10月28日(金)より、スラッシャー映画の名作『アリス・スウィート・アリス』(1976年製作)のレンタルが開始となりました!
40年前の古い作品ですが、筆者にとってはFilmarksのベストムービー欄に不動の一位として君臨しているほど大好きな作品。
この作品においてはとにかくなにがなんでも語らせてくれ! という飛ぶ鳥を落とす勢いで本作の小ネタや魅力をたっぷりとお伝えします。
『アリス・スウィート・アリス』あらすじ
12歳の少女アリスは学校や家庭で問題行動ばかり起こしているが、その背景には母親がかわいらしい妹のカレンばかりを溺愛し、自身には目もくれないという家庭環境の中に置かれているからである。
両親は既に離婚しており、愛に満たされないアリスは屈折した感情を日に日に募らせるばかりで、妹をいじめたり大人には反抗的な態度をとり続ける。
そしてカレンの聖体拝領の日。カレンが教会内で何者かに絞殺され、さらに遺体を燃やされるという残忍な事件が起きてしまう。
この事件以降、アリスたちが通う学校指定の黄色いレインコートにプラスチックのマスクを被った謎の人物がアリスの家族たちを襲い始めるが、妹殺しを含め、真っ先に疑いを向けられたのは他ならぬアリスであった・・・。
円盤化はつい最近のこと
本作が国内初DVD化されたのは、2015年5月22日とつい最近のこと。
それまで、この映画を観る手段は廃盤となりプレミア価格になったVHSを手に入れるということのみでした。しかしこのVHSも、もともと生産本数が少ないのかほとんど見かけず、おまけに酷い日本語字幕が付いた海賊版(と思われる)VHSが出回るという始末で、幻の映画とまで呼ばれていたのでした。
DVDとして発売されたこと自体が奇跡とも思える作品なのに、今回はさらにレンタルまで開始され、世の中捨てたものじゃないなあと思う次第です。
ブルック・シールズの映画デビュー作という付加価値
日本では劇場未公開で後にVHSが発売されただけの『アリス・スウィート・アリス』ですが、オリジナルタイトルは『Communion』(聖体拝領の意)で、公開当初はさほど話題にならなかったそうです。
しかし、出演者の1人であるブルック・シールズがルイ・マルの『プリティ・ベビー』(1978年)に出演しロリータ女優として人気になると、それにあやかりタイトルを『Alice Sweet Alice』、『Holy Terror』と変え、ブルック・シールズの映画デビュー作という宣伝を付けて再度劇場公開されることに。するとこれがたちまち大ヒット!
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ブルック・シールズが出演していなかったら、きっとこの作品は永久に埋もれていたかもしれない・・・と思うと正直ゾッとします。と、ここまで書いておきながら、彼女の役はアリスの妹、カレンなので真っ先に退場してしまうのですが・・・。
N・ローグらの作品をモチーフに
監督のアルフレッド・ソウルはヒッチコックの作品群に加え、ニコラス・ローグの『赤い影』(1973年)やマーヴィン・ルロイの『悪い種子』(1956年)、そして詩人にして映画監督でもあったジャン・コクトーの小説を映画化した『恐るべき子供たち』(1950年)などに影響され本作を作り上げました。
プラスチックのマスク、黄色いレインコート、白い靴と白いタイツ、そして研ぎ澄まされた大振りの包丁…。
本作に出てくる黄色いレインコートをまとった殺人鬼は小柄なので、どう考えても中は女性か子供だな・・・と想像することはたやすいのですが、これらの小道具が小さな殺人鬼の狂暴性と異常性を剥き出しにさせ、なんとも言えない不安感を与えています。
マスクのデザインも青いアイシャドウに真っ赤な口紅をべたっと塗りつけた、どこかいかがわしさを感じさせるデザインとなっており、かなり衝撃的。マスクによって殺人鬼の表情が見えないということも、恐怖を煽る要素のひとつになっているのです。ちなみにこのフェイスマスクは1950年代に大量生産され、ディスカウントストアなどで売られていたハロウィン用のおもちゃだったとのこと。
演出面においてはテラー(ホラーの定義とは逆で身近に起こり得る恐怖、現実的な恐怖を指す)を追究したものになっており、カトリックという宗教的な問題を絡ませながら、サスペンスとテラーの要素が絶妙に混じり合い、その効果によって最後まで緊張感が持続しているという非常に完成度の高い作品です。
また物語の舞台となったニュージャージー州パターソンはソウル監督の故郷だそうで、地域ぐるみで撮影に協力してくれたそう。低予算の自主映画ながら素晴らしいロケーションの数々や陰鬱な雨ばかりのシーンが、また印象に残る作品でもあります。
12歳の役柄を19歳が演じる
常に情緒不安定な12歳の少女アリスを演じたポーラ・シェパードは撮影当時なんと19歳。現場では煙草を吹かしていたというエピソードはファンの間ではおなじみですが、本当に19歳? と思わず疑ってしまうほど彼女は幼い。
といっても演技そのものはリアルで、さすがは19歳といったところでしょうか。アリスのふてぶてしさや感情を持て余したような表現の仕方、仕草などはこういう子いるよなあ・・・と感心してしまうほど上手いのですが、彼女はその後『リキッド・スカイ』(1983年)という映画に出演して以降、映画界からは消息を絶っているようで残念です。
もともとはダンサー志望だったらしいので、もしかするとそちらの道に進んだのかもしれません。
スラッシャー映画×刃物
スラッシャー映画とは殺人鬼が刃物を片手に人間を惨殺していくホラー映画のジャンルのひとつで、スラッシャーのもとになっているスラッシュ(slash)という言葉にはナイフや剃刀などで切りつける、切り裂く、めった切りにするなどの意味があります。
刃物と聞くと、以前、こちらの記事にて紹介した漫画家、吉野朔実先生(残念ながら吉野先生は2016年4月20日に死去されました)が書かれたシネマガイドの一文がどうしても忘れられません。
私は、映画に刃物が出てきたとき、それが本当に切れそうに見えるかというのを、映画のリアリティーという意味でも重要視しているんですが…
映画のリアリティーという意味では本作で出てくる大振りの包丁の切れ味は異常なほど。特にアリスの伯母アニーがアパートの階段で殺人鬼に襲われるシーンでは、足の甲にこの包丁がサクッ・・と軽快に突き刺さるのですが、これがもう観ていて痛い! 思わず目を覆いたくなってしまうほどに・・・。
スラッシャー映画にチープで切れ味の悪い刃物は必要ありません。鋭く、切れ味抜群の刃物こそがスラッシャー映画の恐怖の源であり、第2の主役なのです。
そうして少女は闇の中で覚醒する・・・
アリスの歪んだ感情の矛先はどこへ向かうのか? 誰に注がれるのか?
今なお色褪せることのない、完成された恐怖は一度観てしまうと心を捕らえて離さない。そして狂気の伝染、悲劇の連鎖が確実に受け継がれていく戦慄のラストには、誰しもが茫然としてしまうことでしょう。
ありがたいことに初レンタルの運びとなった今回。これを機に1人でも多くの方に観てもらいたい作品です。
※2020年12月30日時点のVOD配信情報です。