私たちは何者なのか? 悩める若者たちの背中を押してくれる三浦大輔監督と『何者』

すべては魔法にかけられて

玉澤千歩

10月15日(土)より公開された映画『何者』。公開されるやいなや「就活したくない!」「就活した頃を思い出した」と兎にも角にも“就活”という話題を独り占めした本作。

実は就職活動だけがテーマの映画ではありません! 表現することについて語られた映画だったのです。それを読み解くためにも今回は三浦大輔監督にフォーカスを当てて紹介したいと思います。

Who is 三浦大輔?

まず三浦大輔監督について。1975年生まれの北海道苫小牧市出身。映画監督以外に劇団「ポツドール」の主宰で劇作家、演出家をしています。実は『何者』原作者朝井リョウさんと同じ早稲田大学出身です!

現代の若者の生態、過激な描写を容赦なく描く作風が特徴の三浦大輔監督。監督の作風が顕著に表れているのが、岸田國士戯曲賞を受賞した『愛の渦』ではないでしょうか?

愛の渦

(C)2014映画「愛の渦」製作委員会

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本作はお金を払って高級マンションの一室にある”裏風俗店”で、午前0~5時に開かれる乱交パーティを繰り広げる男女たちのお話です。

バスタオル一枚での生々しい会話と性描写によって性欲とは切り離せない“感情”を巧みに表現しています。どうしても私たちはお話にある種の救いやハッピーエンドを期待してしまいますが、本作はその期待を見事に裏切ります。まるで現実には奇跡も魔法もないんだぞと語りかけてくるようです。

さて、そんな三浦監督の作品ですが若者の本音を赤裸々に描く朝井リョウさんとどのような化学反応が起こるのでしょうか?

“就活ホラー”『何者』

就活中の男女五人が就活対策のために協力し合い内定を決めようと情報を交換しあったり慰めあったり奮闘します。

最初は仲の良い五人ですが、一人また一人と内定を決めるごとに、SNS上や面接の発言から見え隠れする本音が、それぞれの関係を変えていってしまうお話です。まさに“就活ホラー”と呼んでもいいでしょう。

このあらすじを読んで「やっぱり就活がメインじゃん!」と思うのですが、注目して注目していただきたいのは佐藤健演じる二宮拓人の存在です。

中途半端な存在の拓人は表現者のたまごだった!?

何者 佐藤

拓人は就活以前に学生演劇をしていました。

過去には親友とずっとお芝居を続けていこうと語り合ったこともありましたが、最終的にはそれを諦め就活を始めます。脚本を書いていたこともあって、周りを冷静に分析して状況を把握する能力に長けているせいか、周りのことを見下しているように見える一面も。でも本当は自分に自信がないし、どうなりたいかよくわかっていません。

人はなぜ就職活動をするのでしょうか? おそらく大半の人は今後の生活のため。でも本当にそこで働きたいと思っていますか? 正直、二十歳そこそこで将来どうしたいかなんて簡単に決められるわけないと思います。

そして何より特別な存在でいたい。

そんな思いがあるからか、自分だけは他の奴らとは違うという歪んだ自意識を持って拓人はTwitterの裏アカウントに周りの悪口を書き込んでしまう始末。非常に痛々しいです。

三浦監督が突きつけてくる現実

このあたりの描写を三浦大輔監督は緩やかに丁寧に表現しています。

好きなものに対して素直になれない状況ってありませんか? 現実との兼ね合いで辞めてしまったり、続ける選択肢を外してしまったり……おそらく、大体の人がその選択肢を迫られ受け入れることと思います。その折り合いをつけられた人が就活または自分のやりたいことを成し遂げることができるはずです。

それが上手くできない拓人は就活も上手くいかないし、演劇からも逃げて一人苦しみ追い詰められます。本当は演劇が好きなのに。恥ずかしいからやらない、食べていけないからやらないという選択肢を取ってしまいます。しかし逃げても最終的にその演劇という存在は自分について回ります。

就職をするか、演劇をするか。はたまたちゃんと折り合いをつけるのか。

学生演劇をしている人または漫画や絵を描いている人など、何かを表現したいと思っている人は一度は悩んだことがあるのではないでしょうか?

目を背けたくなることですが、三浦大輔監督は拓人を通して“表現者のたまご”に中途半端なことは許さないぞと現実を突きつけてくるのです。

“何者”にもなれないものへの救いの言葉とは

何者 有村

どんどん窮地に陥る拓人ですが救いもあります。

それは有村架純演じる瑞月というキャラクターの存在です。まるで天使のようで、終盤、拓人に向かってある台詞を吐きます。その破壊力は凄まじく、表現をすることが好きな人、仕事にしている人は救われる言葉だと思います。きっと誰もが言われたい言葉です。その言葉のおかげで拓人はほんの少し前向きに希望を持って変われたのではないでしょうか。自分のやることに責任を持つ覚悟を。

監督自身も映画の「出口」を見つけるために自身を投影したそうで、何が自分を救ってくれるか考えた結果生まれたシーンです。ぜひスクリーンで確かめてください。

私たちは“何者”なのか

何者 走る

結局のところ、自分がどうなりたいか見極めることが大事なのではないでしょうか。不恰好でも不器用でも自分のやりたいようにやる。難しいことですが、それが自分を肯定する秘訣だと思います。

拓人はその意味を考え、自分を肯定したところで映画はエンディングを迎えます。その結末の後を想像し、涙が溢れて止まらなくなる方もいらっしゃるでしょう。決して目に見えた明るいハッピーエンドを迎えるわけではない『何者』。しかし、三浦監督は厳しくも優しく拓人、そして生き様について悩む者たちの背中を押してくれます。

もし自分がどうなりたいか迷っているのなら、ぜひ劇場に足を運んでみてください。きっと自分以外の“何者”になれるはずです。

(C)2016映画「何者」製作委員会 (C)2012 朝井リョウ/新潮社

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※2022年8月22日時点のVOD配信情報です。

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    就活したことないけど大変なんだなあ
  • 横谷くんの映画andドラマ日記
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    この作品は原作が小説をうまく活かしてた。 小説だから直木賞を取れるほどのレベルだったと思う。 映画にしてしまうと小説の斬新さが少し欠けてしまったかな。
何者
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