映画『名探偵コナン 業火の向日葵』はコナン映画でも異例の作品?怪盗キッドがポリシーを曲げた理由は?徹底考察【ネタバレ】

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映画『名探偵コナン 業火の向日葵』をネタバレありで徹底解説!怪盗キッドがポリシーに反する行動を取った理由は?「名探偵コナン」シリーズの中でも稀有な作品である理由は?考察を交えて紹介中。

2015年に公開された劇場版名探偵コナン第19弾が『名探偵コナン 業火の向日葵』。ゴッホのひまわりを巡って、飛行場や美術館を舞台に、大規模な爆破事件が展開される作品でした。

実は本作は劇場版名探偵コナンシリーズでも、異質な作品と。現実世界の出来事が物語に持ち込まれていたり、コナンではなく怪盗キッド側の物語が大きく絡んできたりとこれまでのシリーズにない試みが多数盛り込まれた映画となっています。

コナン以外のことはあまり深く知らないという人のために、『名探偵コナン 業火の向日葵』が描いたコナンとは外の世界の要素を解説していきます。

名探偵コナン 業火の向日葵』(2015)のあらすじ

フィンセント・ファン・ゴッホが手がけたとされる絵画“向日葵”が新たに発見された。オークションにかけられたその絵画を落札した次郎吉は、世界各地に点在する「ひまわり」を集めた“日本に憧れるひまわり展”の開催を発表するのだった。

展示会のセキュリティ向上のスペシャリストとして毛利小五郎が選ばれたこともあり、展示会の発表会に参加したコナン。その会場に突如、怪盗キッドからの犯行予告が撃ち込まれ、ついに怪盗キッドが現れた。

※以下、『名探偵コナン 業火の向日葵』のネタバレを含みます。

そもそもアートミステリーとは?

公開時の惹句などでも強調されていたのが、『名探偵コナン 業火の向日葵』が“アートミステリー”であること。本作上映まで18作の劇場版シリーズが制作されてきましたが、アートミステリーが題材となるのは今作が初めてとなりました。

そもそもアートミステリーとはどんな作品のことを言うのでしょうか。

アートミステリーとは、絵画や彫刻品といった美術作品を題材にした謎解きが物語の鍵となる作品で、映画だけでなく小説などにも存在するジャンルです。

有名な作品がベストセラー小説を映画化した『ダ・ヴィンチ・コード』(2006)。ハーバード大学のロバート・ラングドン教授が、ルーヴル美術館の館長が死体で発見されたことをきっかけに、館長の残した暗号から美術品などを手がかりに謎を解いていくという作品でした。

名探偵コナン 業火の向日葵』も同様に、フィンセント・ファン・ゴッホの『ひまわり』が鍵となるアートミステリーとなっていました。

どこまでがフィクションなのか?

気になるのは、『名探偵コナン 業火の向日葵』はどこまでが本当で、どこまでがコナンのオリジナルの要素なのか、という点。実は今回の題材となる「ひまわり」は、実際の絵画作品を設定に多く取り入れたものとなっています。

まず、ゴッホの描いた「ひまわり」という作品は実在しています。存在自体はある程度の人はぼんやりとでも知っている人も多いと思いますが、油絵で描かれた花瓶に挿されたひまわりの絵として有名です。しかし、この「ひまわり」が連作であることは知らないという人も意外と多いのではないでしょうか。ゴッホがひまわりをモチーフにした油絵の中でも、花瓶に挿された状態の作品はまさに『名探偵コナン 業火の向日葵』で描かれたように7作品が存在します。

7作品のうち、唯一現存しない作品が存在しており、それが2番目の作品とされるひまわりです。この2番目のひまわりは、日本の山本顧彌太が購入し、日本に一時的に存在していたのですが、太平洋戦争で空襲に遭い、焼失してしまった作品です。

名探偵コナン 業火の向日葵では、この焼失してしまったひまわりが、実は焼失せずに残っていた、というもしもの物語を描いています。2番目のひまわりが日本に存在していて焼失したことまでは実際の出来事で、そのひまわりが見つかったというところからが映画のフィクションの部分です。

実際に「ひまわり」が展示されている!?

2番目のひまわりの他にも、日本にはゴッホの7つの「ひまわり」のうち1作品が収蔵されています。それが5番目のひまわりとされる「15本のひまわり」です。

この絵は、安田火災海上保険株式会社が1987年に落札したことをきっかけに、日本へやってきて東郷青児美術館に収蔵されました。安田火災海上保険株式会社は現在の損害保険ジャパン株式会社へ、東郷青児美術館はSOMPO美術館へと変わりましたが、ひまわりは変わらず展示作品の一つとして、現在も一般鑑賞可能です。

名探偵コナン 業火の向日葵ではSOMPO美術館もタイアップし、実際に劇中で展示されているひまわりが登場したり、エンドロールでは実写でも展示されている光景を観ることができます。さらには館長として、実在の館長である原口秀夫の名前で劇中にキャラクターとして登場。現実世界との親和性の高い「名探偵コナン」だからこそできる、本格的なコラボレーションとなりました。

結局キッドはなぜポリシーに反する行動を取ったのか?

実在する要素が多く登場する一方で、今回の劇場版を大きくコナンらしいドラマに仕上げてくれているのがなんと言っても怪盗キッドの存在です。キッドが狂言回しとして、物語を大きく動かしてくれました。

中でも今回の怪盗キッドの行動が、これまでのポリシーに反するという点が物語の後半まで謎として描かれています。本来、キッドは宝石しか狙わなかったり、人の命を奪うようなことはしないはずの人物。キッドが何を考えて行動を取ったのかは、映画の最後までわからないようになっています。

その真相は、一連の犯行はキッドではなく、実は宮台なつみがキッドに扮して行なった行動だったということ。宮台なつみは発見された2番目のひまわりが贋作であるという自分の意見に固執し、絵画を破壊してでも、本物扱いしたくないという歪んだ考えに発展し、ひまわりを輸送する飛行機を爆破したり、美術館・レイクロックを放火したりといった行動をとります。

あらかじめ宮台なつみが危険な思想に陥っていることを察した怪盗キッドは、ひまわりを保護するために奔走。飛行機から絵画を確保したり、レイクロックで燃やされそうになっているひまわりを安全装置に送り込んだりといった行動を取るわけです、

度々、キッドが予告状を送ったのは、宮台なつみが安易に作品に手を出せなくしたり、コナンたちに危険に気が付いてもらうためだったことが明かされます。結果的にキッドが爆破事件を起こしているように見えていましたが、実際はキッドは事件からひまわりを守ろうとしていたのですね。

キッドの動機はなんだったのか?

ではなぜ宝石しか狙わないはずだった怪盗キッドが、今回絵画に固執して危険な行動を取ってくれたのでしょうか。

宮台なつみが最初にキッドに絵画を盗むことを持ちかけるという偶然をきっかけに、ひまわりに危険が及んでいることを知り、正義感から動いたというのもあるでしょう。

しかし、それよりもキッドの目的として大きかったのは、キッドをいつもサポートしてくれる執事の寺井黄之助のため。寺井にとって大切な2番目のひまわりを彼の幼馴染のウメノに見せてあげるべく、キッドはなんとしてでもひまわりを展示させたかったのです

本作では寺井の知られざる過去のエピソードが語られ、2番目のひまわりの救出に立ち会った重要な人物だったことが明らかになります。本編ではレイクロックのモニター管理室に、鈴木次郎吉のボディーガードの後藤善悟が登場し、ひまわりを眺めるウメノに涙を流すシーンがありますが実はこの後藤の正体こそ寺井。寺井が変装していた姿だったことが最後に明らかになります。名探偵コナンの本編ではあまり登場しないキャラクターだっただけに、キッド以外に高度な変装ができる人物が登場して混乱した人も多かったのではないでしょうか。

ちなみに怪盗キッドが主役となる「まじっく快斗」シリーズでは、映画や名探偵コナン内よりも寺井が活躍。キッドに“ジイちゃん”として親しまれる、キッドに取って掛け替えのないパートナーの一人です。

美術の分野や「まじっく快斗」といった別の漫画への広がりを見せる名探偵コナン 業火の向日葵。劇場版名探偵コナンシリーズにおいても今までにない挑戦をした稀有な作品。実際の日本が舞台となっているというコナンという題材のポテンシャルの大きさを感じる映画でもありました。今後もぜひその特徴を生かして、現実世界に存在する謎や普段踏み入れない文化への入り口を作ってくれる作品となっていって欲しいです。

(C)2015 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

※2020年10月30日時点の情報です。

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