アクション、サスペンス、青春なんでもこなす!映画監督ジョエル・シューマカー作品集

劇場未公開作品を愛してやまない田舎人

フレスコの傘

御年76歳になる映画監督ジョエル・シューマカー(シュマッカー、シュマッチャーなど表記が複数ありますが、本記事ではシューマカー表記で統一させて頂きます)。この方も長年に渡って映画界で活躍している一人といっていいでしょう。

シューマカー

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Joel_Schumacher

手掛けているジャンルは近年ではサスペンスものが多いのですが、バットマンシリーズの第3作目『バットマン フォーエヴァー』や有名な『オペラ座の怪人』、ナチス製ゾンビの因縁を描いたホラー映画『ブラッド・クリーク』、吸血鬼もの『ロストボーイ』、『愛の選択』では難病もの、『ヴェロニカ・ゲリン』では実録ドラマを・・・といったように意外となんでもこなせる幅の広さが魅力的な監督です。

今回はそんなシューマカーのオススメ作品を紹介したいと思います。

カー・ウォッシュ(1976年/原題:CAR WASH)

カー・ウォッシュ

こちらは監督作品ではなく脚本のみの参加となっていますが、衣装デザイナーとして映画界入りしていたシューマカーがはじめて劇場映画の脚本を手掛けた作品なので紹介させて下さい。

洗車場で働く若者たちの日常を描いた群像劇で洗車場で働く若者、洗車場に来る客、双方ともみんな変人ばかり。といっても大きな事件が起きるわけでもなく、淡々とした日常が映されていくだけなので見方によれば少々退屈な映画かも知れません。

でも、私たちの人生も多分こんな感じ。なにも変わらない日常こそが幸せ。なにかが変わるということは犠牲を払うことでもあるし、とても面倒くさいことでもあるのだから。

日も少しずつ暮れゆく頃、仕事も終わった。さあ、わが家に帰ろう。解放感溢れるこの瞬間は映画の中でも現実でも働く者たちにとって一種の快楽ではないでしょうか。

セント・エルモス・ファイアー(1985年/原題:ST. ELMO’S FIRE)

セント・エルモス・ファイアー

大学を卒業したての若者たちが友人の事故をきっかけに集結。彼らはお互いの進むべき道を模索していくが・・・。

根強い人気を誇る80年代を代表する青春映画。アンドリュー・マッカーシー、ロブ・ロウ、エミリオ・エステベス、アリー・シーディといったブラット・パック(YAスターとも呼ばれる)俳優たちが出演していることでも有名な作品です。

画面に映るのは大人になりきれず、学生気分の抜けていないお子様な7人なのにそれぞれの抱える悩みや葛藤が丁寧に描かれている点が印象的80年代丸出しの映画なので今となっては服装やBGMなどに古臭さを感じてしまうかも知れませんが、若者たちの姿をありのままに、そして真摯に描いた作品なのは間違いないです。

そう簡単に大人になんかなれないという心情は子供と大人の狭間に漂うことしかできない年代の人間にとっては強く響くのではないでしょうか。シューマカーの若者に対する目線は、いつだって優しい。

タイトルにもなっているセントエルモの火とは悪天候時などに船のマストの先端が発光する電気的現象のことを指します。

今ひとたび(1989年/原題:COUSINS)

今ひとたび

1975年のジャン=シャルル・タケラ監督作『さよならの微笑』のリメイク作品。

身内同士の結婚で義理のいとことなったラリーとマリアはそれぞれのパートナーが共に浮気をしていることに気付く。そこで2人はパートナーを懲らしめるために恋人のふりをするのだが…。

ようするに不倫ものなのですが、不倫ものと聞くとやはりドロドロとしたイメージを持つ方が多いと思います。でも、この作品は主人公たちが不倫をする動機がかなり特殊なので、不倫映画なのにまるでピュアな恋愛映画を観ているかのように感じてしまうのです。生き生きとした男女のやり取りが本当に爽やかで、その雰囲気がドロドロとしたものを一切排除しているのでしょう。

それからシューマカーの映画は映し出す町そのものや建物の使い方が独特で面白い。そういえば『8mm』の音声解説においてロケに関しては他の映画で見たような場所は使いたくないと語っていました。このこだわりは他の作品でも顕著に表れているので舞台となる場所や建物などはシューマカー作品においてぜひ注目して欲しいポイントです。

フラットライナーズ(1990年/原題:FLATLINERS)

フラットライナーズ

死後の世界を意図的に体験しようと実験を計画する医大生5人の話。死を経験し、蘇った彼らは昔の罪を持ち帰ってしまい、日に日に過去に体験したトラウマの幻覚に悩まされるようになる。

臨死体験自体がメインなのではなく臨死体験後のそれぞれの描写に比重をおいた着眼点が非常にユニークな作品。医学的な突っ込みは色々あるかと思いますが、そういう細かい点はひとまず忘れ、作り物だからこその楽しさを味わって欲しいです。全体的に青みがかった映像はまるで死を連想させるカラーで薄気味悪いですし、臨死体験中の不思議な映像も凝っています。

キーファー・サザーランドをはじめケヴィン・ベーコン、ジュリア・ロバーツといった今となっては考えられないぐらい豪華なキャスト陣が顔を揃えているのもみどころ。当たり前ですが皆さん若い。

ちなみに本作には『死界への挑戦』と『死ぬにはいい日だ』の2つが邦題候補に挙げられていたとのことですが、前者はともかく、後者は完全にコメディ映画のタイトルっぽいですよね。

フォーリング・ダウン(1993年/原題:FALLING DOWN)

フォーリング・ダウン

些細なことがきっかけで怒りが爆発し、大暴走をしていくある男の姿を描いた作品。

主人公はマイケル・ダグラス演じるDフェンスという男。彼は酒は飲まないし、煙草も吸わない、麻薬もやらない、至って真面目な人間なのですが、きっちりと刈り込まれた髪と整った身だしなみ、そして神経質そうな見た目がその暴走具合に反してだんだんと不安になってくる。

家に帰りたいだけなのに色んな物が邪魔をする。暑いし渋滞した車は全く進む気配がないしもう無理。なんで自分だけがこんな目に?娘の誕生日を祝いたいだけなのに。おまけにハンバーガー店にあるメニューの写真と実物は全然違うし、傷んでいないのに予算消化のための道路工事はしているし、一体どうなっているんだ!!この国は!?

今まで目を塞がざるを得なかった不条理な社会背景を浮き彫りにさせながらDフェンスは怒りの暴走をはじめる。この不条理な社会背景には少なからず共感できる部分があって、その部分が上手いこと作品に深みを与えているんですよね。

またDフェンスの持っている武器がバット→ナイフ→マシンガン→バズーカと徐々にレベルアップしていくのはおもしろい演出。最終的に彼の手の中に残った物はおもちゃの水鉄砲というのはとんだ皮肉ですが・・・。

「うそでいっぱいの汚い世の中だがお前の行動は正当化できん」というDフェンスに向けられた言葉がただひたすら悲しい。

タイガーランド(2000年/原題:TIGERLAND)

タイガーランド

本作は戦争映画でありながらも戦地に赴く兵士たちの姿を描いた戦争映画ではありません。1971年のルイジアナ州ポーク基地にて基礎訓練をみっちりと叩き込まれ、鬼軍曹たちからの罵声に日々耐える新兵たちの姿を描いた作品なのです。

そんな中、上官に向かって反戦的な態度を取り続ける新兵ボズは軍紀の抜け穴を利用し、苦しむ仲間たちを除隊へと導く。このボズを演じたコリン・ファレルの型破りな人間が大変魅力的なのですが、彼の存在をどう受け止めるかで本作の評価は少なからず違ってくるだろうとも思います。

そして臨場感を出すために、名の知られていない役者ばかりを起用したスタイルと『π』や『レクイエム・フォー・ドリーム』の撮影監督で知られるマシュー・リバティークによる質の高い映像が絶妙に絡み合う。リバティークとシューマカーは後述する『フォーン・ブース』、『ナンバー23』でも再びタッグを組んでいます。

9デイズ(2002年/原題:BAD COMPANY)

9デイズ

ダフ屋とチェスのハスラーで生計を立てている男が生まれてすぐに生き別れた双子の片割れ(実はCIA諜報員だったがある事件で死亡)になりきるために9日間で諜報員のノウハウを学ぶことになるが・・・。

全くの素人が9日間のトレーニングで諜報員になれるのか?というわかりやすいストーリーと適度に挟み込まれるアクションはこれが大衆娯楽だ!と言わんばかりのわかりやすさで、なにも考えずに楽しめる作品です。最後に正義は勝つ。それがスタッフ側の望みで現実でもそうあって欲しいと製作のジェリー・ブラッカイマーも語っています。

脇を固める役者たちも相当に渋い。若白髪が印象的なジョン・スラッテリーを筆頭にガブリエル・マクト、タイガーランド』にも出ていたシェー・ウィガム、ブルック・スミス、チョイ役でピーター・ストーメアという面々が揃っています。

フォーン・ブース(2002年/原題:PHONE BOOTH)

フォーン・ブ―ス

今のご時世電話ボックスもあまり見かけなくなってしまいましたが、この作品は電話ボックス内でのやり取りを描いた作品です。

どこかで主人公の男を狙っているスナイパーから電話を切ったら殺すと電話口で脅されたために、男は受話器を離せない状況に陥ってしまうのですが、この状況が終始にわたって続くわけです。本編は81分という短さなのですが、内容的にこの尺で十分。これが120分近くもあったのならば観ている方は相当つらい。

でも演じている方はもっとつらい。かわいそうなコリン・ファレルは終始電話ボックスの中に詰め込まれた上に、ワンシーンで軽く6~8ページ分はある台詞を覚えなければならなかったそうです。ファレルの鬼気迫る一人芝居が素晴らしい!

音声解説もセットで!

映画ももちろんおもしろいのですが、シューマカーの作品は監督本人による音声解説がおもしろい。なにより監督の人柄の良さが感じられるところがいいのです。

シューマカーの作品を観た際は音声解説もセットで聞いてみてくださいね。

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    4
    コーラの値段が高かったりバーガー店でギリギリ朝食セットが食えなかっただけとかその他にも日常で誰しもちょっとは不服に思ったことがあるんじゃないかなってシーンで暴れまわってくれる主人公見てたらなんか笑っちゃった まぁ、とんだイカれ野郎の話なんだけど、なんか、なんだ、なんだろうねちょっとどこかスカッとする映画だったわ 最後エンドロール間際はちょっといたたまれなくなるけど
  • Chad
    3.7
    なぜそんなに…と思うほどのキレっぷりが魅力的です。怖いけどなかなかいいです。 A級(ランク詳細はプロフィールにあります)
  • isaram
    3.7
    人が壊れていくさまをマイケルが臨場感たっぷりに演じている。
  • commonlaw
    3.5
    過去鑑賞
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    4
    D-フェンス”と名乗る男がいた。非常に厳格で几帳面な上に、自分の価値観をハッキリと持った彼が、ある日突然、渋滞する道路に車を乗り捨てると歩きはじめた。別れた妻の元にいる幼い娘に電話をするために、両替してもらおうと入ったコンビニエンス・ストア。そこで邪険にされたことから、彼の怒りは爆発。些細な出来事は、やがて市民を震え上がらせる事件に発展していく。 積み重なる怒りと開放。 いやーこれは怖い。社会で生活しているならば、誰しもが感じるようなストレスからどんどん怒りが募っていく感覚が凄まじい。何が凄いって、登場する人物の殆どがストレスの要因になるような見ているだけでイライラする様な奴らばっかり。主人公と同様に視聴者側のフラストレーションもどんどん溜まっていく。ちょっとやり過ぎかなって感じることもあるけど、そんな不満だらけのムカつく社会を主人公がぶっ壊すようで、恐ろしいと感じながらもスカッとする自分もいる。 本作は、人間が社会に馴染むうちに忘れた怒りの開放を描いているのだと思う。楽しそうに暴力的なアニメを見ながら水鉄砲を撃ちまくる娘やバズーカの爆発で喜ぶ少年などの描写があるが、社会に染まっていない子供の方が無邪気に怒りを発散しており、人間の理性ではなく本能的な部分が持つ本来の姿なのかなと思わせてくれる。勿論、それを肯定している作品なのではなく、どのようにストレス社会と付き合っていくのかに対する正解を、事件を追う刑事を通して描いているのもおもしろい。 マイケル・ダグラスの演技が光っていた。
フォーリング・ダウン
のレビュー(3977件)