『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』ホロコーストに関わる4人の男とは?

シネマは身体の一部です。

イトウタクマ

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出典:https://en.wikipedia.org/wiki/The_Holocaust

第二次大戦、ドイツ・ナチスはユダヤ人を標的として圧倒的な迫害を行いました。ナチスのひとりの男、アドルフ・アイヒマンは何を思いナチスに入り、何を考えホロコーストを指揮したのでしょうか?

アイヒマンの裁判を中継し、ユダヤ人大量虐殺の真実を全世界に伝えようと奔走したテレビマンの実話を元に作られた本作『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』と、ホロコーストをテーマとした映画から4人の人物を取り上げ、決して忘れてはいけないホロコーストの側面を学びましょう。

ヒトラー 〜最期の12日間〜

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まず説明せねばならない最重要人物が、アドルフ・ヒトラーです。素性は知らないけど世界史の教科書等で見たことがある方はたくさんいると思います。ナチスの総統を務め、反ユダヤを掲げドイツを率いた独裁者です。

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出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Adolf_Hitler

アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler 1889~1945)は、オーストリア=ハンガリー帝国に生まれました。母クララとの仲は良好だったようですが、父権主義を振るう父アロイスとは生涯不仲であったようです。子どもの頃から勉強嫌いで規律に縛られるのを嫌がった彼は、10代の頃から画家を目指します。

18才になったヒトラーは、芸術の都ウィーンで美術アカデミーに通いたいがために何度も受験しますが、あえなく失敗。自身の望みが叶わない憤りは、徐々に反ユダヤの憎悪に火を灯し出します。

第一次大戦での活躍による受勲、軍人から政治家へ転身後、1933年ドイツ首相となります。彼の力強く鮮やかな弁舌はドイツ国民の心を掴むほどの影響力・説得力があったと言われています。

そして彼が若い頃から抱いていた反ユダヤ主義は、白人絶対主義の偏った思想や独裁主義と結束。ナチズムという形に転じ、結果として世紀の大迫害であるホロコースト(=ユダヤ人の大虐殺)を生み出します。

ヒトラーを描いた映画はたくさんあります。大概の作品では敵役・悪役として描かれることが多いですが、今回紹介する『ヒトラー 〜最期の12日間〜』では、独裁者という衣を脱いだ、ヒトラーの人間的側面にフォーカスを当てています。

ドイツの国民的俳優、ブルーノ・ガンツが重厚なヒトラーを演じ話題になりました。いまだにドイツ国内ではナチスの描かれ方には厳しい規制が付きまとっていますが、監督のオリバー・ヒルシュビーゲルは「若い世代に本当の歴史的事実を知ってほしい」という想いを胸に本作を作り上げました。

世間的評価におけるただの悪人として認識するのでなく、戦争という時代が何故ヒトラーという怪物”を産んでしまったのか。戦争における俯瞰的視点を持つことのできる傑作のひとつです。

『コルチャック先生』

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一般的な知名度は低いと思われますが、ホロコーストにおいて大切なひとりです。彼はホロコーストの被害にあったユダヤ人、とりわけ子どもたちを助けようとした偉人です。

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出典:https://cs.wikipedia.org/wiki/Janusz_Korczak

ヤヌシュ・コルチャック(Janusz Korczak 1878~1942)は、ポーランド出身の児童書作家であり、小児科医でした。

彼は作家として数々の作品を発表し、その収益を孤児や医者にかかれない人々の支援金に当てていました。その活動が高く評価され、1911年、ユダヤ人のために新設された孤児院「ドム・シエロ(孤児たちの家)」の院長を任されます。

第二次大戦が始まり、ドム・シエロのコルチャックと子どもたちにもゲットーへの移動命令が下ります。ゲットーとは、ユダヤ人の強制居住区のことで、狭い地域で人口が密集したゲットーでは、食料難や病気の蔓延で、生死をさまよう苦しい生活を強いられたとされています。

その後、彼のみが恩赦を受けられることになったのですが孤児院の子どもたちを見捨てることを拒否し、共にトレブリンカ強制収容所へ送られ、ガス室で子どもたちと共にその生涯を終えました。

ポーランドの巨匠、アンジェイ・ワイダによる本作では、ゲットーでの生活やコルチャック先生の子どもたちへの想いなどがこと細やかに描写されています。日本でも劇団ひまわりが数年おきに国内中で舞台上演しており、彼のメッセージを伝え続けています。

彼は、子どもの3つの権利として「子どもの死についての権利」、「子どもの今日という日についての権利」「子どものあるがままである権利」を掲げており、それぞれその人格を尊重すべきであるという意志は、戦後現代の平和を保つべき私たちの指針にも成りえているのではないでしょうか。

『シンドラーのリスト』

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第66回アカデミー賞において12部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、編集賞、美術賞、作曲賞の、計7部門を受賞した本作。それまで娯楽大作の監督というイメージの強かったスティーブン・スピルバーグが創り上げた社会派の傑作です。

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出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Oskar_Schindler

オスカー・シンドラー(Oskar Schindler 1908~1974)、オーストリア領メーレン出身、ドイツ人の実業家です。生まれ育ったメーレン地方はチェコ占領下でしたが、彼の血筋がオーストリア系ドイツ民族であるためドイツに愛着を感じており、青年期にナチスへ入党することを決めます。

1939年、彼は元々ユダヤ人が所有していた小さなホーロー工場を買い取ります。そこでは秘密裡にドイツ軍の厨房用品等を製造し、ナチスへの協力を図っていましたが、そこで稼いだ資金を使い、ユダヤ人を救うための活動を始めます。

彼の所有していた工場が軍需工場としての特別待遇を受けていたため、生産ラインが止まることはナチスの成長をさまたげることを意味していました。そのため強制収容所へ送られそうになるユダヤ人を工場の労働者として雇い、結果として多くの命を救うことができたのです。

本作のシンドラーは、いまや”戦うお父さん”の代名詞がピッタリなリーアム・ニーソンが演じています。社交的で華やかな面もありつつ、ナチスへの強硬な態度を見せる、頼れる重厚なリーダーとしての立ち居振る舞いが見どころです。

本作のタイトル『シンドラーのリスト』とは、彼が救おうとしたユダヤ人労働者たちの名簿のことです。彼は実業家としての外交能力、資金面すべてをユダヤ人救済に注ぎ込みました。コルチャック先生同様、ホロコーストの実態に悠然と立ち向かった偉人のひとりです。

アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち

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(C)Feelgood Films 2014 Ltd.

そして最後に、本作『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』で取り上げられているアドルフ・アイヒマンをご紹介します。彼は一体どのような人物なのでしょうか?

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出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Adolf_Eichmann

アドルフ・アイヒマン(Adolf Otto Eichmann 1906~1962)、ドイツ出身のナチス中佐で、ホロコーストにおけるユダヤ人移送の指揮官的役割を担いました。ドイツで生まれましたが、幼少期に父親の仕事の都合でオーストリアへ移住、その時の暮らしぶりが後の彼の人格形成に影響を与えたと思われます。

当時のオーストリアではユダヤ人が多く居住しているウィーンを中心として、反ユダヤ主義の色が蔓延していました。彼は自身の硬い表情から「ユダヤ人みたいだ」と馬鹿にされていたようで、子ども社会の中でもユダヤ人を虐げる環境が自然に存在していたようです。

26才になりナチスに入党、その後ヨーロッパ諸国での戦争やユダヤ人追放をはじめ、ホロコーストへ全面的に参加しました。その後、第二次大戦にてドイツは敗戦、1960年にアルゼンチンで拘束されるまでナチスに一身を捧げました。

その翌年、かの有名な「アイヒマン裁判」が行われるのですが、本作ではその裁判の様子を全世界にテレビ放映しようと奮闘するテレビマンと裁かれるアイヒマンをスリリングに描いています。

アウシュビッツの実情とは。ホロコーストの真実とは。ナチスの戦犯は防弾ガラス越しに何を語るのか。2012年公開の傑作『アンコール!!』で感動を呼んだ監督、ポール・アンドリュー・ウィリアムズによる手堅い演出でリアルな歴史の一幕が描かれています。

人を知り、映画を観ることで、今まで知らなかった歴史の一面に興味を持つこともあると思います。アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』は2016年4月23日全国にて公開です。ぜひ劇場に足を運んで頂き、記憶に留めて欲しい一作です。

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  • 3.8
    アイヒマンは怪物なのか、私達と同じ人間なのか。 証人の話や実際の収容所の映像を見せれば、何か反応を示すはずとアイヒマンを撮り続ける監督のレオ。 私もアイヒマンが少しでも動揺する姿を見たくて、レオと同じくとても焦れた。 悲惨な証言や映像を見てアイヒマンが人間的な反応を見せることで、怪物なんかじゃなく、その時同じ立場なら誰しもアイヒマンになり得た事を、これからも同じ事を繰り返す恐れがある事を教訓として見せたかったんだと思う。 それにしても実際の収容所の映像は堪らなかった。
  • マルメニ
    3.5
    撮影に至るまでどのような交渉があったのか、カメラをどう設置し、何を撮ろうとし、裏でどう切り替えて放送していったのか、 世紀の裁判を撮る人たちの裏側を映した映画。 実際にその時撮った映像が作中で流れ、臨場感があった。 アイヒマンの、手を顔に添えて斜めに見ながら証言者の話を聞いてる顔を見てると、撮影スタッフの焦れる感じが分かる…。 ずっとこの顔、何を考えてる?こんな凄惨な証言を聞いて、もっと何か出てくるものはないのか?と思ってしまう。
  • Elie
    -
    #アンネ・フランクというEテレの番組を見て、まだこの映画の感想をツイッターにしか投げていなかったなと思い出してサルベージしてきました。 打ちのめされました。見たことのない記録映像も、知識でしか持っていなかった実態のことも、本当の映像で見聞きすることの重さたるや。そこにこの仕事をするプロフェッショナルたちの妥協のなさが加わって、とても鋭くて、静かで、お腹に巨きな文鎮をどすんと置かれたような衝撃がありました。 真実を「語っていいんだ」と生存者が思ったというのを、意外な思いで聞いた自分に少し驚きました。なんで意外と思ったのか、驚いたかわからないけど。歴史に刻みつけられた真実をこういう形で世に知らしめた人たちがいたんだなぁ……アンネの日記帳の表紙の後ろに「優しくあれ、そして勇気を持て」と書いてあったようです。きっと一種の勇気が、こういう真実を伝えようとする熱意を作品にしたのかも。 あのときを絶望しながら死ぬのを待っていた人、立ち上がれると気づいて歩き続けた人、生存した人たちを本当に生かそうとした人たち。知れてよかったけど、スクリーンで見ておきたかった作品でした。 映像的には、生で起こることを相手に、効果的なカメラの切り替えを指示するって技術がすごいなと思いました。 あと、主演のおふたりの、鎮まった中に確固たる響きのある話し方がすごく印象に残っています。この人たちの乗り越えたもの(乗り切っただけで越えてはいない可能性もあるかなぁ……)も計り知れない。あの場所、あの国、みんなが口にするのも躊躇うような体験を封じ込めて歩いていた人が、隣近所にいたんだ。。ということ。 このことには異世界のような異次元のような信じ難さがどうしても付き纏ってしまうけれど、恐ろしいこの真実と向き合って、知ることや伝えることをやめてはいけません。絶対に。そしてこの歴史が何を生んだかを考えて、繰り返すのはどれだけあかんことかをわからなくちゃ。 同じ歴史を扱った作品では「戦場のピアニスト」もおすすめ。見たのは何年も前ですが、いまだに鮮明に覚えているかなりショッキングな場面もあります。でもアンネが人間の中に信じ続けていた善の部分に希望が見える物語でもあると思います。
  • 勝沼悠
    2.6
     アイヒマンの裁判を中継したテレビマン達の実話を描く。  実話系の重たい映画なのだが、裁判そのものではなく裁判の中継をしたテレビマンに焦点を当てた理由が弱いように感じた。  今から見ると歴史的な裁判だったが、月面着陸とキューバ危機で視聴率が取れそうになく忘れられそうだったというのは興味深かった。  あと、アイヒマンは怪物であったか凡人であったかは大事なとこだったと思うんだけど、この映画でどっちという結論を出してないように見えた。怪物の本性を見たいというテレビ的なあせりも興味深かった。
  • kaz
    3.4
    先に『ハンナ・アーレント』を観ていたので、割とフラットな感じで臨めたのは良かったけど、テレビマンたちの視点なので少し物足りなく感じてしまった…😓 でも実際の映像を織り交ぜていたのは良かったと思う。
アイヒマン・ショー/歴史を写した男たち
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