素敵なダイナマイトスキャンダル』の主人公・末井昭の生きざまを見れば、「なんと数奇な人生……!」と漏らしてしまうことだろう。隣に住んでいるうら若き男と不倫した果てに、ダイナマイトで心中してしまった母親を持つ末井が、苦々しく田舎を飛び出し、東京で一旗揚げる。その才能は、爆発的に売れたエロ雑誌の編集者として花開き、一時代を築くものの、過激な内容にほどなく発禁処分となる。このストーリーは、実在する末井本人によるエッセイの映画化であり、つまり、ほぼ実話ということに、まったくもって衝撃が走る。
とぼとぼと自信のない18歳から、朽ち果てる気がしない40歳まで、バラエティ豊かな末井の人生を体現したのが、柄本佑。様々な人に出会い、影響を受け、登り詰めていくエネルギッシュなさまを、スクリーンの中で情熱的に躍動し、覚醒した。そんな末井の精神的なよりどころとなったのが、峯田和伸が演じた近松だ。近年、役者としても二つと無い存在感で、オファーが相次いでいる人気者の峯田が、本作で見せた表情もまた味わい深い。作品の持つ熱量さながら、柄本と峯田に、がんじがらめの今の世の中において、逞しく豊かに生きるヒントをたっぷりと語り合ってもらった。
――共演経験はあるお二方ですが、がっつりとお芝居をしたのは『素敵なダイナマイトスキャンダル』が初めてなんですよね?
柄本:そうですね。あの時代の空気感の中、本当に自然に溶け込まれる峯田さんが、見ていてやっぱり素敵でしたね。声と佇まいが、とっても色っぽくて。シャウトするところはちょっと、というか、めちゃくちゃ格好良かった……。間近であれを受けられて、単純にいちファンとして、普通に喜びました(笑)。
――柄本さんは、いちファンだったんですか?
柄本:もちろん、音楽を聴かせていただいていました。僕、普段あまり音楽を聴かないんですけど、友達に紹介してもらって……というか高良健吾に、なんですけど(笑)。10何年か前、健吾がカラオケに行くと峯田さんの曲を歌っていて、それがきっかけで色々聴かせてもらったり、健吾に教えてもらったりして。あと、昔のライブ映像で、峯田さんが下はジャージで、上にジャケットを羽織っている姿があるんですよ。あれがめちゃくちゃ格好良くて、一時期、真似していました(笑)。
峯田:恐縮です!
柄本:いえいえ! あれ、めちゃくちゃ格好いいんですよね。印象に残っているのは、弟(柄本時生)が出た映画『俺たちに明日はないッス』で、銀杏BOYZの「17才」が入っていて。カバーしているんですよね?
峯田:南沙織さんの、はい。
柄本:あれもすごく好きで、何回も何回も聴かせていただきました。銀杏BOYZのフィルターを通したときに、「こんなに格好良くなるんだ!」と思って。もっといっぱい、銀杏BOYZのフィルターを通したアイドル曲だけのアルバムを出してほしいぐらいです!
峯田:うれしいっす。ありがとうございます。
――やばいです。のっけから話が銀杏BOYZさん一色です(笑)。
柄本:すみません(笑)! なかなかこういう機会でもないと……。1回こういうことを言っちゃうと意識しちゃうから、ちょっと恥ずかしかったんですけど(笑)。
――撮影中は、あえてこうしたお話はされなかったんですね。
柄本:撮影中は、ええ。
――今の柄本さんの熱い思いを受けて、峯田さんはいかがですか?
峯田:好きな人に言われると嬉しいです、やっぱり。
柄本:はは(笑)。
峯田:僕、本当に、現場でも、佑さんだからというわけではなく、あまりベタベタしないというか。役者も、スタッフもそうですね。どうして、というのも別にないんですけど。僕は音楽の人間というのが自分の中でありまして、なので、お芝居の世界でお仕事をするときは、簡単にベラベラしてはいけないというのは自分の中にあるんですよね。何て言うか、そんな調子こいていらんないっていうか(笑)。
――あまり近づかないようにしているんですね。
峯田:そうです。あまり仲良くならないようにしているんですよ。私語もしないし。だから、もしかしたら、皆さん「峯田は無口な人だな」って、あのときは思ったのかも? でも、僕、それぐらいの距離のほうがよくて。「用意スタート」となったときに、あまりプライベートのことを話しちゃうと、役になれないというのがあるんです。ちょっと距離を取ろう、というか。
柄本:確かに、それはあるかもしれないですね、やっぱり。
――柄本さんも仲のいい方とやられるのは難しい面もありますか?
柄本:うーん。難しいですし、仲が良くなっちゃうと、もう、あれですよね。今さら、わざわざ共演しなくても、というか(笑)。恥ずかしさもあるし。だから、きっと……、こういう言い方が合っているかは分からないけど、孤独であればあるほど面白いのかもしれないですよね。例えば、初めてとか、何回も共演しているけど、距離感は近くないほうが「用意スタート」となったときにやりやすいというか、そのほうがいいのかなとは思います。
峯田:特に今回の役に関しては、僕はちょっとベターッともしていられないな、というのもあって。「用意スタート」となって、佑さんが末井さんをやっているとき、目の流し方だったりは、やっぱりすごいなと思いました。おそらく末井さんご本人を観察して、もしかしたら作ったところもあるのかもしれないですけど。映画全体のトーンみたいなものが、目ですごく決まると思うんですよね。主演の人が持っている匂いや雰囲気で、大体その映画の色が決まる部分もあると思うんですけど、今回はそれがすごく合っていたなと思って。……偉そうにすみません……。
柄本:いえいえ! ありがとうございます。
――峯田さんは現場の撮影時も、完成作を観ても、柄本さんのお芝居にそ? ?ように感じられたんですね。
峯田:はい。笛子さんとラブホテルか何かに入って、画面の下で末井さんが寝ていて、その上に笛子さんが乗っかっているところ。ふたりがキスを交わすとき、佑さんの目がずっと天井を見ていて。
柄本:そうです、そうです(笑)。
峯田:そのときの目とか、すっごいいいんですよね。髪にかかっていて。あの目付きとかが、やっぱり、すごく……うん。ただのエロじゃなくなるんですよね、ああいう目があると。……あっ、長い髪のときはカツラだったんですか?
柄本:そうですね。長いときは中に毛も足していました。髪の毛が短くなってからは全カツラでしたね。
――髪の毛が長いとき、短いときで、だいぶ末井さんの内面の変化もありました。
柄本:短いときの時代は「どこか怪物的になって」と冨永監督から言われていたんです。「髪の毛が短くなるまでのところは青春映画で、そこから先はミステリー映画風にしたい」とも言っていて。だから本当に何を考えているか分からないようにしたというか、一喜一憂しているかもしれないし、切なく思ったり、喜んだりしているかもしれないけど、それは心の中だけで、外見には全くそのことが出ずに、ミステリアスにしたいと思ってやっていました。本当に感情が動いているように見えない。
末井さんにはいい面と悪い面があって、悪い面が出てくる分にはいいんですけど、いい人間な部分が出るとアウトなので。だから、観る側がある程度、想像できちゃう人間であってはいけないという感じですかね。髪の毛が長い状態のときまでは感情移入ができて、それ以降は感情移入ができなくなる。いい人か悪い人かも分かんなくなると。やっているときは必死でやっているから、そんなに計算しながらはやらないんですけど、できあがったものを観させてもらったときや、こうして峯田さんとお話をして、今、撮影時のことを回想してみると、「それを監督は狙われていたんじゃないかな」という感じがしています。
――人格の形成はもちろん、柄本さんは本当に出ずっぱりなので、かなりご苦労が多かったのかとも思うのですが。
柄本:自分がこれだけ出ていると、なかなか客観的に観ることは難しいです。自分ばっかりを追っかけちゃうようで、苦手なところもあるんですけど。だけど、138分の中に、これだけの分量の情報と時代が思いっきり駆け抜けていく感じは、観ていて非常に気持ちがいいんじゃないかなと思います。末井さんご本人も仰られていましたけど、「起承転結」の話ではなくて、「起承転転転転……」と続いていく、みたいな。「起承転」まできてから、髪の毛が変わってからの「転転転」となる停滞感や、青春時代の疾走感の相まった不思議な感じがあって。きっと監督の体内リズムだと思うんですけど、本当に奇妙で、末井さんという人間に非常にマッチしてくるんじゃないかなと思うんです。
――末井さんの心の友である近松さんを演じた峯田さんからも、また新しい面を見せてもらった感じを受けました。
峯田:冨永監督と仕事するのは初めてだったんですけれど、あの……台本を読んで、台詞を覚えますよね。撮影に入って、「あ、いい感じだ」と言われたのが何回かはあったんですけど、「じゃあ、もう1回撮るんで、次にこの台詞を言うときは、このコーヒーカップを持ちながら言ってみてください」とか、次々に注文がくるんですね。
柄本:(笑)。
峯田:ある程度「こういう感じでいこうかな」とかイメトレをしていくわけですよ。冨永監督は理解してくれた上で、「ちょっと次は気持ちと裏腹に、こういう感じでやってみてください」とか、次々にきて。僕……、役者じゃないので(笑)、ハードル高いんですよ、そういうこと。いきなり、ついぞついぞ注文されて、器用にそれができるわけじゃないので、ちょっとひやひやしながらやりました、今回。
――では、新しい体験といいますか。
峯田:はい。これまで、僕、大体イメトレしていって、本当に「1個しかできません!」というのをただやってきただけなので。なので、新鮮でした。
柄本:でも、そこで焦られている感じは全然、微塵もなかったですけどね(笑)。
峯田:いやあ……(笑)。だから、完成品を観るまでは不安でしたし、今も不安です。僕は映っていますけど、僕じゃないので。監督が作り上げたものだったと思うんですよね。
――本作の魅力のひとつに、昭和60年代~バブル期までの息吹が思いっきり感じられる点があります。あの時代について、どのように感じられますか?
峯田:コンプライアンスっていうんですかね。現代って、気にしまくるしかない状況で。ものを作る人は特に、何かを発表するときに「これをやったら、何か言われちゃうかな」とか。
――峯田さんも意識されていらっしゃるんですか?
峯田:します、します。こうやったら、逆に面白いなっていうの、そういうのを気にしますね。「規制が厳しいから、これはもうできないな」とかは、例えば5年前とも全然違うと思うんですよね。そう、たった5年間でも。がんじがらめになっているところに、日本はかつて、ここまでいろいろなそういうものと闘ってきた人達がいる、という記録でもある映画なんですよ。何も知らないで「これが当たり前だ」と思っている若い人に、こういうことが実は昔はできて、闘っていた人がいるんだよ、と。突き刺すというか、今やるべき、今こういう映画を公開するべきなんじゃないかなと思って。俺も今、すごいがんじがらめだけど、「いや、ちょっと、こういうことをやってみようかな?」とか、そういうヒントになるものになるといいな、と思うんですけどね。
――ある種、そういった枠のようなものは、作品作りに影響することがあるんですね。
峯田:あります。歌詞の中にこの言葉を入れたら、昔はそれが、「面白いね」とか「馬鹿じゃね」とか、笑われて済むようなところだったのに、今はもう笑えなくなってきたところもあります。本当は笑いたいと思うんですよ? ただ、笑ったら、例えば、「? ?じめっ子とかにはなりたくないけど、これやんねえと仲間外れにされっからな」みたいな感覚で、皆がその立場にいるというか。すごく空気を読んでいる感じが、包んでいると思うんです。それはそれでいいと思うんですよ? 「昔ってこういう時代があって、憧れるよね」じゃなくて、今、このがんじがらめとか、いろいろ「してはダメ」がある中でも、絶対に面白いことはあると思うので、若い人が何かをやるときに、そのヒントになればいいなと思っているんです。
柄本:今、峯田さんがお話されたように、コンプライアンスみたいなことは、作り手側も意識せざるを得ないですよね。だけど、銀行強盗をして「車に乗って逃げよう」っていうのに。
峯田:シートベルトね(笑)。
柄本:しなきゃいけないって、ね(笑)。逃げるのに、だってそれは、映画としておかしいですもんね。ただ、映画側からすると、やっぱり嘘だというところと現実と、そんな観方をしたら、俺は面白くないような気もするんですけどね。
『素敵なダイナマイトスキャンダル』は、これだけの熱量で、このような時代を疾走していた末井昭さんという方を知っていただくことにもなり得ますけど、1本の映画として事実ばかりを追うことだけじゃない何かが、すごく詰まっている映画だと思うんです。みなぎる熱量みたいなものは台本からも、現場でやっていても感じたんですね。できあがったものを多くの人に観ていただきたいですけど、僕個人としては、このもの作りの仲間になれたことが、すごく幸せなことでした。フィクション度は高いですが、実際にあった、当時の熱量や現場感は、すごくその匂いをはらんでいるので、若い人に羨ましく思っていただけると、作った側としては非常に作り甲斐があったかなと思います。(インタビュー・文:赤山恭子、写真:You Ishii)
映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』は3月17日(土)より、全国ロードショー。
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