【ネタバレ】映画クレヨンしんちゃん最新作『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』徹底解説!

アニメの風通しがもっと良くなりますように

ネジムラ89

毎年、手をかえ品をかえさまざまなテーマで劇場版を世に送り出してくれる映画「クレヨンしんちゃん」シリーズ。劇場版第31弾となる2023年は、例年にも増して様子が違います。映画しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜は、シリーズで初めて全編3DCGでの制作となる映画となりました。早速解説していきます。

映画『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』(2023)あらすじ

「20と23が並ぶ年に天から二つの光が降るであろう。」

ノストラダムスの隣町に住むヌスットラダマスの予言の通り、2023年に宇宙から二つの光が地球めがけて接近していた。その内の白い光が命中したしんのすけ(声:小林由美子)は、体に不思議なパワーがみなぎり、物体を浮遊させる超能力を獲得したのだった。

一方、もう一つの黒い光を浴びた男・非理谷 充(声:松坂桃李)もしんのすけと同じく超能力に目覚めた。立て続けに降りかかる自身の不幸から世間への復讐を誓う非理谷は、次々と悪行を重ねていく。

国際エスパー調整委員会の力を借りたしんのすけは次第に超能力の使い方を覚えていき、暗黒のエスパーとなった非理谷に立ち向かっていくのだった。

※以下、映画『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』のネタバレを含みます。

シリーズ初の全編3DCGのアニメーション映画

映画「クレヨンしんちゃん」シリーズといえば、30年以上に渡り2Dの手描きアニメーションでヒットを飛ばしてきた作品でした。部分的に3DCGを使うことは過去にもあったのですが、今作はシリーズ初の全編3DCG化した映画となっており、いつもよりも立体的なしんのすけをはじめとしたお馴染みのキャラクターが活躍します。

今回アニメーションの制作を担当したのは、『シン・ゴジラ』(2016)や『STAND BY ME ドラえもん』(2014)を手がけてきた制作会社・白組。日本でも屈指のプロフェッショナルたちの手により、構想から7年という長期の制作期間を経て公開となった映画です。

予告映像でも公開されている無彩色のしんのすけが活躍するパイロットフィルムなども存在しているようで、今回の映画の制作にあたってどのようなテイストの3DCGにするかは多くのテストを重ねたようです。一時期は『STAND BY ME ドラえもん』(2014)を思わせるようなはっきりと立体的な造形での制作も考えられていたようですが、実写映画『バクマン。』(2015)などでも監督を務める大根仁による方針により、現在のような2Dアニメーションのテイストも持ったセルルック3DCGに寄せた形となったようです。

豪華出演キャスト&主題歌アーティスト

ビジュアルこそ一新した今作の映画ですが、映画「クレヨンしんちゃん」シリーズではお馴染みのゲスト声優や主題歌アーティスト。今年も豪華な面々が参加しています。

非理谷 充 / 松坂桃李

今回の映画でしんのすけが対峙する暗黒のエスパーとなった男が非理谷 充(ひりや みつる)です。

バイトもうまくいかず、唯一の心を癒してくれるはずの推しのアイドルも結婚のニュースが報じられ、その上誤解により暴行犯にまで間違われて警察に追われる身となっていったのですが、そんな彼に暗黒の光が命中し、超能力を手に入れました。

幼い頃は家にもあまり家族が帰らない環境で育っており、学校で行事にも率先して参加しなかったり、生徒にいじめられてお金をせびられたりと、強い孤独と鬱屈した気持ちを募らせていました。

そんな非理谷役を務めるのは、俳優の松坂桃李。

これまでも『くるみ割り人形』(2014)や『くまのパディントン』シリーズ(2016〜)、『HELLO WORLD』(2019)など声のお仕事も数多く担当してきています。

深谷 ネギ子 / 鬼頭明里

しんのすけをサポートする役目を担う国際エスパー調整委員会の埼玉支部の職員が深谷 ネギコです。

彼女も超能力を使えることができ、作中では物を曲げる能力を披露しています。まだ超能力に慣れていないしんのすけに、超能力の使い方を教えに現れます。

深谷役を務めるのは声優の鬼頭明里。

『鬼滅の刃』シリーズ(2019〜)の竃門禰豆子役を始め、『安達としまむら』(2020)の安達役や『カッコウの許嫁』(2022)の天野エリカ役など近年多くの作品で主要キャラクターを務めています。

池袋 教授 / 鈴木もぐら(空気階段)

しんのすけをサポートする一人として現れる国際エスパー調整委員会の顧問が池袋教授です。

深谷ネギ子とともに突如として野原家に現れ、ヌスットラダマスの予言を教えてくれました。

池袋教授役を務めるのはお笑いコンビ・空気階段の鈴木もぐら。

映画「甘いお酒でうがい』(2019)やTVドラマ『日本沈没-希望のひと-』(2021)など役者としての仕事も多く担当していますが、アニメーションの声優は今作が初めてとなります。

ヌスットラダマス2世 / 水川かたまり(空気階段)

ヌスットラダマスの生まれ変わりを名乗り、世界征服を目論む・令和てんぷく団を率いるのがヌスットラダマス2世です。

暗黒のエスパーとなった充に接近し、事態をさらに悪化させることとなります。

実は池袋教授とは幼馴染であり、対立状況にありながらもお互いを親しく呼び合う仲だったりします。

ヌスットラダマス2世役を務めるのはお笑いコンビ・空気階段の水川かたまり。

相方の鈴木と同じくドラマ『妻、小学生になる。』(2022)やドラマ『罠の戦争』(2023)など役者としての仕事も複数経てきていますが、アニメーションの声優を務めるの今作が初めてです。

主題歌「Future is Yours」/ サンボマスター

今回映画しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』の主題歌となるのが山口隆、近藤洋一、木村泰史の3人によるスリーピースバンド・サンボマスターの「Future is Yours」です。2021年のフジロックでサンボマスターのライブを見た大根監督がオファーをして起用が実現しました。

今年は挿入歌にあの曲も登場!実は“懐かしい”一曲

主題歌の他にも映画「クレヨンしんちゃん」シリーズといえば、作中の挿入歌として実際の歌謡曲が用いられることが度々あります。

古くは『クレヨンしんちゃんヘンダーランドの冒険』(1996)で、エンディングテーマを歌う雛形あきこが本人役で登場し、作中でもそのエンディングテーマを歌う場面が登場していたり、『クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜』(2018)ではクライマックスを担う重要な曲として橋幸夫とひばり児童合唱団の「ジェンカ」などが起用されてきました。

本作でもその流れを汲むように挿入歌として深田恭子さんの「キミノヒトミニコイシテル」が、作中でも深田恭子さんの曲として登場。この曲は2001年にリリースされた自身6枚目のシングルタイトルで、当時CMソングにも起用され、呪文のようなフレーズが特徴の明るい曲。作中ではこの曲に合わせて巨大カンタムロボがダンスを踊ってくれます。

随所に盛り込まれた原作漫画のエッセンス

いつもは赤い服に黄色のズボンでお馴染みのしんのすけですが、本作ではいつものイメージカラーとは別の黄色い服に紫のズボンのデザインで登場しています。実はこのカラーは、原作者である臼井儀人が手がけた漫画「クレヨンしんちゃん」でのしんのすけカラーリング。

本作は3DCGアニメーションであることの他にも、キャラクターの表情であったりが原作漫画を彷彿とさせるものになっていたりと、今回の映画のストーリーのベースとして原作単行本26巻に収録されている「しんのすけ★ひまわりのエスパー兄妹」が起用されていたりと、従来のアニメシリーズの『クレヨンしんちゃん』からより原作漫画のテイストにも寄せた作品にもなっています。そのリスペクトの姿勢は原作漫画を意識したエンドクレジットでも発揮されています。

映画「クレヨンしんちゃん」シリーズでは、かつては作中に原作者の臼井儀人が本人役で登場したりと、原作との関係の親密さを感じさせる瞬間もあったのですが、近年ではそういう演出もなくなり、2009年にはご本人が亡くなられたこともあり、出演も叶わなくなりました。そんな中、従来とは路線を大きく変えた作品を送り出すタイミングに合わせて、改めて原作の存在を思い出させてくれる演出を盛り込んでくれるのは、原作にも慣れ親しんだ人にも嬉しく、アニメシリーズしか追ってこなかった人にはその存在を意識させてくれる貴重な機会となっていました。

しんちゃんVS.いじめっ子!3DCGだからこそ効果的

今回の映画でのサプライズとして、子供時代の非理谷に遭遇したしんのすけが次第に仲良くなっていき、非理谷を虐めるいじめっ子たちに果敢と立ち向かう様子が描かれていることがあります。

いつもなら大人相手にも平然と奇行を披露して翻弄していくしんのすけですが、今作ではこれまでとは違い、暴力をふるわれる非理谷を助けるために真剣にしんのすけは怒り、立ち向かっていくことになります。今回は3DCGになっているということでいつもよりも肉感が増していることが、より最後の喧嘩のシーンをリアルに感じさせ“暴力”の脅威のようなものを感じさせてくれます。

咎められるべきはいじめっ子たちであり真っ向から対決することにはなるものの、あくまでも彼らの更正させるような物語にはなっていません。それよりも非理谷に必要だったのは“仲間”であり、彼に手を差し伸べる存在としてしんのすけが現れたことの重要性に重点が置かれたストーリーとなっています。いじめの解決よりも根本的なみんなが幸せになることについて説く映画となっており、そのために必要なものは他者による支えである「頑張れ」という言葉に集約されています。

また、いじめっ子たちに対してみさえやひろし達ができることが限られてはいるものの、その決着がひろしの靴下であることは、子どものいじめに対して大人の介入が必要であることも示唆しているようでもありました。子どもの喧嘩やいじめへの親たちが取るべき行動や距離感は、直接殴り合いに混ざることはできなくとも大人にもできることがある。その「できること」が何なのかをケースバイケースで大人は考えていかなくてはいけないでしょう。

3DCGに寄せるという試みだけでなく、原作のエッセンスをいつも以上に取り入れたり、しんのすけをいじめの現場に放り込ませるなどしん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜は多岐にわたる挑戦に挑んだ映画となっていました。

 

※2023年8月15日時点での情報です。

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