹奏楽部が演奏するのは「アイ・ラヴ・ユー,OK」部員たちはほとんどが地元の中学生で、演技経験はゼロでしたが、撮影が進むにつれて「お母さんがやれって言うから……」と下を向いていた子たちが俳優の顔に。

ベテラン柄本明を前に、「矢沢は広島県民の義務教育です」と言われてふてくされる姿には図太ささえ感じます。7台のカメラを使った音楽室のシーンは必見。

また、細野晴臣が書き下ろしたエンディング曲「MOHICAN」も必聴です!

モヒカンは口ほどに物を言う?永吉の心を表す髪に注目

東京では天を衝く勢いで立っていたモヒカンは、島の生活に慣れるにつれてふにゃりと垂れ、まるで永吉のリラックスした気持ちを表すよう。もちろんヘアメイクも演出の一環です。

映画の後半、永吉は車いすに治を乗せて家族で海にピクニックに出かけます。初夏の風に垂れたモヒカンがそよぎ、大きなお腹になった由佳は波打ち際ではしゃぎます。

ホッとする光景ですが、病が進行した治にはもう由佳が永吉の恋人だとわかりません。傍らにいる永吉を中学生だと思い込み、「お前、東京行けや。東京行って、ビッグになって帰ってこいや。そしたら宴会開いてやるけぇ」と語りかけます。ビッグにならずダメ息子で帰ってきても、治は盛大な宴会を開いてくれました。

「うん、ビッグになって帰ってくるわ……」答える永吉の背中は小刻みに揺れています。

手づくりの結婚式でデス声のお別れ

治がぽつりと漏らした「ピザ食べたい」という一言で十数箱のピザを注文してしまったり、親孝行に失敗続きの永吉ですが、きちんと結婚した姿を見せて治を安心させようと、病院で手作りの結婚式を開きます。

もちろんモヒカンはこれまででいちばん気合を入れ、ウェディングドレスの由佳と誓いのキス。ところが、ベッドに横たわって見守っていた治がデス声でうなり始めて……突然、やってくる最期の時。沖田監督は治の旅立ちをまさかのデスメタルで送ります

誰しも親との別れは避けられないもの。しかし、デス声の絶叫が鳴り響く中、みんなに運ばれて疾走していく治のストレッチャーを見ていると、思わず笑いがこみ上げてきます。ツライけれど、涙でサヨナラじゃなく、笑って「今までありがとう」。そんな思いが込められた“別れ”のシーンに感じました。

3月26日、広島先行公開!全国は4月9日公開!

デス声に始まり、デス声に終わる『モヒカン故郷に帰る』。おかしくて、ちょっと切なくて、心温まる2時間は、沖田ワールドの真骨頂です。見終わった後はきっと誰か大切な人と話したくなるはず。遠い故郷の両親に久しぶりに電話してみるのもいいかもしれません。

『モヒカン故郷に帰る』はロケ地・広島で3月26日に先行公開され、4月9日から全国の劇場に拡大されます!

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  • むん
    3.9
    ロック
  • ポロポロ
    -
    「ビッグになって帰ってくるから」 「働け〜〜〜!」 柄本明の弱っていく姿がリアル過ぎてくるものがあるよね
  • 米沢ライス
    4.5
    全キャラ好き ピザの所がかなり好き
  • たねお
    -
    沖田監督の作品は登場人物がとてもいい。 いわゆるリアルっていうところからは少し離れてて、割とポップでキャラクター性は強いように思う。 けど、「じゃあこの人はどんなキャラクターですか?」って聞かれると、一言では到底答えられない多面性が存在しているから、凄く人間味を感じられる。 その理由として一つ考えられるのが、沖田監督の作品には、登場人物の心理を描写するようなシーンがほとんどないことが挙げられると思う。 1人で過ごすシーンを映して、本当はどんなことを考え、何を感じているのか、を描写することは滅多にしないように感じる。 そのキャラクターがどんな人物なのかは、全て対他者の様子で描かれる。特に会話。他の人物との会話を通して、その人間を淡々と描くイメージ。 だから、キャラクター性が強くても、一言では言い表せない人間味のあるキャラクターになってるんだと思う。 だから、臭くないんだと思う。
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モヒカン故郷に帰る
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