Filmarksを運営する社員に、映画やドラマ、アニメに関する「偏愛」やオススメを聞いてみる企画。第14回目は、第95回(2023)アカデミー賞ノミネート作品や、その傾向について聞いてみました!
今回のFilmarksの人
Filmarksが主催する映画館での上映企画「プレチケ」チームでプロデューサーとして活躍する渡辺さん。第95回アカデミー賞注目作品は、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『RRR』『ナワリヌイ』。
第95回アカデミー賞ノミネートの傾向は?
最多ノミネートは『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
編集:A24製作、ミシェル・ヨー主演の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が10部門11ノミネートで今回最多となりますが、本国ではA24史上ナンバーワンのヒットということで、日本公開も期待が高まりますね。
渡辺:楽しみですね。ゴールデングローブでも主演女優賞・助演男優賞を受賞していますし、何より本作で『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』や『グーニーズ』のキー・ホイ・クァン(ジョナサン・キー)が再び高い評価を得ていることにも注目しています。
編集:わかります、受賞スピーチとっても感動しました。今作のあらすじは、破産寸前のコインランドリーを経営する中国系アメリカ人の女性・エブリンが、家族の悩みや税金の問題などに頭を抱えるなか、突如現れた「別の宇宙」から来たという夫に 「全宇宙に悪がはびこっている。止められるのは君しかいない」と告げられ、マルチバースに蔓延る悪と戦うべく立ち上がる……。といった内容で、今までの作品賞ノミネートにはあまりない感じの作品というか、すごく振り切った印象ですよね。潮流が少し変わってきたのでしょうか?
渡辺:そうですね、ここ2,3年ほどコロナ渦だったのもあり、配信系の作品がかなり多くのノミネートを占めていましたが、今年は特に主要部門で減りましたね。コロナが明けて全米で映画館が稼働し始めた昨年までは、劇場公開用の作品も配信に買われていたからというのもあると思うのですが。
今回の作品賞ノミネートを見ても、変わってきたなと思う部分が幾つかあります。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が最多ノミネートなのも、そういった世間的なムードがかなり色濃く反映されているんじゃないかなと思います。
娯楽大作の劇場復活
渡辺:コロナ明けの世間的なムードとして、“解放感”だったり“迫力”が求められたのも大きいと思います。エンタメ体験としての需要が高まっているのも特徴的で、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』や『トップガン マーヴェリック』などの娯楽大作系が作品賞にノミネートされているのも納得です。うまくムードにハマったのと、公開のタイミングがドンピシャ。
作品賞は、メッセージ性が強いタイプの作品の方がノミネートされがちなんですが、この2作品に関しては「映画館に観客を呼び戻した」という功績が大きいと思います。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』に関しても、インディペンデントスタジオとしては異例のメジャー級大ヒットを出しているという点で、同じことが言えますね。
編集:なるほど。作品賞のノミネートはオーセンティックな作品が多いイメージだったのですが、コロナからの解放ムードが高まる中で娯楽大作系の需要が再び高まっているんですね。
アジア系に当たるスポット・ライト
渡辺:他に注目する点としては、アジア系俳優のノミネートの多さですかね。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァン(ジョナサン・キー)に、『ザ・ホエール』のホン・チャウなど。
2020年の第92回アカデミー賞で、『パラサイト 半地下の家族』が非英語作品として初の作品賞を受賞したあたりからこの流れは来ていると思うのですが、BLMから地続きに、人種を意識した作品が徐々に増えていて、特に近年ではラテン系やアジア系にスポットが当たっている感じがします。
世界的なK-POPブームだったり、映画だけではなくアジア系エンタメの評価が全体的に上がってきているのも大きな要因かと思います。時代の空気感が凄く反映されてますよね。
特にキー・ホイ・クァンは、人気子役として活躍した後は役に恵まれず裏方に周り、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で約20年ぶりの俳優復帰。この流れは感動しました……。実力の高さを再評価され、また色々な姿を見せて欲しいです。
編集:なるほど、たしかにBLMやMeToo以降、多様性を意識した作品が増えた気がします。昨年の『ウエスト・サイド・ストーリー』なんかも、オリジナルでは白人キャストが演じていたシャークスのメンバーを、スピルバーグ版ではオールラテン系でキャスティングされたというのも記憶に新しいです。人種やジェンダーの垣根を超えた挑戦ができる場が増えている。
渡辺:そうですね、社会の流れや時代に合わせてノミネート作品の傾向も変わっていっていますね。アカデミー賞の選考や審査に携わる協会員は映画業界で活躍している人のみで、俳優から監督、脚本家やカメラなど技術的な分野の人たちを含め約9500人の会員数となり、膨大な人数が関わってくるので、時代のムードが反映されやすくなっている。関わる人種やジェンダーの幅が広がれば広がるほど、より多くの作品に光があたるはずです。
A24の躍進
渡辺:今回のアカデミー賞では、A24作品が配給別で一番ノミネート数が多いんですよ。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を筆頭に、『ザ・ホエール』、『aftersun/アフターサン』など。
大手スタジオ系とは違うインディペンデントな勢力の躍進が著しいです。A24はここ数年でアカデミー賞受賞作品を多く輩出してきましたから、驚くことでもないかもしれないですが。益々勢いに乗っている印象です。
A24の話ついでに、『パラサイト 半地下の家族』や『燃ゆる女の肖像』などの北米配給を手がけたNEON(ネオン)も、最近の注目配給です。ここ数年でアカデミー常連になった気鋭のスタジオで、アート性の高い良作を次々と輩出していっているので、今後の飛躍に期待がかかりますね。
編集:NEONは『パラサイト 半地下の家族』で知りました。勢いがありますよね。A24は最早アカデミー賞常連で主要部門も多く獲得しているし、日本でも人気が高い。A24制作と聞くと「オッ」と思ってチェックしてしまいます。今回のアカデミーでノミネートされている作品郡も公開が楽しみです。
『RRR』歌曲賞にノミネート
渡辺:あとは、『RRR』の「Naatu Naatu」がインド映画初の歌曲賞にノミネートされでいるのが個人的にアツいですね。あの超絶足振りダンスの楽曲です。第80回ゴールデングローブ賞では非英語映画賞と主題歌賞にノミネートされ、最優秀主題歌賞を獲得しました。是非アカデミーでも…と思わずにはいられないです。
編集:インド映画といえば音楽とダンス! といったイメージですが、初のノミネートなんですね。ちょっと意外です。『RRR』は日本でも爆発的なヒットで、復活上映もやったりと益々伸びていってますが、欧米や世界各国でも大ヒットしているので期待が高まりますね……!
渡辺:世界の評価も高いし、興行も凄まじく伸びていて、今後のインド映画への架け橋となる作品だと思います。まだ観ていない方は、是非!
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※2023年2月27日時点での情報です。