2月2日より開催されているアニメーション・フェスティバル「GEORAMA2016」(ジオラマ2016)にあわせて、アメリカのインディペンデント・シーンで熱狂的な人気を集めるアニメーション作家ドン・ハーツフェルトが、第88回アカデミー短編アニメ賞正式ノミネートで話題沸騰となった最新作『明日の世界』を引っさげて、初来日を果たしました。
“シンプルな棒線画の魔力”を堪能する「ドン・ハーツフェルトの夕べ」
今回のイベントでは『きっと全て大丈夫』(2006年)、『あなたは私の誇り』(2008年)、『なんて素敵な日』(2012)の三部作と、最新作『明日の世界』(2015年)の計4本を一気に上映。ドン・ハーツフェルト自身が質問に答えるQ&Aコーナーでは、満席の会場内からたくさんの質問が飛び交い、とても濃密な時間となりました。
(C)Bitter Films
【ドン・ハーツフェルト プロフィール】1976年カリフォルニア生まれの短編アニメーション映画作家。14歳からアニメーションを独学で制作し始め、カリフォルニア大学の卒業制作作品『ビリーの風船』がカンヌ国際映画祭コンペティションに選出。その直後に発表した『リジェクテッド』がアカデミー賞ノミネート。YouTubeを中心とした動画サイトで人気が爆発し、カルト的人気を博す。
—最新作『明日の世界』ではどのように作品の素材作りをしたのでしょうか?
『明日の世界』は私にとってはじめてのデジタル作画の作品になります。20年間えんぴつとペンでアナログな作品づくりをしてきたので、今回は新しくコツを学んでいるというか、新しい経験をしている感覚でした。使っているツールは基本的なデジタルツールですが、私にとっては初めての経験なので、苦戦したりやりにくさを感じたりしたけれども、そこから生まれてくる効果や、本当なら使わないような特異な使い方をデジタルツールでも試したりして、見たことがないような作品づくりを考えて制作しました。
—『明日の世界』の女の子の「声」がとても魅力的ですね?
主人公の女の子エミリーの声は、私の姪っ子(4歳)が担当しました。普通のアニメーション作品のように声優が子供の声を演じるのではなく、リアルな子供の「声」を使いたいと考えていました。最初はシナリオ通りに彼女に話してもらおうと考えていましたが、4歳の女の子にはなかなか難しかったので、作戦を変えることにしました。彼女には自分の「声」を録音していることを知らせずに、写真を撮って遊んだり、外を散歩したりして一緒に遊びながら録った自然なリアクションをそのまま作品に使用しています。
WORLD OF TOMORROW from don hertzfeldt on Vimeo.
—彼女は『明日の世界』を見ましたか?
姪っ子に内緒で録音していたことは今後の信頼関係にも関わってくるので、実際に作品を見せる時にはちょっと緊張しました。『アナと雪の女王』が大好きな姪っ子ですが、自分の「声」が使用されていることで、このような奇妙な作品も見てくれるようになればいいなと思っています(笑)
—シンプルな棒線画キャラクターを好む理由はありますか?
私は、映画制作自体は学んでいたのですが、アニメーションの勉強はしていませんでした。アニメーションの作業は嫌いではないですが、それをやりたいから映画を作っているわけではないのです。シンプルな棒線画キャラクターというのは、自分のアニメーションに対する態度を率直に示していて、最低限必要なものがあればいいというスタイルがこのような表現になっているのかなと思います。
今回上映した三部作で言うと、音やナレーションなどの情報量が多いので、観客が自分自身を投影できるような空間を作ることが重要で、その際にシンプルさが非常に効いてくるのではないかと思っています。シンプルさには魔術的なところがあって、例えば「シンプソンズ」や「スヌーピー」が複雑なデザインのキャラクターだとしたら、また別の意味を持ってしまうと思います。人々が自分自身を投影できるようなキャラクターには、シンプルさが非常にマッチしているのかなと思っています。
昔はちょっとした葛藤みたいなものがあって、例えば複雑な自転車をちゃんと書きたいという時に、アニメーションの勉強をしていないので上手に書けないわけです。作品を作り続けていると、自分が得意な分野でちゃんと勝負するようになっていきます。できない分野で勝負してもしょうがないと思うようになり、視点を変化させます。自分のスタイルではやれないことが多いということは、ある種の救いになり、自分ができるスタイルをしっかりと見つめ直すことになりました。
—長い制作過程の中で、脚本を変更することはありますか?
脚本は、作っている最中に常に変化していきます。これは、自分自身が完全に一人で制作しているからこそ可能になることでもあります。これを複数人のスタジオでやっていたら、他の役割の人に迷惑をかけてしまうので、 脚本の書き直しは、一人で作業していることの贅沢ではありますね。制作過程はある種のマラソンみたいなものなので、 自分自身がエキサイトし続ける必要があり、脚本を書き直すということは(作品に)ひとつのエネルギーを与えるということにもなります。結局、自分が飽きてしまったら本当にそれでおしまいになってしまうので、脚本をどんどん書き加えていくというプロセスはかなり重要になってきますね。(取材・文・撮影 / 村田明日香)
第88回アカデミー短編アニメ賞ノミネート作品『明日の世界』の初上映が決定!
【STORY】少女エミリーはある日遠い未来からの交信を受ける。同じくエミリーと名乗るその女性は、彼女のクローンなのだという。未来のエミリーは、少女エミリーを、彼女の暮らす未来の世界へと連れていく。そこで待ち受けていたのは、「死」が消えて、永遠に生きることを余儀なくされた人々の、ボンヤリとして切ない人生の物語だった。
(C)Bitter Films
『明日の世界』World of Tomorrow / 2015 / アメリカ / 16分
<明日の世界 ドン・ハーツフェルト作品集>は、5月、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!
◆まったく新しいアニメーション・フェスティバル「GEORAMA2016」(ジオラマ2016)開催!世界のアニメーションを堪能する22日間。こちらもお見逃しなく!
開催期間:2016/2/2(火)~2/23(火)